25.疑惑
「シュナイダー商会」
エックハルト伯爵は目を見開き暫し動きを止めた。
ベルガー侯爵は首を横に振りながら言った。
「まんまとしてやられましたな。伯も私も」
もちろんシュナイダー商会が魔法書持ちの子どもを雇い入れたなどとは聞いていないし、
そんな事実は無根であろう。
「ベルガー侯爵だけでなく、私にまで疑惑の目を向けさせようとするなど、随分怖いもの知らずの痴れ者ですな」
ベルガー侯爵は眉間にしわを寄せため息をつく。
「一筋縄ではいかないようですな。お互い身辺には気を付けましょうぞ」
ベルガー侯爵と別れ、その足でエックハルト伯爵はシュナイダー商会へ向かう。
王都一の店構えで、もちろん大繁盛している。
店内に入ると、ウィルメットが嬉しそうに駆け寄って来る。隣にはフォルカーもいる。
「お父さま、いらっしゃい」
いつもはここからエックハルト伯爵がウィルメットに長々とまとわりつくのだが、今日だけは様子が違う。
「デレックス殿はおられるか」
いつもと違うエックハルト伯爵に何かを感じたウィルメットはエックハルト伯爵を五階にあるデレックスの執務室へ連れて行く。
「私は入らない方が良さそうね」
察しのよいウィルメットはまた一階へ戻って行く。
執務室の扉をノックすると中からどうぞ、と声がした。
エックハルト伯爵は、デレックスが、今日、商会に居てくれて良かった、と心の中で感謝しながら中へ入る。
「お義父上、どうされました」
ウィルメットのところへは、しょっちゅうやって来るエックハルト伯爵だが、ウィルメット抜きで執務室を訪れるなど初めてだ。
エックハルト伯爵はデレックスに聞く。
「この部屋は盗聴の心配は無いね」
デレックスが頷くと、エックハルト伯爵はおもむろに事の次第を説明する。
「それはまた、上手く嵌められましたね。
こちらにその子がいないのは間違いありませんが、その子を連れてきていないと証明するのは、中々手間がかかりそうですね」
デレックスは口元に冷たい笑みを浮かべている。
「私にかけられた嫌疑ですので、こちらで嫌疑を晴らしましょう」
「ご心配はなさっていないと思いますが」
「今回は事が事だから、心配なのだよ。
相手は強力な土魔法を使う」
エックハルト伯爵が言うと、デレックスは不敵に笑った。
「ご心配いただきありがとうございます。
まともに戦ったりは致しませんので。避けるだけならいろいろと方法がありますし」
「それにウィルメットを悲しませるわけにはいきませんから」
エックハルト伯爵には満点の答えだった。




