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ひとりの巫女は何を思う。

山奥にひっそりと佇む家屋の縁側からのぞく池には赤く染まった満月が落ちている。

その月の周りを踊るように、舞うようにひとりの巫女がその上にいる。

上といっても池の水の上を踊るように、舞うようにひとりでいるのだ。

池の水は波を打つことなく、一枚の鏡のように静止している。

踊るように、舞うように池の上にいた巫女は急にその行いをやめ、ふと赤く染まった満月を見上げる。

「行かなくちゃ。このままだと………」

彼女は哀しそうな、儚い顔つきで月を見上げる。

夜も明けに近く、何処からか烏の哭き声が聞こえてくる。

「そんな顔してどうした?」

少しなまった感じで話しかけてきたのは、縁側で湯飲みを啜りながらこちらを見ていた老婆である。

老婆の顔は巫女の面影があるにはあるが、過去の話だよと皺の数だけが語る。

「もう、夜が明ける。この辺にして風呂でも入ってこい。」

「お婆ちゃん。私行かなくちゃ!」

巫女は強く老婆に言う。

「やっぱしワシの孫じゃ。見えたのかい?この世界がひとつになるのを。そして、お前を含めたものたちが死ぬ未来を。」

老婆は巫女に目を細め、問いかける。

「うううん。違うの。もっと沢山の人が死ぬ。私だけじゃない。お婆ちゃんもみんな死んでしまう。」

巫女は、目に涙を浮かべ老婆にかけよる。その姿は異様だった。

駆けているように見えるが、地に足がついていない。

ほんの数センチ浮いているのだ。

先ほどまで濡れた足で乾いた地に足を降ろせば、汚れる。

しかし巫女は水滴や泥の汚れは一切ない。

「私入らなくても、汚れないし、臭わないよ?」

「お前も女なんだから、入っとけ。」

「はぁーい」

そう渋々と巫女は老婆の言葉に同意し、風呂場に向かう。


「お風呂に入ってもな~。暖かいとか、寒いとかわかんないし。」

「肩までしっかりつかれ。着替え置いとくぞ。」

「ありがとう。お婆ちゃん。」

そういいながら、湯槽に肩まで浸かるが温かさがわからない。

親の温もりも、愛情も。

彼女は生まれてすぐに、両親から気味悪がられ老婆の所に預けられた。

その後一切の連絡のやりとりはない。

勉強などはお婆ちゃんに教えてもらい、学校にいかずに生活を送っている。

老婆も昔、巫女で同じ様に村のものから酷い扱いを受けた。

しかし今となっては笑い話になったと、いい思い出になったと話している。

「でも、どうやっていけばいいのかな?」

考えながら浴槽から出てシャワーの蛇口をひねる。

頭から浴びているはずのシャワーの水さえ彼女には当たらずに落ちていく。

まるで彼女の周りを薄い膜のような物があるかのように。

「水道水のムダ使いなんだよねこれ?」

苦笑しながら止め、準備された着替えに手をかける。

触れられた衣服は彼女に触れず、直に触っているのではない。

薄い膜のような物で触れている状態だ。

「服着なくてもいいんだけど、さすがに全裸でうろうろはしたくないもんな~変態さんになっちゃうし。」

衣服を纏った彼女は巫女の格好のまま神台へと

上がる。

いわば、神社などでお祓いをする際に座るような所だ。

この世界の掟らしく、巫女の力を持つものはここで一夜を過ごさなければならない。

彼女自信の部屋はなく、神棚のようなものになるのかもしれない。

その回りに四本の柱があり、その柱、柱に紙のついた縄が張り巡らされている。

無意味に張り巡らされていると言うよりも、まじない的に張り巡らされている。

結界。が何重にも重ねてかけられている様だった。彼女の休息を護るかのように。

彼女は正座をした状態で瞼を閉じ、眠りにつこうとした。

その時、どこから入ってきたのか、いつの間にか正面の神台を降りたところに猫が一匹座っていた。

その瞳は巫女の姿を写し、まっすぐとこちらを見ている。

彼女はその姿に気づかずにめを閉じたまま静止している。

(貴女が6thなのね?迎えに来たよ~)

