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棄てられ姫は誰にも愛されない  作者: 鷺森薫
アインホルン王国編
23/70

23.黒髪と黒目


王女の誕生と共に始まったスクランブル体制だったが、ひと月が過ぎても襲撃はあの一回限りだった。


それは喜ばしい事であったが、同時に終始保っていなくてはならない緊張感が面々を疲弊させていた。

ただでさえ新生児を抱えている。


それでも美しく愛らしい王女に、皆心を奪われ癒されていた。

エックハルト伯爵などは朝から晩まで時間さえあれば王女の側に侍り、やれ抱っこだ、やれミルクだ、やれお通じだ、などと目尻を下げて率先してお世話をしている。


ファティマとクラウゼも手慣れたエックハルト伯爵の手伝いに助けられたが、流石にオムツの取り替えは断固拒否した。

「殿方にはお願い出来ません」と寝室から追い出される。


ファティマにキッパリと宣言され、ガックリと項垂れ涙目で

「ウィルメットもウィノラも私が取り替えたのに」と訴えかけられても、まわりから呆れた視線を向けられるばかりである。


名前を出されたウィノラは真っ赤になり、珍しく父親を叱る。

「そういう恥ずかしい事をおっしゃらないで」

娘に叱られ、また涙目になるエックハルト伯爵である。


生後1ヶ月ともなると、抱っこした人を目で追う様になり、その仕草がまたかわいい。

誰もが王女に骨抜きにされていたが、心配事もあった。

生まれた時はブルネットに見えていた髪の色は真っ黒に、瞳の色も黒くなった。


塔内でその事を口にする者は誰もいなかったが、皆内心、心配していた。

光属性のアインホルン王家で黒髪黒目の王族はいなかったからだ。


王女の誕生に沸き立つ国民もこれを知ったら

どう反応するであろうか。

もちろん、王女に関しては未だ北の塔に移された事すら極秘事項であり、髪の色や目の色が外部に漏れる事はない。


多忙な中でも時間を作り、密かに北の塔を訪れているアルベアト王も王女を愛しんだが、髪と目の色には不安を感じていた。


「私はこの黒髪や黒い瞳がたまらなく美しく可愛く見えるが、この事をあちらが利用するかも知れない」

心配そうに抱っこした王女を見つめるアルベアト王にシュルツ卿が進言する。


「髪や目の色など王位継承には何の問題もありません、陛下」

そう言ったシュルツ卿を見て、王女がにっこりとした。


アルベアト王がいきり立つ。

「何故シュルツ卿を見て笑うんだ。私が父親だぞ。王女、私にも笑いかけないか」


ファティマが呆れて諭す。

「陛下、シュルツ卿は王女殿下と毎日何度も顔を合わせているのですから仕方ないですよ。陛下もお忙しい中何度もおいでになっているのですから、そのうち笑いかけて貰えますよ」

不敬とも取れる言葉ではあるが、そこは母と慕う元乳母のファティマには、アルベアト王とて逆らえない。


「もしかしてアインホルン王国最強は、ファティマさんかもしれませんね」

こっそりと隣のウィノラに呟いたシュルツ卿であった。


「ヒーリーヌの具合が良くならないのだ。魔力が微弱になっている。王女に会いたいと泣くが、連れて来る事も行く事も出来ない」

アルベアト王の言葉にファティマが申し訳なさそうに言う。


「私の空間移動ではお連れ出来るのは小さな子供ひとり片道のみが限界なのです。申し訳ありません」

北の塔から王宮へ王女を空間移動で連れて行く事は可能だが、敵が何処に潜んでいるか分からない状態では危険すぎると、皆重々わかっている。

ましてやファティマの空間移動は片道切符だ。


そこへエックハルト伯爵が入って来て告げた。

「陛下、そろそろ例の調査報告を致しませんと」


「ああ、そうだな。それでは王女よ、また来る。次は私に笑いかけるのだぞ」


シュルツ卿はまた、娘を溺愛する父親をひとり敵に回したな、と心の中で苦笑いした。




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