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棄てられ姫は誰にも愛されない  作者: 鷺森薫
アインホルン王国編
28/70

28.ホフマン伯爵


「ホフマン伯爵ですと」


大きな声を出したのはエックハルト伯爵だったが、他の三人も驚き動揺した。


「正しくホフマン伯爵。

魔物討伐後、王国全土に緑魔法で緑を取り戻してくださった、王国の良心、の二つ名を持つあのホフマン伯爵です」


あの大災害級の魔物討伐後、瘴気に満ちた国土の浄化をヒーリーヌ王妃が行ったが、広い国土と強い瘴気で、魔力が弱ってしまった。


それを聞き、魔物討伐で負った傷が癒やし魔法でやっと完治したばかりのホフマン伯爵が

国土の緑化に奔走してくれたのだ。


性格は温厚で慈悲深く、誰からも慕われる王国の良心。


シュルツ卿は苦笑いして言った。

「ベルガー侯爵、シュナイダー商会とエックハルト伯爵、そしてホフマン伯爵。

アルベアト王が最も信頼する国の重臣たちを狙い撃ちですね」


デレックスは頷きながら、続ける。

「女はホフマン伯爵の邸で下働きをしているモッペルと言い、イエルはその後ホフマン伯爵邸で暮しています」


エックハルト伯爵は、ああ、と頷きながら、

説明する。

「ホフマン伯爵は本当にいい男でな。奥方もいい方なのだ。行く当てのない子どもを連れてこられたら、世話をするだろう」


デレックスが繋ぐ。

「そうなのです。あの襲撃の日はモッペルがイエルを邸から何やら理由をつけて連れ出しました」


「モッペルと二人組、モッペルの情夫とその弟は既に捉えて尋問しました。

モッペルの情夫は金で雇われただけだと供述しています」


「雇った男は裏社会では名の通った男で、

毒蛇と呼ばれています。本名は誰も知りません。いつも黒く深いフードで顔を隠して現れて、まともに顔を見たという者はいない」


フォルカーが口を挟む。

「顔を見た者は、後から変死体で見つかるからでしょ」


ウィノラが怯えたようにシュルツ卿の袖を掴む。

それを見たエックハルト伯爵がシュルツ卿の袖からウィノラの手を外しながら言った。


「毒蛇が誰か見当はついていますがな。

証拠が出ない」


男性4人が頷くのを見て、ウィノラは呟いた。


「シュレヒテ侯爵」


エックハルト伯爵はウィノラに諭す。

「ウィノラ、証拠も無いのに、名前を出してはいけないよ」


ウィノラは頷く。

「はい、お父さま」


素直で優しくてその上才覚もある、素晴らしい令嬢だ、とシュルツ卿はあらためて思った。


魔法師団で初めて見かけた時は美しい令嬢と思っただけだったが、フォルカーを訪ねてくるたびに、その優しさや素直さ、そして知性を好ましく思うようになった。


隠しているわけではないが、どうも今では、その思いは周知の事実のようだ。


デレックスが続ける。

「毒蛇については証拠探しをしていますが、

おそらく今回も尻尾は掴めないでしょう」


全員が頷く。

「モッペルとその情夫と弟は、憲兵へ引き渡しますが。問題は」


「イエルとホフマン伯爵ですな」

エックハルト伯爵が答える。

伯爵は片手を少し上げ言った。


「また、私の出番ということですな」


デレックスは済まなそうに詫びた。

「私の方で解決すると言っておきながら、申し訳ありません」


エックハルト伯爵は又片手を上げ今度はデレックスの言葉を遮る。

「デレックス殿は利用されたホフマン伯爵の心配をしてくれたのであろう。

あの公明正大で優しい男がどれほど傷つくことか」


デレックスは頷く。

「突然私が話すより、お義父上からお話いただけば、傷も浅いかと」


エックハルト伯爵は自虐気味に笑う。

「私もベルガー侯爵も嵌められたと話せば、

ホフマン伯爵の気も楽になるだろうしな」


シュルツ卿が気になっていた事を尋ねる。

「イエルについてはどうなんだ。あれだけの魔法を10歳の子どもにコントロールできるものなのか。出来なければ、かなり危険だ」


デレックスは厳しい顔で答えた。

「イエルに今のところは、それ程の魔力がない事はわかっている。おそらくホフマン伯爵も魔法書は見えるが、魔力がそれ程でもないので、王宮にも報告していなかったのだろう」


「魔力操作」

ウィノラは手のひらをグッと握りしめた。







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