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棄てられ姫は誰にも愛されない  作者: 鷺森薫
アインホルン王国編
18/70

18.誕生


ヒーリーヌ王妃の懐妊で国中が沸いていた。

光と聖の結合、どんな素晴らしい御子が生まれてくるのだろうと期待に満ち溢れた。


そしてその日はついにやってきた。

ヒーリーヌ王妃の出産は赤子が後方後頭位だったため難産となった。

ウィノラは王妃の寝室の端から

「癒しの風」の魔法を送り続けた。

乳母役侍女のファティマ・ベックもその横に待機している。


シュルツ卿も「癒しの雨」という癒し系魔法を使えるが、流石に王と医師以外の男性は入室お断りなので、隣室に待機している。

今はアルベアト王もその部屋で、シュルツ卿の横を落ち着かない様子で歩き回ってその時を待っていた。


「母子共に無事であったなら、他に何も望まぬ」

何かを予言するかのようにアルベアトがそう呟くと、寝室より赤ん坊の鳴き声が聞こえてきた。


「陛下、おめでとうございます」

シュルツ卿が胸に手を当て頭を下げる。


「無事に産まれたようだ、ありがとう」

アルベアト王は期待に瞳を輝かせ興奮した口調で答えた。


侍女が入室し告げる。

「陛下、おめでとうございます。王女様でございます」

「そうか、二人共無事なんだな」

「ヒーリーヌ王妃様は大分お疲れのご様子ですので暫くご安静にとのことです」

「わかった。王妃に声はかけて良いのか」

「お声がけくらいでしたら」


答えを聞くや否や、アルベアト王は隣室の王妃の寝室へ入っていく。


部屋中の臣下が一斉に「陛下、おめでとうございます」と頭を下げた。


手を上げ答えながら、ヒーリーヌ王妃の枕元に屈み、優しく言った。

「ヒーリーヌ、ありがとう」

ヒーリーヌ王妃はやつれた顔で少しだけ微笑んだ。


ファティマが金糸銀糸で刺繍された産着に

包まれた赤ん坊を抱いて側にくる。

直系王族のみが金糸銀糸の産着を着用出来るという慣習に基づくものだ。

ファティマはアルベアト王に笑顔を向けた。

「なんて美しい王女さまでしょう」


アルベアト王が目を向けると、そこには見た事もないほど綺麗な赤ん坊がいた。

「ヒーリーヌにそっくりだ」

アルベアト王は赤ん坊が金髪ではない事に気づいたが、些細な事だと黙っていた。

ブルネットだろうか。


赤ん坊は元気に生まれたため、すぐにも北の塔へ移す事になった。

本来は後1日くらいはヒーリーヌ王妃の側に居させてあげたいところだったが、ヒーリーヌ王妃の容態が思った以上に悪かったため、不測の事態に備えて早めに移る事となったのだ。


ヒーリーヌ王妃は癒し系魔法を魔法師団から派遣された精鋭達から受けても、あまり効果が無く、赤ん坊がファティマの空間魔法で移動する直前にやっと小さな声で、

「私の赤ちゃん」と呟くのが精一杯だった。


ファティマが空間魔法で王女を移動させる前に、シュルツ卿とウィノラは風の魔法で風に乗って北の塔まで移動した。


北の塔の門に到着すると、塔の管理担当の面々が門の外に揃って待っていた。今では塔によく泊まり込みまでしているエックハルト伯爵の姿もある。

シュルツ卿は魔法書を開き安全と盗聴防止の為、全員を囲む水の結界を張った。


「王女様が無事御生まれになりました。間も無く到着されます」

シュルツ卿がそう伝えると、侍従のトーマン・ユングが心配そうに尋ねた。


「予定より早いおいでですが、何かありましたでしょうか」


「王妃様の容態が思わしくありませんので、

王女様をお守りするためにも早めにおいでいただく事になりました」

「私とウィノラ嬢でベックさんをお待ちしますので、残りのみなさんは中でお待ちください」


ユング侍従を筆頭に水魔法を使った個体識別が出来る水の結界を通り、門内へ入る。

結界は個体識別で認可した者しか通さない。

不認可の者が無理に突破しようとすると、水の結界なら瞬時に氷結されるらしい。

試したくはないものである。


他の面々が塔内に入って間も無く、赤ん坊をしっかりと抱いてファティマが空間魔法で現れた。


「お疲れ様です、ベックさん。

さぁ、早く中へ」

シュルツ卿がそう言った瞬間、バーンという大きな音と共に、ファティマの足元に大きな地割れが出来た。

ファティマは空間魔法を使い瞬時にシュルツ卿の後ろに移動する。


地割れから大小の岩の塊が次々と凄いスピードで出て来る。


ウィノラは魔法書を開き、風に乗り、ファティマたちへ叫ぶ。

「早く中へ」


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