19.襲撃
ウィノラの叫びにシュルツ卿が赤ん坊を抱いたファティマを門の中へ押しやる。
「中は安全です」
ファティマが水の結界を通り抜けるのを見て
シュルツ卿はウィノラに叫んだ。
「ウィノラ、大丈夫か」
その声を聞いてウィノラは頷き、また叫んだ。
「土魔法です。風なら負けません」
「ストーム」と叫びながら、土の塊を粉砕していく。
しかし、粉砕しても次々と地面から塊が突き出し、キリがない。
その時、門から、もの凄いスピードでエックハルト伯爵が風に乗って出てきた。
「おのれ。ウィノラに何をする」
「ハリケーンスペシャル」
何故か安っぽいネーミングの風魔法を繰り出す。
しかし名前は安っぽいが、もの凄い破壊力で辺り一面の土の塊が粉砕された。
名前はともかく実力は流石といったところだ。
エックハルト伯爵親子が土の塊に応戦している間に、シュルツ卿は土魔法の使い手を探していたが、辺りにその気配は全くない。
また、土の塊が大量に突き出した。
「けりをつけます。お二人共、私に力をお貸しください」
シュルツ卿は叫び、魔法書を開き唱えた。
「トレント」
これにふたりが唱和する。
「ストーム」「ハリケーンスペシャル」
シュルツ卿が放った激流に暴風が重なり合い
嵐となった。
シュルツ卿は更に叫んだ。
「断罪のテンペスト」
ドーンという大音量と共に暴風雨が一斉に地面に叩きつけられると、次の瞬間辺りはシーンと静まり返った。
シュルツ卿の横にウィノラとエックハルト伯爵が風に乗って降りてくる。
「お二人共、お怪我はありませんか」
ウィノラはにっこり微笑んで被りを降る。
エックハルト伯爵はそんなウィノラを見て心配で涙目だ。
「大量の風雨でドロドロになった地面では、当分岩の塊は作れないでしょう」
「敵の姿も見えませんし、魔法が何処から発動されていたのかわかりませんでした。まだ危険ですので、我々も中に入りましょう」
急ぎ水の結界を通り抜け、3人は塔内に入った。
「エックハルト伯爵、この事を急ぎ陛下にお伝えください。北の塔とて王宮内であるのにあちらが動いたと」
「わかりました、風の魔法で耳元に届けましょう」
「お願いします」
そう言いながらシュルツ卿は先程の襲撃について考えていた。
それを横目で見ながらエックハルト伯爵は風の魔法でアルベアト王の耳元へ先程の顛末を
囁いた。
連絡係の役目を果たすと、エックハルト伯爵はシュルツ卿に言った。
「土魔法の使い手が誰か思い当たる事は」
「ありません。流石に使い手の少ない火魔法で直接攻撃するとは思っていませんでしたが、土魔法とは更に使い手が少ない」
「土魔法の家門はベルガー侯爵家ですが、あの家に限って王家を裏切るなど有り得ない事です」
「ベルガー侯爵家の「上位魔法土の魔法書持ち」は4人。侯爵、次男、長女、そして侯爵の弟君。侯爵と弟君は言わずと知れたあの魔物討伐の殊勲者です。次男と長女はまだ10才と6才ですし、何処ぞに侯爵家の落胤でも存在するならですが」
エックハルト伯爵が流石の記憶力で貴族名鑑のように正確な情報を提示した。
「諜報部に連絡して調べさせましょう。どちらにしてもまずいことになりそうですな」
実は諜報部トップはエックハルト伯爵であり、部下にも切れ者と信頼されていた。
そんなエックハルト伯爵だが、北の塔要塞計画がアルベアト王とシュルツ卿の二人だけで極秘に進められた為に、ウィノラが候補に上がっていた事も知らずにウィノラに勧め、結局は巻き込んでしまったので、王の為にもウィノラの為にもさっさと解決しようと意気込んでいた。
口の端を少し上げ、腕を組み考えこむエックハルト伯爵は、先程ハリケーンスペシャルなどと安っぽい魔法名を叫んでいたとは思えないダンディーぶりである。
「あれほどの土魔法の使い手は中々お目にかからない。ベルガー侯爵に勝るとも劣らない」
シュルツ卿がそう呟くと、ウィノラが聞いた。
「侯爵家以外にあれほどの使い手がいるという事でしょうか」
「それはわかりませんが、侯爵家以外にいるならそれはそれで問題ですし、侯爵家の人間ならもっと問題ですしね」
侯爵家の人間なら誰であれ、下手をすると侯爵家お取り潰しにまで発展するかもしれない。アルベアト王にとって忠臣であるベルガー侯爵とその弟君を失えばどれほどの痛手となる事か。
「いや、むしろそれが狙いか」
シュルツ卿はひとりごちた。
「敵は王女殿下が塔内に入られても、執拗に我々を攻撃していました。この事からも、護衛である我々の命を狙っての襲撃か、若しくは土魔法の使い手があちら側にいるというパフォーマンスか、といったところでしょう」
シュルツ卿の言葉にエックハルト伯爵も同意する。
「どちらにしろ、忠臣ベルガー侯爵家に対して疑念を抱かせた段階であちらの思う壺という事ですな」
王と近臣間の信頼の瓦解を謀るなど恐ろしいし対策を立てねばと考えながらも、
敵に対峙する父は何と頼もしく素敵なのだろうと、いつもとのギャップに思わず苦笑いしたウィノラだった。




