35.対面
仲間となったイエルは結界を通り、塔内へ入る。
「イエル、ここで起こった事は全てが、国家の最高機密になる。だから、塔外の人間に、ここでの事をどんな些細な事でも他言してはならない。わかるね」
シュルツ卿の言葉にイエルが姿勢を正す。
「はい」
「もちろん、外部にも信頼できる味方はいるが、その方たちはおいおい紹介しよう」
「イエル、君は立派な土魔法の魔法書を持っている。魔力はまだ微弱だが、努力すれば、一流の土魔法の使い手になれるだろう」
「その力を王女様を守るために貸してくれるか」
イエルは感動していた。
僕はなんて恵まれているのだろう。
あれだけの事をしでかしたのに、
僕を良い方へ導いてくれる人がこんなにいる。
ホフマン伯爵夫妻、エックハルト伯爵、ウィノラ嬢、そしてシュルツ卿。
必ず、立派な土魔法の使い手になり、みんなの役に立ちたい。
そして、王女様を守りたい。
「はい。必ずや、立派な土魔法の使い手になり、皆さんの役に立つ人間になってみせます」
シュルツ卿はにっこりと笑い、言った。
「塔で働いて貰えば給金もきちんと払うし、
故郷のご家族については、ベルガー侯爵に、きちんと安全と生活をみてくださると約束していただいたから、心配は要らないよ」
「ありがとうございます」
思わず大きな声になったイエルであった。
「それでは我らの王女様に会いに行こう」
シュルツ卿は笑って言った。
王女の部屋まで歩きながら、イエルはシュルツ卿、エックハルト伯爵、ウィノラを交互に
見て、新しい家族が出来た喜びに浸った。
部屋に着くと、そこには更に優しそうな女性たちがいて、ひとりの腕の中には、見た事もないほど美しい赤ん坊が抱かれていた。
「なんてキレイな子」
イエルの思わず出た呟きに皆から忍び笑いがおこる。
「王女様だよ、イエル。
正式なお名前は1歳の誕生日に神官から授かる。それまでは王女様とお呼びするんだ」
イエルは目を輝かせて頷いた。
「はい、これからずっとお守りします、王女様。よろしくお願いします」
大きな声で挨拶するイエルに王女が顔を向けて笑ったように見えた。
「また、王女様のお気に入りがひとり増えたわい」
溺愛している王女様のお気に入りが増えるのは、嬉しい事ではあるが、ライバルが増える事でもある。
エックハルト伯爵の心中は、少し複雑であった。
イエルの部屋は2階の居間の奥にある、門が良く見える部屋に決まった。
「その階にはイエルしかいないが、寂しくないか」
シュルツ卿に言われ、イエルは笑った。
「ひとり部屋なんてホフマン伯爵さまのところが始めてでした。悠々と寝られて、すごく嬉しいのです」
人の少ない塔の中だ。
本当は少し怖いに違いないのに、そう言ってくれるイエルの優しさが嬉しい。
「怖かったら、私の部屋で一緒に寝ましょう」
ウィノラが優しく言うと、エックハルト伯爵が大声で止めた。
「ウィノラはダメじゃ。私のところへ来なさい」
いつの間にか、連絡係だった筈のエックハルト伯爵は塔の4階の執務室の奥の仮眠室として使われていた部屋に住み込んでいた。
もちろん、その事については誰も何も言わない。エックハルト伯爵は頼れる仲間だったからだ。
しかしながら、誰もが、イエルはエックハルト伯爵の部屋へは行かないな、と思ったのは内緒の話である。
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