30.イエルの告白
「イエルは罪に問われるのでしょうか」
ホフマン伯爵夫人は涙を堪えながら尋ねる。
「イエルに会って話を聞かない事には何とも言えませんが、何も知らずにただ利用されただけなら、罪に問われる事はないでしょう」
「イエルに会わせていただけますか」
ホフマン伯爵は優しそうな緑色の瞳に涙を浮かべ言った。
「イエルを預かっていたのは、このホフマンです。もし、あの子が罰せられるなら、先に私が罰せられるべきです、エックハルト伯」
本当に心の底からおっしゃっている、とウィノラは不思議な感動を覚えた。
この方には嘘や偽りが一切ない。
だからこそ、王国の良心、まさにそのものなのだと。
「ホフマン伯爵、貴方が罰せられるなら、王国の全ての人間が罰を受けなくてはならないでしょう」
ホフマン伯爵は自らイエルを呼んできます、と言い夫人と共に退室した。
「あれほど大切にしてくれるホフマン伯爵夫妻がいるのなら、イエルが間違った方向へ向かう事はないと思います」
ウィノラはエックハルト伯爵に願いも込めて呟いた。
しばらくして、ホフマン伯爵夫妻に連れられ
10歳にしては背の高い、ひょろっとした男の子が入ってくる。
亜麻色の髪と瞳を持つ利発そうな子だ。
ホフマン伯爵夫妻が用意したであろう衣服も立派なもので、ちょっと見、貴族の子息と見まごうほどだ。
そして1番肝心な事、間違いなく、土の魔法書を持っていた。
「イエルです。エックハルト伯爵」
ホフマン伯爵が紹介する。
「君がイエルか。
私はエックハルト伯爵、こちらは娘のウィノラだ」
「君にいろいろと聞きたい事があってお邪魔したんだ」
エックハルト伯爵が優しい口調で語りかける。
イエルはエックハルト伯爵を真っ直ぐに見て
言った。
「この間の事なら、ホフマン伯爵夫妻は全く関係ありません。魔法を使ったのは僕です。
罰するなら僕だけにしてください」
イエルは涙目で必死に頼み込む。
しっかりしているな、とエックハルト伯爵は感心した。
「心配せんでもホフマン伯爵夫妻が罰せられる事はない。だから安心して、何があったか話してくれるか」
エックハルト伯爵は更に優しくそう言って笑った。
イエルは不安そうに目を泳がせていたが、ウィノラと目が合い、にっこりと優しく微笑まれると、ポッと頬を赤らめ、下を向いて話し始めた。
「僕はベルガー侯爵様の領地の山奥の村にいました。親は鍛冶屋をしてますが、兄妹が6人もいて、暮らしが大変でした」
「僕は上から2番目で、1番上の姉さんはこの春、近くの町に下働きに出ました。でも暮らし向きは良くならなくて」
「そんな時にモッペルの旦那と弟が村に来たんです。僕に魔法の才能があるか試してみて、もしあれば、シュナイダー商会で雇ってくれるって」
イエルは涙を流しながら一生懸命に話す。
ウィノラが優しく頷くと、また話しを続ける。
「2、3年前から怒ったり、悲しんだり、感情的になると、体から小さな魔法が出て、近くに有るものを少しだけ壊したりするようになったんです」
「すごい力ではないけど、魔法が使えるなら大きな商会で働けて、皆が幸せになるかなと思って、モッペルの旦那と弟について行ったんです」
「行ったのは高い山が連なるところで、山に向かって立たされて魔法を使ってみろと言われました」
「でもどうしても魔法は使えなくて、そしたら、旦那に殴られたんです。痛くて気が遠くなったんですけど、だんだん怒りが湧いてきて、そしたら魔法が出たんです」
エックハルト伯爵は頷く。
「それで山の一部を崩落させたんだね」
イエルは被りを振って否定した。
「僕の魔法は小さなものでした。でも誰かが
魔法を大きくしたんです」
「背後に誰かいると思って振り向こうとしたら、旦那の弟に羽交い締めにされて、振り向くな、と言われました」
「誰かは見ておらんのだね」
ため息混じりにエックハルト伯爵が尋ねる。
「はい。その時は」




