29.訪問
デレックスは最後に、こう言って帰っていった。
「イエルのように、どこかに埋れている魔法書持ちを、あちらがまた探さないともかぎりませんので、そちらの調査も合わせてしておきます」
「イエルの今後につきましては、義父上に一任いたしますのでホフマン伯爵と良くお話ください。どこも引き取り手が無いなら、うちで引き受けますので」
エックハルト伯爵はため息をつき、
「それでは私もホフマン伯爵を訪問しようか」
ウィノラがエックハルト伯爵に駆け寄り、
嘆願した。
「お父さま、どうか私もお連れください」
エックハルト伯爵が困ったようにシュルツ卿を見る。
「イエルが心配なのですね。
分かりました。お行きなさい。
そして、もしイエルがこの北の塔に、王女様に仕えると言う事に値する子どもなら、ここへ連れて来てください」
「頼みましたよ」
ウィノラは感謝してスカートをちょっと持ち上げ御辞儀をする。
「それでは行くぞ、ウィノラ。
シュルツ卿、塔の家紋なしの馬車を借りますぞ」
エックハルト伯爵に頷き、シュルツ卿は呟いた。
「良い方へ向かうといいが」
エックハルト伯爵とウィノラを乗せた馬車は
北の塔からそう遠くないホフマン伯爵邸に
あっという間に着いた。
「これだけ近いなら、確かに都合も良かっただろう」
エックハルト伯爵の呟きにウィノラも頷く。
執事に案内され、簡素だが品がある応接間に通される。
「ホフマン伯爵もモッペルの事は気づいているだろうしな」
そこへホフマン伯爵と伯爵夫人が連れだって現れた。
「エックハルト伯爵、よくいらした」
何て素敵なご夫妻かしら、とウィノラは思った。
優しさに溢れ、品性を感じる。
いつか、私もこんな夫婦になれたら、どんなに素晴らしい事か、と考えて、その相手にシュルツ卿を思い浮かべた自分に赤面する。
「ホフマン伯爵、急な訪問をお許し願いたい。不測の事態がありましてな。ご相談に伺ったのですよ」
エックハルト伯爵が切り出す。
ホフマン伯爵は頷いて言った。
「どうぞお座りください」
品の良い薄緑色の長椅子に腰掛けると、ホフマン伯爵が言った。
「イエルの事ですね」
ホフマン伯爵は辛そうだ。
「ホフマン伯爵にはお辛い事ではありますが」とエックハルト伯爵が事の次第を説明する。
ホフマン伯爵と夫人の顔がみるみる青ざめていく。
「そういう訳で、イエルの今後についてご相談に上がったのです」




