第六話「エルフ・2」
僕はケルヴァディオンについて詳しく知っているわけではない。そもそも僕に話をしてくれた父さんや村長も実際に見たことがあるわけではなくて伝説上の動物とさえ思える程の遠い存在だったんだ。
だから精々が普通の馬よりも賢く、英雄に相応しい人が騎乗できるくらいの情報しかなく、それぞれの話も何処か過小評価していたんだと思う。少なくとも僕の話をきちんと聞いて理解し、身の危険をきちんと理解できるくらいには賢かったんだ。多分だけど人間だったら大学に入学するくらい分けないくらいの頭脳を持っているとさえ感じてくる。
そして、英雄に相応しい人だけが乗れる、という事も言葉で理解していただけだったんだ。その結果が目の前で跪いているエルフの人たちに現れている。
話は少し前になるけどエルフの少女の案内で集落らしきエルフの村に到着したんだけど僕を見て弓を構える人がいたけど恐らく年配の人とかが僕を乗せているケルヴァディオンに気づいて驚きあっという間に何かを言いながら跪いてきたんだ。僕も困惑しているしエルフの少女や若いエルフとかも皆困惑している。
「えっと、誰か説明を……」
「……失礼しました。私が話をしましょう」
僕が恐る恐ると言った具合に言葉を発すると代表っぽい人が流ちょうにこちらの言葉で話しかけてくれた。分かっていたけど僕たちの言葉を話せるエルフもいたようだ。そりゃ、片言とはいえ会話が出来るんだもん、きちんと話せる教師のような人がいてもおかしくはないよね。
「貴方は?」
「私はこのゼルギル族の族長をしているズレイと言います。英雄の卵よ、我らの話を聞き、どうか力を貸していただきたい」
「え? えぇ?」
あれ? 多分だけど面倒ごとに巻き込まれるパターンですか? こちらは保護されたい難民なんですけど……。
「……貴方の事は理解しました。状況が状況とは言え種族も言語も違う我らに助けを求めてくるほどの窮状、お辛かったでしょう」
「そう、ですね……」
ひとまず族長の家に案内されて状況の説明をしたけどすごく優しい表情でそう言ってくれた。余計なお世話だとかお前に何が分かるんだ! とかそういうネガティブな気持ちも沸きあがってくるけど理解してくれて優しくしてくれる事に感謝や嬉しさがこみ上げてくる。
正直かなりのトラウマになってしまっているんだと思う。自分でもどうすればいいのか分からないから様々な感情がぐちゃぐちゃに入り混じってしまっているだ。こういった事は前世でも経験がないためどうすればいいのか分からない。時間の経過とともに回復するのを祈るばかりだろう。
「では我々の方の話をさせてもらいます。我々にとってケルヴァディオンとは神の遣いに等しいのですよ」
「神の遣い?」
「はい。ケルヴァディオンは我がゼルギル族をはじめとするへピロス系エルフ族にとってケルヴァディオンはこの世を収めるべき者を遣わす存在と認識ているのです」
「……その背中に乗るのが人間だったとしても、ですか?」
「人間だったとしても、ですよ。むしろ人間であればなおいいでしょう。我々にとって人間は忌むべき存在ではないのですから」
正直、意外だ。エルフだからもっとプライドが高くてお高く留まっているのかと思っていたけど聞いた話ではそんなことはないのかな?
「エルフって皆そう思っているのですか?」
「そうではないですね。我々ですら300年を生きる者以外では廃れてしまった伝承です。へピロスエルフですらそうなのです。閃珂エルフを始めとする他のエルフも同様でしょう」
「閃珂エルフ? えっと、エルフ族にも色々と種類があると?」
「その通りですよ」
話によればエルフはエルフ神聖領域と呼ばれる異空間に住む者達を祖とし、各地に散らばった種族らしい。各地に散らばったエルフたちはその土地ごとに土着民族と交配して全く違う特徴を持ったという。正直ここだけ展開がぶっ飛んでいる気がしてならないが実際にそうらしい。エルフって宇宙人なのかな?
そして閃珂エルフとはここから遥か東方の閃珂地方に住むエルフで人間と長く交わった結果エルフ特有の特徴がほぼ消えて人間と変わらない存在になったという。
「300年前にエルフ神聖領域が出てきたハイエルフから教わった知識です。彼は風変わりな者だったようで領域外の知識をよく調べていたそうです」
「そうなんですね。という事はエルフって他にもいると?」
「覚えている限りだと我らが該当するへピロスエルフ、閃珂地方の閃珂エルフ、メーゲレン地方という場所のメーゲレン系エルフ、アフェル大陸という場所のアフェルエルフ、マーナフィーラ大陸のマナーラエルフがいると言っていましたね」
世界は本当に広いんだな。近くにいたエルフだけでも2つもいるとは思わなかった。とすると他にもドワーフとか獣人族とかもいたりするのかな?
「話はそれましたがそんなわけで我らにとって貴方は敬って当然のお方という訳ですよ」
「正直、実感が持てないのですが……」
少し前までただの村人だった僕が種族の違うエルフの間では神の遣い? 少し前の僕が聞いたら冗談だろって笑いそうな話だ。まだエルフ総出で揶揄っていると言われた方が信じるレベルの話だ。
「それに僕は何かを出来るような力なんてないですよ? 無様に逃げ出して何も考えずに誰かに助けてくださいと言うしか能のない存在なんですから」
「ケルヴァディオンの背に乗れた。ただそれだけで英雄になれる資格はありますよ。まぁ、今は実感なんて湧かないでしょうし今はそういう物だとなんとなくで受け入れておく方がいいでしょう」
まぁ、確かにそうかもしれない。英雄になれるから何かをやれと言われるよりはマシなのかな? それに等しい事をやらされそうになっている気がするけど。
「とにかく、今日はここでお休みください。話の続きは明日行いましょう。英雄じゃなかったとしても貴方のような境遇の子を見捨てるような事、今さら出来ませんしね」
「……わかりました。お言葉に甘えさせてもらいます」
今は言葉に甘えよう。例え罠だったとしてもそろそろ限界だ。ゆっくりと心も体も休まりたいと考えてしまっている。頭が上手く働かない以上何をしようとしても駄目だろう。
今ただ、彼らが親切なエルフだと信じて休むことにしよう。




