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棄てられ姫は誰にも愛されない  作者: 鷺森薫
アインホルン王国編
30/70

30.イエルの告白


「イエルは罪に問われるのでしょうか」

ホフマン伯爵夫人は涙を堪えながら尋ねる。


「イエルに会って話を聞かない事には何とも言えませんが、何も知らずにただ利用されただけなら、罪に問われる事はないでしょう」

「イエルに会わせていただけますか」


ホフマン伯爵は優しそうな緑色の瞳に涙を浮かべ言った。

「イエルを預かっていたのは、このホフマンです。もし、あの子が罰せられるなら、先に私が罰せられるべきです、エックハルト伯」


本当に心の底からおっしゃっている、とウィノラは不思議な感動を覚えた。

この方には嘘や偽りが一切ない。

だからこそ、王国の良心、まさにそのものなのだと。


「ホフマン伯爵、貴方が罰せられるなら、王国の全ての人間が罰を受けなくてはならないでしょう」


ホフマン伯爵は自らイエルを呼んできます、と言い夫人と共に退室した。


「あれほど大切にしてくれるホフマン伯爵夫妻がいるのなら、イエルが間違った方向へ向かう事はないと思います」

ウィノラはエックハルト伯爵に願いも込めて呟いた。


しばらくして、ホフマン伯爵夫妻に連れられ

10歳にしては背の高い、ひょろっとした男の子が入ってくる。

亜麻色の髪と瞳を持つ利発そうな子だ。

ホフマン伯爵夫妻が用意したであろう衣服も立派なもので、ちょっと見、貴族の子息と見まごうほどだ。

そして1番肝心な事、間違いなく、土の魔法書を持っていた。


「イエルです。エックハルト伯爵」

ホフマン伯爵が紹介する。


「君がイエルか。

私はエックハルト伯爵、こちらは娘のウィノラだ」

「君にいろいろと聞きたい事があってお邪魔したんだ」

エックハルト伯爵が優しい口調で語りかける。


イエルはエックハルト伯爵を真っ直ぐに見て

言った。

「この間の事なら、ホフマン伯爵夫妻は全く関係ありません。魔法を使ったのは僕です。

罰するなら僕だけにしてください」


イエルは涙目で必死に頼み込む。

しっかりしているな、とエックハルト伯爵は感心した。


「心配せんでもホフマン伯爵夫妻が罰せられる事はない。だから安心して、何があったか話してくれるか」

エックハルト伯爵は更に優しくそう言って笑った。


イエルは不安そうに目を泳がせていたが、ウィノラと目が合い、にっこりと優しく微笑まれると、ポッと頬を赤らめ、下を向いて話し始めた。


「僕はベルガー侯爵様の領地の山奥の村にいました。親は鍛冶屋をしてますが、兄妹が6人もいて、暮らしが大変でした」


「僕は上から2番目で、1番上の姉さんはこの春、近くの町に下働きに出ました。でも暮らし向きは良くならなくて」


「そんな時にモッペルの旦那と弟が村に来たんです。僕に魔法の才能があるか試してみて、もしあれば、シュナイダー商会で雇ってくれるって」

イエルは涙を流しながら一生懸命に話す。

ウィノラが優しく頷くと、また話しを続ける。


「2、3年前から怒ったり、悲しんだり、感情的になると、体から小さな魔法が出て、近くに有るものを少しだけ壊したりするようになったんです」


「すごい力ではないけど、魔法が使えるなら大きな商会で働けて、皆が幸せになるかなと思って、モッペルの旦那と弟について行ったんです」


「行ったのは高い山が連なるところで、山に向かって立たされて魔法を使ってみろと言われました」


「でもどうしても魔法は使えなくて、そしたら、旦那に殴られたんです。痛くて気が遠くなったんですけど、だんだん怒りが湧いてきて、そしたら魔法が出たんです」


エックハルト伯爵は頷く。

「それで山の一部を崩落させたんだね」


イエルは被りを振って否定した。

「僕の魔法は小さなものでした。でも誰かが

魔法を大きくしたんです」


「背後に誰かいると思って振り向こうとしたら、旦那の弟に羽交い締めにされて、振り向くな、と言われました」


「誰かは見ておらんのだね」

ため息混じりにエックハルト伯爵が尋ねる。


「はい。その時は」



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