呑気に声をかけられ、驚きと共に目を見開く6thと呼ばれるその巫女は息を飲む。

「だっ…誰?」

薄い灯りの中、視線を巡らす巫女は一匹の猫の他に気配がないとわかると恐る恐る正面に座る猫に問いかけた。


「あなたなの?迎えに来たって?どういうこと?」

(あなたは私なの。で私もあなたなの。わかる?これから違う世界に行って、ひとつひとつ、もとの世界に戻す手伝いをするの。)

「何をゆっているのかわからない。猫が喋ってる?」

確かに猫の方から声はするが、正確には猫に話しかけられている気がするのた。

正面にいる猫は瞬きせずに、こちらを見ているが、口元がひとつもピクリとも動かない。

異様に思えた。

(貴女が見た未来のことを変えるため、貴女を迎えに来たの。)

「!!!」

この猫は、世界がひとつになることを知っていた。

しかしそれは彼女と、昔巫女であった老婆しか知らないはず。

なのに目の前の猫はその事を知っている。どうして?

「知っているのなら教えて!どうすれば、どうやってあそこに行けばいいのか教えてっ!」

(難しいことは7thに聞いてほしいな~私、大変なことなのはわかるけど、難しいことは向こうで聞いてよ。)

その猫の声はあまりにも幼く聞こえるが、内容についてはあまり知らないらしい。

(とりあえず、向こうにいくから準備して?私ここで待ってるから。)


そう言いながら、猫は体を伸ばし同じところに丸まる。

「荷物は、私はなにも要らない。ないから。」

そうポツリと呟く。

(あのお婆ちゃんに別れを言わなくてもいいの?)

丸まったまま猫が巫女に向かって顔だけむける。

「お婆ちゃんは、知ってると思うから、言わなくていい。」

巫女は6thと呼ばれた彼女はうつ向く。

今会ってしまったら、いけなくなると思う。

今まで育てもらって感謝してる。行ったあとの心配もある。

でも、顔を見たら会ってしまったら………

「いくのかい?」

その声に顔をあげると

老婆が微笑を浮かべシワだらけの顔をさらにしわくちゃにして立っていた。

「行きたかったんだろ?なら、行って変えてきなさい。それがお前の務めだ。なぁに、心配は要らんよ。これでも力は少しは残っとる。お前が帰ってくるまでは持つよ。」

そういう老婆は神台へと歩みより、箱を6thの前に置く。

「お婆ちゃん…… 」

今にも泣きそうな顔でいる6thは老婆の顔を見れずに視線を箱に落とす。

「持っていきなさい。」

箱が開けられ、出てきたものは古い和紙で包まれた皿のようなものだった。

「これは?鏡?」

現れたのは手鏡の様なとって部分はなく、弥生時代の物を思わせる鏡だった。

「きっとお前の役に立つよ」

老婆は6thにその鏡を渡す。

(終わったのかな?あまり遅いと2ndと7thがうるさいから。)

急かすように猫は言い、4足でたっている。

「お前さんも、小さいのに苦労しとるね。こいつをよろしく頼むよ?」

(!!!)

猫は驚き口が開いたままだ。

そして老婆の方を見ながら、(ありがとうと)呟いた。

(じゃ行くよ?私の近くへ来て。私がいいって言うまで目を瞑っていてね?)

「解った。お婆ちゃん!私頑張るから!」

そう6thが叫ぶと同じに部屋一面が蛍の光のように、神秘的で幻想的に輝き始めた。

(行くよ?目を閉じて!)

次の瞬間猫を中心に魔方陣が出現し、瞬く間に一人と一匹は光の中へ溶け出した。

外から見ていた老婆は、にこやかに顔に笑みを浮かべ、彼女たちに「気をつけて」

といった。

聞こえたかどうか解らないが、一人と一匹は消え老婆がその部屋に一人残された。


ドサッ!


老婆一人が残された部屋に物音が響く。

それは、孫を見届けられ安心した顔で横たわる老婆自身だった...

障子の隙間からは太陽の光が入り、ただ冷たくなっていく老婆を照らしていた。


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