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棄てられ姫は誰にも愛されない  作者: 鷺森薫
アインホルン王国編
39/70

39.朗報


ウィノラは踊るような足取りで、同じ階にある執務室へ駆け込んだ。


扉を叩くや否や、入って来たウィノラにシュルツ卿は驚きを隠せなかった。


「いつもあれほど冷静で淑女であるウィノラが礼も忘れるなど、何があったのだろう」

心のうちは柔らかな微笑みに隠してシュルツ卿は聞いた。


「ウィノラ、どうしたのです」

いつのまにか、ふたりの時は呼び捨てになっていた。


「ああ、ノア様、私間違えておりましたわ。

イエルが教えてくれました。

きっと解決の糸口になりますわ」

ウィノラにしては珍しく要領を得ない早口であったが、ここ数ヶ月見なかった晴れ晴れとした笑顔にシュルツ卿は心からホッとした。


「ウィノラ、何があったのか教えてくれますか」

優しく手を取り悟すと、ウィノラは真っ赤になり謝る。


「ノア様、ごめんなさい。

あまりに嬉しくて、礼を失してしまいました」


シュルツ卿は片手で可愛らしいウィノラの頬をそっと撫でながら言った。

「構いませんよ。貴女の嬉しそうなお顔が見られるなら」


ふたりは暫し見つめ合った。


ドンという音がしてふたりが振り向くと、

エックハルト伯爵が悪鬼の様な形相で入室してくる。


「何をしておるのかな」

地獄からの呻き声のようだ。


「お父さま、イエルが、イエルが、解決の糸口を教えてくれましたの」

エックハルト伯爵の形相にも意を介さずに、

嬉しそうに答えるウィノラにエックハルト伯爵は一瞬固まった。


「ウィノラ、何と楽しそうじゃ」

うんうんと頷くエックハルト伯爵を尻目に、

シュルツ卿はウィノラに尋ねる。


「それで何があったのですか」

愛しい人、と付け足しそうになったが、エックハルト伯爵の手前、口を噤む。


「はい、私は根本的な事を間違えておりました」

ウィノラは図書室でのイエルとのやり取りを話した。


「なるほど、それなら探し方が根本的に変わりますね」

シュルツ卿の言葉にウィノラは頷く。


「始めに悪意ありき、で探しても中々見つからないわけです。母親の無償の愛に基づく事例ならおそらく探し出せるのではないでしょうか」


「確かに罪にも問えないでしょう」

悪意から来る産月の引き延ばしは重罪だが、

子を思い、自らも犠牲にしようとする母親を罰する事が出来ようか。


「陛下とデレックスに連絡し、洗い直しましょう。エックハルト伯爵、諜報部へも指示願います」


「わかりましたぞ」

エックハルト伯爵はウィノラの明るい顔が嬉しくて、今の今まで、シュルツ卿とウィノラの握りあう手とウィノラの頬に添えられた手の存在を忘れていた事に気付いた。


やおら、ふたりに近づき、握られた手を離そうとすると、ニコニコ微笑むウィノラのもう一方の手で、上から握られ、結果、三人で手を重ね合わせる状態になってしまった。


シュルツ卿とエックハルト伯爵は複雑な気分であったが、幸せそうに微笑むウィノラを見ると、暫くそのままの態勢に甘んじるしかなかった。



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