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棄てられ姫は誰にも愛されない  作者: 鷺森薫
アインホルン王国編
10/70

10.ウィノラ・エックハルト

シュルツ卿に呼び止められたウィノラは一瞬固まった。


「来るべき時が来た」かどうかは別にして

促されるまま、先ほどとは別の居間へ通される。


緊張の中でも居心地の良さそうなその部屋をそっと見回す。

抑えた色合いでも質の良い生地に美しい刺繍が施された長椅子や、同じ生地で作られた飾り布、どっしりとした重厚感溢れる長テーブルも不思議としっくり馴染んでいて、ウィノラ好みの部屋である。


「落ち着くお部屋ですね」


ウィノラの呟きにシュルツ卿がにっこりと微笑む。破壊力抜群である。


まぁ、私には効きませんが。


しかし次の攻撃は強烈だった。

いつの間にか、ウィノラの背後に回ったシュルツ卿が耳元で囁く。


「それは嬉しいお言葉です。

気に入っていただけたようですね」


「声の魔物」発動です。

その上、さりげなく背後に回るあたり、かなり女性慣れしている疑いあり。


あたふたするウィノラを尻目にシュルツ卿が

広い方の長椅子へ促す。

ウィノラが腰を下ろしたのを確認し、シュルツ卿も二人掛けの長椅子へ腰を下ろした。


「今日は驚かせてしまいましたね。ウィノラ嬢にはあらかじめお知らせする事ができず、申し訳ありませんでした」


優しい美声に何もかも許してしまいそうになる。

否、聞くべき事は聞かないと。


「今日お集まりの方々から、おおよその事は想像が尽きます」


ウィノラをじっと見つめ、小さく頷くシュルツ卿。


「ひとつ分からないのは、何故私が選ばれたかという事です。正確には私自身が志願致しましたが、もし私が考えている通りだとしたら、何の経験もない一伯爵令嬢を敢えてお選びになったのは如何なる理由からでしょうか」


「貴女は全て理解されているようです。

陛下も私もそれは見越しておりました」


さらっと「陛下」登場に鼓動が早まる。

「陛下も私をご存知という事でしょうか」


言い終わるか終わらないかというタイミングでノックがあり、侍女がお茶を持って入ってくる。


「ありがとう」

お茶を出し下がろうとする侍女にシュルツ卿が声をかける。


おそらくはシュルツ卿の倍くらいの年齢と思しき侍女は頬を染めて退室した。


「彼女は長年私に仕えてくれていて信頼できる女性ですので大丈夫です」


大きく同意。

「シュルツ卿を蔑ろにする女性は滅多にいらっしゃらないかと」


「貴女は違いますよね」

シュルツ卿はウィノラを真っ直ぐに見る。


「私、何か失礼な事を致しましたでしょうか」

確かに今日は失敗だらけではあったが、蔑ろという程の事はしでかしてはいない、はず、


また優しい微笑みを浮かべながらシュルツ卿が答える。

「正直に言いますと、貴女が志願されたのは渡りに船でした。

陛下も私も副官の第一候補はウィノラ・エックハルト嬢で一致しておりましたので」


以外な言葉に思わず眉間を寄せる。


「ウィノラ嬢はたまに、魔法師団にいらしていたでしょう。兄君のフォルカーを訪ねて」


確かに兄には良く呼びつけられていた。

あれを持って来いとか、これを忘れたとか。

ウィルメットお姉さまが面倒くさがるので、

いつも私が届ける羽目になっていた。

魔法に関わる魔法師団だから届けていたという側面もある。


「その時何か失礼な事を」


シュルツ卿は微笑んで首を振る。

「その逆ですよ。

貴女は私が側を通りかかっても、全く目にも入らなかったようで。

まさに、蔑ろ状態でした。それも毎回」


それは誤解です。

目には入っていましたよ、しっかり、くっきり。

これだけの美形が目に入らない訳がない。

でも、それだけ。

相変わらず美しい方だな、くらいで。

「それが候補の要因になったのですか」

シュルツ卿に興味が無かったから。


「違いますよ。

貴方の事はフォルカーからいつもいろいろと聞かされていましたから」


いろいろって、何を喋っているのですか、フォルカーお兄さま!


「後はエックハルト伯爵からも、それはいろいろと」


二人してどんな広報活動しているのですか!

個人情報漏洩甚だしい。


「家庭教師に十年に1人の天才と言われていたとか」


かなり話が盛られています。


「貴女の孤児院での活動の事や、貧困家庭の子供たちへの教育活動とか、いろいろです」


「貴族の一門に生まれたなら当たり前の事です」

むしろ隠しておきたい話である。


「陛下も貴女の活動をお知りになり、いろいろと調べさせていただいたのですよ」


ウィノラの個人情報だだ漏れが確定。ガックリと肩を落とす。


シュルツ卿は美しい瞳を輝かせ、美声で尋ねた。

「貴女は子供がお好きですよね」


それ、聞く人が聞いたら求婚だと勘違いしますよ。


「確かに子供は好きです」


「教える事もですか」


「子供に教える事も好きですが」

ウィノラは自分の役割を理解した。


「わかりました。私のこれからの12年を陛下の御子に捧げます」


シュルツ卿は微笑んだ。

「理解が早くて助かります。

12年と言えば長い。王立大学進学も後回しになるでしょうし、婚期も遅れるかも知れません」


「犠牲を払ってくださる貴女に私も出来るだけの事をしましょう。

時間の有る時は塔の魔法図書は読み放題ですし、王宮の魔法図書も借りられるように手配しましょう」


そして最後ににっこりと微笑んで言った。

「婚期が遅れるようでしたら、私がきちんと責任を取りましょう」


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