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棄てられ姫は誰にも愛されない  作者: 鷺森薫
アインホルン王国編
16/70

16.天使の正体


顔合わせが一通り済むと、また一通りの世間話をし、それも済むと、当事者二人を残して、お開きとなった。

エックハルト伯爵は「ゆっくりしておいで」などと言いつつ、その目は早く帰って来て欲しいと懇願していた。

どこまでも往生際が悪い。

 

そんなこんなで、やっと二人きりになった途端、ウィルメットは真剣な顔で切り出した。


「デレックスさま、唐突で失礼とは存じますが、正直に申し上げて宜しいでしょうか」


一瞬何を言われるのかと眉尻を少し上げてデレックスは応じた。

「どういった事でしょうか」


「この縁談の事でございます」


これは早々にお断りされるのか、とデレックスは少々複雑な気持ちで応じる。

「何かご不満でもありますか」


「いえ、私に不満など一切ありません。

ご不満があるとしたらデレックスさまではないでしょうか」

少し悲しそうにウィルメットが続ける。

「私にはいろいろと悪い噂が付いて回っております」


「お噂は確かに耳に入ります」


デレックスの言葉にウィルメットは益々悲しそうに続けた。

「この縁談は父が無理矢理お願いしたのだと分かっています。もしかしてデレックスさまがご存知ない内に取り決められたのではないですか」


中々の慧眼、これは見かけや噂に踊らされると痛い目に遭いそうだ、デレックスは苦笑いして答える。

「正しくその通りです」


「やはり、そうでしたか」

ウィルメットは少し俯き、そっとため息をついた。

やがて意を決したように顔を上げ、言った。


「デレックスさまがご迷惑とお思いなら、このお話は無かった事にしてください。

そちらからお断りになるのは、差し障りもございますでしょうから、私の方からお断りする形に致しましょうか」


これは中々面白い展開になって来た、とデレックスは内心思った。

「承諾も無く話を決められた時は流石に不愉快でしたが」


そう告げると、ウィルメットはビクッとして愛らしい瞳が潤みはじめた。

「ごめんなさい。父は家族の事となると、

まわりが見えなくなるのです」

「そちらにこれ以上ご迷惑がかからないように父には私からしっかり釘を刺しておきますので、どうかご容赦ください」


女の涙に絆される程甘くはないデレックスではあったが、流石に胸がチクリとした。

「貴女はどうされたいのですか。

このまま破談でも構わないという事ですか」


ウィルメットは潤んだ瞳を瞬かせ、小さく呟く。

「私はデレックスさまのお気持ちに従います」


我儘令嬢という噂はガセだったようだ。

ふっと息を吐き再度デレックスが尋ねた。

「貴女のお気持ちが知りたいのですが。

 私の事をどう思われますか」


俯いた頬が真紅に変わる。

「デレックスさまは素晴らしい方だと思います」


随分と漠然とした答えだ。

「それはどういったところがですか」

尋問になっている。


「デレックスさまはご両親をとても大切になさっているとお聞きしました」

頷きながらウィルメットは更に続けた。

「陛下より高い地位を約束されておられた筈ですのに、ご両親の為におうちのご商売に入られたと伺っております」

「貧しい人たちへの教育活動にも支援してくれている、と妹が言っておりました」

「教育だけではなく商会で就労支援もされているとか、一時的な寄付ではなく自立出来るように支援しているのが素晴らしいと兄が申しておりました」

「ご両親を大切になさり、貧しい人たちへの配慮もなさるような方でしたら、将来を託せると思いました」


デレックスは正直、こんな答えが返ってくるとは思っていなかったので面食らった。

デレックスの見目麗しい容貌とか、高身長とか、大商家の跡取りだとか、そういった釣書にあるような事ではなく、両親への愛情や社会貢献と言った内面を褒めてくれるのは、

あながち悪くなかった。

情報源はエックハルト伯爵と妹ウィノラ嬢、そしてフォルカー殿か。

やはり中々侮れない一家のようだ。


感心しながら少し考えこんでいると、ウィルメットの本音が出た。

「それに、前にお見かけした時から、素敵な方だと思っておりました」

言った途端に全身から湯気が出そうなくらい

真っ赤になり、慌てて泣きそうになっている。

「私ったらなんて事を。穴があったら入りたい」


デレックスは何だか楽しくなってきた。

「私を気に入ってくださったという事ですね」


ウィルメットはサッと青ざめて答えた。

「でも父の無理強いがわかりました限り、

お話を進めるわけにはいきませんわ」


デレックスはずっとこの見かけが天使の正体を疑ってかかっていた。

デレックスの才覚や大商家という後ろ盾を狙って寄ってくる海千山千の女たちを薙ぎ払ってきたのだから、疑り深くもなる。


しかし、ここに来て急に内心焦りだした。

この天使は本物だ。

逃してはならない天からの贈り物だ。

多少浪費家でも構わない。

デレックスは片膝をつき求婚した。

「私は貴女を妻にしたい。 貴女が気に入りました。話を進めましょう」


ウィルメットの瞳から涙が一筋溢れた。

涙を拭う小さな手を握りしめてデレックスは

言った。

「貴女がドレスや装身具を山のように購入しようと、贅沢三昧させられる財力もある。

安心して嫁いできてください」

デレックスの一言にウィルメットは驚いて言った。


「私、ドレスも装身具もこれ以上必要ありません。お父さまが元気になってくれたので、

もう必要ないのです」


このひと言でデレックスには全てがわかった。天使の正体も。

誹謗中傷を受けてもこんな小さな手で父を守り家族を守った。


これからは自分がこの小さな手を離さずに

ずっと守り抜くのだとデレックスは強く心に誓った。



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