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第五話「エルフ・1」

 ケルヴァディオンに背中を預けて睡眠を取り、一夜明けた僕はケルヴァディオンの背に乗って移動を開始した。ケルヴァディオンはあそこを拠点に生活していたというだけで縄張りという訳でもなかったのか僕の言葉に素直に従ってくれた。そもそも彼らが縄張りを持つような習性を持っているのか知らないけどね。

 そしてケルヴァディオンだけど少なくとも無茶苦茶な指示でも出さない限りはこちらの指示に素直に従ってくれる。恐らくだけどこちらの言葉をある程度は理解しているんだと思う。でないと可笑しい所が多々あったからね。だけど、それで困る事なんて特にない。そもそもケルヴァディオンに乗れているという事自体可笑しいんだから何が起こってもおかしくはないだろう。


「でも、これから本当にどうしようか……」


 西に町がある事を祈って走らせているけど道さえ見つからない。それどころかいつの間にか荒野に迷い込んでしまっていて人の気配どころか動物の気配さえ途絶えてしまっている。完全にくる場所を間違えているような気がしてならないけどこの状況ならどこ行っても変わらないだろう。ならば直感でもなんでも信じて向かうしかない。


「最悪の場合はまたあの場所に戻ればいい」


 ケルヴァディオンにはそのように伝えている。伝わっているかは分からないけど知能の高さを信じてみるしかない。少なくとも最初に会った場所もあそこからはかなりの距離が開いていたんだ。大丈夫だと思いたい。


「それにしても本当に何もないな」


 ケルヴァディオンの背に乗った状態でも街らしき建造物は見えない。それどころか村と思わしき者さえ見えない。せめて道でもあればいいんだけどそれさえないあたりここは誰も通らないという事なのだろう。


「せめて動物だけでもいれば……、ってうわぁっ!?」


 思わず出た愚痴に反応したのか、ケルヴァディオンが突如として止まって右手後方に体を向けた。あまりにも突然の事に振り落とされそうになりしがみつく事で何とか助かった。あまりにもいきなりの事に悲鳴が出てしまった。ちょっと恥ずかしい。

 それにしてもいきなりどうしたんだろうか。こんな動きを見せたのは初めてだからよく分からない。まさか何か見つけたとか? 得物とか? やっぱり肉を食べるのだろうか?


「……」

「……え?」


 そんな風に思っていた時だった。突然、ケルヴァディオンが向く方角にあった大きな岩の陰から一人の少女が出てきた。まさか人がこんなところにいるなんて思わなかったけどそれ以上に驚いたのは彼女の姿だ。

 動きやすい軽装で可愛らしい容姿とは裏腹な凛々しいと感じる服装。弓を持ち背中に矢筒を背負っているからまさに狩人と言った風貌だ。そして、そんな彼女は長い耳を持っていた。そう、長い耳。エルフの特徴である。まさにここが異世界だと感じさせるファンタジー要素で僕も初めて見る。父さんや村長も見たことはないって言っていたし珍しい種族なのかもしれない。


「えっと……」

「……ウロ・シャン・エニ。……エニ・ヴルネ」

「んん? なんていったの?」


 あ、やっぱり言語が違うんだね。なんて言っているのか全然聞き取れない。僕が喋っている言葉だって日本語とは全く違う言語なのにエルフも違う言葉を喋っているのなら分からないよね。


「……ヴルネ、人間、お前、誰?」

「え? あ、喋れるの?」

「答え、言え、人間」


 そう思っていたらなんとこちらの言葉を喋ってきた。ただ単語で言っている感じだから話せるわけではなさそうだな。そして、そんなエルフ相手に僕の境遇を上手く伝えろと? 難しいよね。多分だけど答え次第では殺されそうな気がする。だって出てきてから今まで彼女は弓に矢をたがえていつでも放てる準備を整えているんだもん。恐らくだけどケルヴァディオンにビビッて姿を見せただけで気づかなかったら殺されていたのかもしれない。


「僕は、その、村が兵士に襲われて逃げて来たんだ」

「? 臆病者、犯罪者」

「違うよ。敵から逃げて来たんだ」


 伝え方が悪かったのか村で悪いことをして追放されたと思われてしまったかもしれない。少女の表情が少し険しくなったもん。きちんと伝えないと矢を討ってきそうだ。


「兵士たちがいきなり僕の村を襲ったんだよ。皆、殺されるか、捕まってしまって、僕は……」

「……エニ・本当」

「本当だよ」


 僕はエルフの少女の目を見て答える。そうだ。僕は逃げだしたんだ。父さんや母さんを見捨てて僕だけ、逃げて……。


「ここ、私、国。消えろ」

「出来れば助けてほしいけど……」

「ノア」


 この荒野はエルフたちの領域らしく今の僕は彼女たちの縄張りに土足で入り込んでいるという事らしい。だけどこのまま一人でいるよりはエルフだとしても保護を受けたいという気持ちが強い。正直、心が全然休まらないから村や町のような人がいっぱいいる人の生活圏に行きたいんだ。


「……私、ノア・利益。ノア」

「この貨幣をあげるのでもダメ?」

「ノア。ノア! あと、ケリヴァー、怖い。エニ・何」

「ケリヴァー? ケリヴァーってこのケルヴァディオンの事?」

「イリ。ケリヴァー、ノア、ケリヴァー、ケリヴァー」

「う、うーん?」


 もしかしてケルヴァディオンを知らない? だけど馬は知っているから馬とは思えないケルヴァディオンを怖がっているって事? だから信用できないって? ま、まぁ確かに? 何も知らないと普通の馬よりもでかいケルヴァディオンを怖いって思うのは当然か。


「彼はケルヴァディオン。すごく強い馬の仲間だよ」

「ノア! 嘘、嘘、ノア・ケリヴァー」


 駄目だ。彼女こちらの単語をそこまで知っているわけじゃなさそうだから話が微妙に通じない。このままだと信頼関係を築く事も出来ずに矢を放たれそうだ。……仕方ない。ちょっと怖いけどケルヴァディオンから降りよう。


「僕の家族だよ」

「……イリ。分かった。信用する、金、渡す」

「これだよ」


 どうやら貨幣はきっちり取るらしい。僕は貨幣が入った布袋を渡すために近づく。正直手渡しする勇気はないから半分くらいまで近づいたら袋を開けた状態で地面に置いてケルヴァディオンの元に戻った。この行動は少女も理解したのかこちらを警戒しつつ近づいて布袋を軽く調べている。エルフがどのような貨幣を用いているのか分からないけど少なくとも貨幣文化があるのは間違いなさそうだな。


「……イリ。保護する。来い」

「ありがとう」

「だけど、ノア・信用。遠く、歩く」

「分かったよ」


 恐らくだけどノアって言うのはエルフたちの言葉でいいえとか否定に使われていそうな言葉っぽいな。これ多分だけど保護というよりも捕縛の方が状況はあっていそうだな。

 でも少なくともこれで人のいるところに行けそうだ。エルフがどれだけ受け入れてくれるのか、それとも敵対するのか分からないけど村を襲ったやつらに比べれば何倍もマシだ。例えそれで殺されるとしても奴らにやられるよりはずっとずっとマシだ。


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