41.ミーナ・デューラー伯爵夫人
魔法師団へ向かう馬車の中で、ウィノラはシュルツ卿に尋ねた。
「ノア様はデューラー伯爵夫人を良くご存知なのですよね」
目線を下げて尋ねるウィノラに、おや、と思いながらシュルツ卿は答える。
「ええ、素晴らしい女性ですよ。
それになかなか豪快な方です」
「豪快ですか」
ぽかんとするウィノラの頭をそっと優しく撫でながらシュルツ卿は笑った。
「一癖も二癖もある魔法師団の副師団長ですからね。肝の座ったお方ですよ」
白魔法の使い手のイメージとは重ならない。
「私の直属の上司でしたが、随分とこき使われました」
「お会いすればわかりますよ」
シュルツ卿の言葉に頷きながら、ウィノラはもうひとつの疑問を口にする。
「デューラー伯爵夫人はお元気なのですよね」
「すこぶる」
「御生まれになった御子様はいかがでしょうか」
シュルツ卿はそこでウィノラの言わんとすることを察した。
「息子のベンノも魔法師団所属ですよ。
母君と同じ貴重な白魔法の使い手です。
すこぶる健康で今の姿を見たらお腹の中で育ちが悪かったなどと言う事が信じられないくらいにね」
「見かけ同様、おおらかでどっしりとしたいい男です」
「母子共に魔法による弊害は見受けられないですね」
ウィノラは一を聞いて十を知るシュルツ卿に舌を巻いた。
「ノア様にはお見通しでしたね」
そうなのだ。
産月を悪意で延ばした場合には、魔法魔力の元になる母親若しくは子に弊害が起きる。
しかし、善意であれば弊害は起きず、これならむしろ多大な益があるのかもしれない。
これは新たなる仮説だ。
もし、この仮説が立証され、公となれば
もっと多くの証言が得られるに違いない。
だが、それには悪意を持って使用し、簒奪を図る者たちを断罪してからだ。
魔法師団に到着し、中に入ると、たくさんの団員が声を掛けてきた。
「副長、久しぶりです」
「副長、会いたかった」
抱きつかんばかりの歓迎ぶりに、フォルカーのいつもの態度に合点がいく。
隣りに寄り添うウィノラを見てある団員が叫ぶ。
「まさか、副長とうとうエックハルト伯爵令嬢とご結婚が決まったのですか」
回りの団員たちが一斉にどよめく。
「おめでとうございます」
「副長、念願叶って良かったですね」
「お似合いだ」
戸惑うウィノラの肩を抱き寄せ、シュルツ卿は宣言した。
「結婚はまだだ。今日は副師団長にご挨拶に来ただけだよ」
「まだだ」と言う言葉にますます戸惑うウィノラの肩を抱き、シュルツ卿は副師団長室へ足早に向かった。
副師団長室に着くと、扉を叩き「入れ」との声で入室する。
中に入ると、ガタイの良い生き生きとした赤毛の女性が立っていた。
「ノア、久しぶりだな。
来ると連絡が来たが、一体何をしに来るのかと思ったよ。また無理難題じゃないだろうね」
デューラー伯爵夫人は何というか、サバサバとした男らしい方だった。
「ミーナ、こちらはウィノラ・エックハルト伯爵令嬢です」
礼儀正しいシュルツ卿は意に介さず紹介を始める。
「ウィノラ、我が魔法師団副師団長、ミーナ・デューラー伯爵夫人だ」
ウィノラの初めましての挨拶も終わらないうちにデューラー伯爵夫人は話始めた。
「これは驚いた。
噂のエックハルト伯爵令嬢を連れて来るとは、結婚でも決まったか」
「念願叶って良かったじゃないか、ノア」
「コホン」と咳払いして、シュルツ卿は気まずそうに否定する。
「本日は陛下の命にてお伺いしたき事がありまして、お時間をいただきました」
副師団長にまで、噂の、念願叶って、を連発され目を白黒させて戸惑うウィノラである。
陛下の命との言葉に、すっと佇まいを正した
デューラー伯爵夫人は聞いた。
「で、聞きたい事とは」




