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棄てられ姫は誰にも愛されない  作者: 鷺森薫
アインホルン王国編
32/70

32.ヒーディの懐妊


「母親がお腹の子の魔法や魔力を使って、イエルの土魔法を強大化して連射させ、更には魔力と姿を無視覚にしたというのですか」

ウィノラは驚愕してエックハルト伯爵とホフマン伯爵を交互に見た。


「無い事ではない、というより今までもあった。あまり、表沙汰にはしておらんがな」


エックハルト伯爵がウィノラに頷く。


「お腹の子が生まれたらどうなるのですか」


エックハルト伯爵は少し笑いながら答える。

「子が生まれてしまえば、母親には何の影響も及ぼさなくなる」

「だから後9ヶ月の攻防だろう。

いや、待て、更に1、2ヶ月延びる可能性もある」


ウィノラは意味がわからず、聞いた。

「どういう事ですか」


「40週を過ぎても産まないで2ヶ月引き延ばした例が過去に幾つかある」


ホフマン伯爵夫人も驚いて尋ねる。

「そんな事が出来るのですか」


「お腹の子の魔法や魔力が強大なら可能だ。

 子が腹にいるうちは、母親が自在に操れる」


ホフマン伯爵夫人とウィノラが愕然としていると、更にエックハルト伯爵は続けた。


「ただ、子に悪影響を及ぼすので、普通の母親ならそんな事はしない」

「でも」


そうだ、あのヒーディならやりかねない。


「悪影響というのはどんな事ですか」

ウィノラが勢いこむと、エックハルト伯爵は落ち着きなさい、と言い、手で制した。


「精神崩壊、奇形、魔力操作不能など、致命的なものばかりですな」


「でも、大切な侯爵家の跡取りで、ましてや、他にも野望がおありなら、そんな事はなさらないと思いますが」


エックハルト伯爵の今の言葉で、ウィノラは凄く嫌な仮説を立ててしまった。

「その事については北の塔に帰ってから、

シュルツ卿も一緒の時に話してみよう」と

心の中で呟いた。


エックハルト伯爵は呆然としているイエルに優しく微笑んで言った。


「話が逸れて申し訳無かったね、イエル。

続きを聞かせて貰ってもいいかい」


イエルは小さく頷くと、唾をごくんと飲み込み、また、話し始めた。

「体が縛りみたいなものから解放されたと思った瞬間に気を失っていました。

気がつくとモッペルの家に寝かされていて、

今日あった事は誰にも話すな、話したら、田舎の家族がどうなるかわかっているな、と旦那たちに脅されて」

「伯爵の家に戻された時も、お話しようと思ったのですが、家族に何かあったらと、怖くて言えなかった」


イエルが再び涙を流す。

「本当にごめんなさい」


それを聞いたエックハルト伯爵が、ホフマン伯爵に言った。

「どうだろう、ホフマン伯爵。

伯がこのイエルを大切に思っているのはわかっておるが、ここは、私とウィノラに預けてみてはくれんかね」


ホフマン伯爵は寂しそうに頷いた。

「それが最善でしょう。イエルを守り、そして正しい使い手になるよう導いてやってください」


ホフマン伯爵夫人は涙ながらにイエルに言った。

「たまには、ここへ帰ってきて頂戴ね。

ここはもう、あなたの家なのだから」


イエルは戸惑って聞く。

「僕は罰せられるのでは、無いのですか。

あんな事をしたのに」


ウィノラは優しく微笑み言った。

「あなたが進んでやった事ではないのですから、罰したりしませんよ」


エックハルト伯爵はイエルに言った。

「もし償いたいと思うなら、その魔法のチカラを磨いて、人を助けられる使い手になる事じゃ」


イエルは更に大声で泣き、頷いた。




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