11.団欒
顔合わせから戻ると、エックハルト邸には昨日から非番で帰宅しているフォルカーが待ち受けていた。
「副長元気だった?」
挨拶抜きで突然切り出す。副長とは魔法師団でのシュルツ卿の役職だ。
別れ際の不可解発言を思い出しウィノラは思わず頬を赤らめる。
「お元気でしたわ」
赤らんだ頬を眺めながら、フォルカーはニヤリと笑いながら続けた。
「さしもの難攻不落ウィノラも、副長の魅力には負けた?」
ここでムキになってはフォルカーの思う壺である。
「確かに中々な方ですね」
フォルカーはウィノラを探るように見ながら
頭を掻き掻き呟いた。
「うーん、やっぱりウィノラには効かなかったのかな」
ウィノラは静かに反撃を始めた。
「シュルツ卿に私の事をいろいろとお話されたようですね、お兄さま」
「いや、副長に直接話した事は殆ど無いよ。
誰かにお前の事話していると副長がいつの間にか側にいて聞いてただけだから」
自分は無実だと言わんばかりの満面の笑みでフォルカーは答える。爽やかな笑顔の好青年である。
「誰かには私の事を話していた訳ですか」
フォルカーは慌てふためき、開き直る。
「賢くて愛らしい妹の事を自慢してなにが悪いんだ。うちのウィノラは王国一の貴族令嬢
なんだから」
あの父にしてこの息子有り、である。
「今日初めてお話したのに、
シュルツ卿が余りにいろいろとご存知で驚きました」
少し声を尖らせてみる。
「副長は大した方だよ。人間的にも、魔法の使い手としても。
そこら辺の奴らだったら、お前の相手にはならないだろうが、副長にならお前を託してもいいと思ったんだ」
ウィノラと同じはしばみ色の瞳が光る。
「相手という意味は計りかねますが、上司としてなら信頼出来そうです」
会話の行方が怪しくなって来たので、しらを切る。
「そうじゃなくて、お前の結婚相手としてだよ」
お兄さま、貴方もですか。
「お兄さま、シュルツ卿とは今日初めて口を聞いたのです。どこから結婚相手なんて言葉が出て来るのですか」
「シュルツ卿にも失礼ですわ」
困った時の癖で、頭を掻き掻きフォルカーはトドメを刺して来た。
「シュルツ卿はお前の事を憎からず思っている、間違いないよ」
その根拠は何処にある、と呆れ顔で見返したところに、シュナイダー家との婚姻の打ち合わせで出かけていたエックハルト伯爵とウィルメットも戻ってきた。
「ウィノラ、戻っていたのか。顔合わせはどうだったかい」
捨てられた仔犬のような潤んだ瞳でエックハルト伯爵が聞いてくる。
「筒がなく終わりましたわ」
それを聞いてガックリと肩を落とすエックハルト伯爵。
どうもまだ諦めきれない様子だ。
「イヤな思いをしたら、すぐ帰ってくるんだぞ。イヤじゃなくても帰って来ていいんだからな。いや、いっその事行かなくていいぞ」
もう重症である。
「お父さまもお姉さまもお疲れでしょう。甘い焼き菓子とお茶はいかがですか」
エックハルト伯爵は涙目になっている。
「こんなに優しい娘たちを手離さなければならないなんて」
来週お姉さまがシュナイダー家に嫁ぎ、私も北の塔勤めになれば、この邸にはお父さまひとり。このような団欒はおいそれと持てなくなるだろう。
わかっていた事とはいえ、父親が心配になる。
だが、父は強かった。
「大丈夫だ。ウィルメットにもウィノラにも、毎日会いに行くから」
満面の笑みだ。
フォルカーが呟いた。
「魔法師団にもほぼ毎日来るもんな」
国の重鎮たるエックハルト伯爵の今後が更に心配になるウィノラであった。




