43.悪党
物事には流れがある。
一旦動き出した流れは次の機会を呼ぶ。
シュルツ卿とウィノラが北の塔に帰ると、
デレックスが2人を待っていた。
「前王妃の婚姻前の男がわかった」
「婚姻前に付き合っていた男がやはりいたのか」
シュルツ卿は珍しく吐き出すように言った。
「相手は裏稼業の男で、そいつの家で一緒に暮らしていたらしい。前の陛下との婚姻直前までな」
ウィノラが驚いているのを見て、シュルツ卿はそっと手を握る。
「名前はガウス。金髪碧眼の色男で有名だったそうだ。しかし裏では人身売買、人殺し、ゆすり、たかり、何でもありの屑野郎だ」
いつも上品で知性ある義兄にしては珍しい物言いにウィノラはポカンとする。
それに気付いたデレックスが慌てて謝る。
「ウィノラ、口が悪かったね。
申し訳ない」
「デレックスがそれほど言うくらいの悪党という事か」
シュルツ卿はさりげなく援護に回る。
「で、そのガウスは今何処に」
シュルツ卿はズバリ聞いた。
「死んだ」
シュルツ卿とウィノラに衝撃が走る。
「それも最近の事だ」
「最近だと」
「つい数ヶ月前までは元気に悪事を働いていた。まぁ、前王妃が嫁いでからは異様に金回りが良かったらしく、昔ほど頻繁に手を染めていたわけではないが、屑の習性で悪事はやめられなかったのだろう」
「数ヶ月とはいつ頃だ」
「ヒーディ夫人の懐妊発表の半年前。
襲撃がある少し前だ」
「死因は」
「焼死。家が全焼し丸焼けだったそうだ」
全ての符号が一致する。
「ヒーディ夫人は懐妊し、お腹の子の力で強大な魔法と魔力を手に入れた。
自らの薄暗い秘密を隠すために、おそらく毒蛇シュレヒテ侯爵を使い火魔法でガウスを消した」
シュルツ卿の言葉にウィノラは震えた。
「ご自分の実の父親かもしれないのに」
「実の父親だからこそですよ。
それが暴かれれば、王位簒奪という大望が消えてしまいますからね」
デレックスが口を挟む。
「いや、私はむしろ毒蛇主導なのではないかと考えている。あの軽薄で衝動的なヒーディ夫人にしては綿密に事が進みすぎている」
「ガウスが殺されたという証拠も皆無か」
あの毒蛇が証拠を残すとも思えない。
「御明察」
皮肉めいた口調でデレックスが肯定する。
「諜報部も合わせて、ガウスの金の出どころや、当時の人間関係、火事の詳細も洗い直してはいるが」
そこでデレックスが渋い顔をしたのでウィノラが思わず尋ねる。
「お義兄さま、如何されたのです」
「あまり、ウィノラには聞かせたくないが、
証人を深追いすると、消されてしまうんだ」
ウィノラはぶるぶる震える。
シュルツ卿はウィノラの肩をぎゅっと抱きしめ引き寄せる。
「それだけ冷酷無比の悪党たちという事だ。
我々も気をつけていかなければいけないな」
シュルツ卿の言葉にデレックスが不気味な事を付け足した。
「いや、むしろ気をつけるべきは、我々ではないのかもしれない」




