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棄てられ姫は誰にも愛されない  作者: 鷺森薫
アインホルン王国編
20/70

20.寸劇


シュルツ卿ら3人が塔内の二階にある居間へ戻ると、管理担当の面々が王女を抱いたファティマの回りを取り囲んでいた。


侍従のトーマン・ユング子爵が振り向いて声を掛ける。

「ご無事で何よりです。やはりあちらはこの機を逃さなかったようですね」


シュルツ卿は頷きながら、王女に歩み寄り確認する。

「王女様もご無事ですね」


「はい。髪の毛一本たりとも傷つけられたり

しておりませんのでご安心を」

王女をあやしながら、にっこりとファティマが笑う。


「流石、ファティマさん。素晴らしい空間移動でした」

優しく微笑む美声の貴公子に、ファティマも更ににっこり笑った。


「声の魔物」発動、と心の中でウィノラが呟いていると、シュルツ卿はテキパキと指示を始めた。


「ファティマさん、王女様を寝室へお連れください。クラウゼさんも宜しくお願いします」

「エックハルト伯爵とウィノラ嬢はもう暫くしたら門前の道を風の魔法で乾かしてください。危険ですので私も同行します」

「当分の間スクランブル体制となりますので

ユング子爵はそちらの取りまとめをお願いします」


「ひとまず落ち着いたら、お茶を飲みながら

打ち合わせを行います。よろしいですね」

こんな時でも優雅に事を進めるシュルツ卿はやはり「水の貴公子」だ。


シュルツ卿はウィノラとエックハルト伯爵に声を掛けた。

「後始末をする前に王女様の様子を見に行きましょう」


子ども好きのウィノラとエックハルト伯爵は喜んで同行する。


王女の寝室は五階の中央にあり、その部屋を取り囲んで5部屋の寝室がある。

もともと神官が儀式で使用していた階の内装を造り直した。


王女の寝室は真ん中にあるので窓はない。

各寝室へ繋がる5つの扉と螺旋階段への扉があるため、扉だらけであるが、夜分に何かあれば誰もが駆けつけられる体制である。


5部屋の内訳は北にシュルツ卿、時計回りにウィノラ、カイ・クラウゼ、ファティマ、ユング子爵と割り振られていた。

ユング子爵とシュルツ卿の部屋の間に螺旋階段がある。


螺旋階段を登り、正面の扉をノックすると、

「どうぞ」

という声がして、中からクラウゼさんが開けてくれた。


小さな天蓋付きのベビーベッドに世にも美しい赤ん坊がスヤスヤと眠っている。


「地下の氷室に保管してある母乳を少し飲まれて今は眠っておられますが、2時間おきに母乳を与えなくてはなりません」

ファティマはにっこり笑う。


「そうでしたね。当分大変だと思いますが、

全員で協力して頑張りましょう」


地下の氷室はシュルツ卿が水魔法で凍らせて作ったものである。

そこにシュナイダー商会が手配した安全な母乳を毎日納入して貰う事になっている。

ヒーリーヌ王妃の容態では母乳が望めない為の窮余の策である。


シュルツ卿、エックハルト伯爵、ウィノラは王女のベッドの近くまで進み、眠っている王女を暫し眺める。


「何てお美しい王女様でしょう」

ウィノラが微笑む。

「私たちで大切にお育てしましょう」

シュルツ卿もウィノラに微笑む。

「はい」


それを見ていたエックハルト伯爵は頭から湯気を出しながら注意する。

「私たちとは何ですか。まるで貴方とウィノラの子のようではないですか」

その指摘にウィノラは爪の先まで真っ赤になった。


「私たち全員で、という事ですよ。勿論。言葉が足りなくて誤解を招いてしまいましたね」

シュルツ卿がしれっと躱すが、エックハルト伯爵は執拗に食い下がる。

「ウィノラだけ見て言っていたではないですか」


「お父さま、やめてください。誤解ですわ。

そんな事より、早くドロドロの道を直しに行きましょう」

エックハルト伯爵の腕にさっと自分の腕を潜らせ、にっこりと微笑む。


「あ、ああ」

急に嬉しそうに満面の笑みを浮かべるエックハルト伯爵、完全にウィノラの掌で踊らされている。


「ノアさまも行きましょう」

ウィノラはシュルツ卿にも促す。


「ノアさまだと」

また一方的戦闘開始となりそうなので、ウィノラは腕にグィっと力を入れてエックハルト伯爵を引っ張って出て行く。


「ファティマさん、クラウゼさん、こちらは宜しくお願いします」

にこりと微笑み優雅に退室したシュルツ卿を見てクラウゼは言った。


「当分はいろいろと楽しめそうですね」

完全に茶番、寸劇扱いだ。


ファティマは苦笑いして答える。

「王女様を取り巻く状況は過酷ですから、明るい話題は歓迎ですよ」



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