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第十一話「アギト国・1」

 アギト国は閃珂人4割、へピロス人6割で構成された国家である。そのうち人間は9割を超えており、閃珂エルフ等の一部の特例を除き人間種以外を蛮族として見下していた。

 これはアギト国の成り立ちに関係しているわけではなく、へピロス人において一般的な認識であったのだ。アルシャーンが住んでいた村のような外部と情報が隔離されている場所でこそエルフは珍しい種族程度として認識されているがアギト国のような大国でなら話は別だった。

 アギト国に存在する閃珂エルフ等の人間種以外の所謂亜人は軒並み奴隷として扱われ、劣悪な環境に置かれていた。閃珂エルフは耳以外は閃珂人と大した違いがない為にたまに閃珂人がエルフと間違えて奴隷にされる事もあったが全体で見れば小事だった。


 そんな国故に遥か西方でエルフが結託しつつあるという情報が入った時には国家の一大事とまではいかなくとも警戒するべき対象として見られることとなった。

 蛮族と蔑むエルフがどれだけ集まろうとアギト国の敵ではないが数が数だけに戦えば面倒な相手。

 その程度の認識でアギト国は駆除という形で討伐体を結成する事を決めたのである。


「エルフ程度、我らの敵ではない」


 討伐体2千を率いる事となった二千人長のゼルガは出陣する際にそう呟き自信満々に西方へと出発した。アギト国を含めへピロス三国では西方に関しての情報をそれほど有しているわけではない。精々が蛮族が生息する荒野が広がっている程度の認識でしかなく、詳細な地図があるわけでもなかった。

 つまり、討伐に出るとはいえ彼らはエルフがどこにいるのかさえ把握していないのだ。それでも彼らが自信満々な理由はエルフよりも自分たちが優れているという優越感によるものであり、これが自分たちと対等な人間の国家であれば偵察なり密偵を派遣して慎重に事を進めていた為、どれだけエルフを蔑み下等な種族として見下しているのか分かるだろう。


「荒野に入る前に休息をとるぞ」


 意気揚々と出陣した二千の兵士たちは10日程かけて荒野の入り口付近にまで到達した。人数分の食料を多めに用意した結果足が遅くなってしまった為に時間が経過したが彼らはそれも問題とはとらえていなかった。

 故に、その日の夜に大規模な夜襲を受ける事となった。

 最初の犠牲者は荒野の方を確認していた見張り、ではなく自分たちが歩いていた来た道を見ていた兵士達だった。まさか後方から敵が来るとは思っていなかった彼らは盗賊を警戒して僅か数名だけを見張りに立ているに過ぎなかった。音もなく近づき、闇夜でも必中の矢を放てるエルフたちにはいていないような見張りであった。

 彼らの死をもってエルフの夜襲は開始された。闇夜に向けて放たれる漆黒の矢。その数100。更に個別に狙った狙撃の矢が10。火を灯し、敵を焼き殺す火矢が50。それらが一斉に放たれた。


「て、敵襲!」

「火だ! 火がぁぁぁ!!!」

「い、いてぇ! 矢が足にぃ……!」


 第一撃の攻撃は大きな被害と混乱を彼らに与えた。まさか奇襲を受けるとは思っていなかった彼らはただただ矢の餌食となり、頑張って張った野営のテントを火矢によって燃やされていく。

 そして間髪入れずに第二射が放たれる。狙撃を狙った矢は指揮官だろうと下っ端だろうと関係なく射抜いていく。エルフにとっては誰が指揮官かなど分かるわけもなく、指揮官を捕らえるようなつもりもないために淡々と射殺していく。


「くそ! 後ろだ! 後ろに迎え!」

「敵は後ろから狙ってきているぞ!」


 第三射目が鼻垂れたあたりで漸く混乱が多少だが収まり矢が何処から放たれているのか理解した者が指示を出している。そうして盾を持つ者や物陰に隠れた者は自分たちが進んできた方向に体を向けて次の矢の襲来に備える。第四射目を持って一騎肉薄し、叩ききるつもりだったのだ。これまでの三回の矢によって何百人もの被害を出しているがまだまだ半数以上が健在だった。それは単に敵が放つ矢が少ないことにあった。それが意味するのは敵の方が数が少ないという事であり、数の差を用いれば簡単に返り討ちに出来ると考えていたのだ。

 そう考えられ、備えたうえでの第四射目は荒野の方より放たれる事となった。その数は300。これまでの倍の数の矢が無防備にも晒した背中に次々と突き刺さっていく。


「ぎゃぁぁぁっ!!!」

「後ろだ! 前か? 敵がいっぱいいやがるぞ!」

「挟み撃ちにされた! どうすりゃいいんだ!」


 まさかの反対側からの攻撃に再び混乱が起こる。そこへ第五射目が警戒していた後方より放たれた。備えていたはずの方向からの攻撃だがあり得ない背中からの攻撃を受けたことで混乱した彼らに対応などできるはずがなかった。


「クソ! 挟み撃ちだ! 気を付けろ!」

「物陰に隠れろ!」

「伏せろ! 伏せるんだ!」


 この時点で戦おうという意思を持った者はいなかった。それも仕方ないだろう。簡単に勝てると思っていた相手に奇襲を受け、大きな被害を出してしまっており、そんな状況で戦闘の意思をたぎらせる者はこの中には誰一人としていなかったのだ。

 そして、第五射目を最後に矢が飛んでくることはなかった。しかし、矢に怯えた彼らは結局朝日が昇るまでその場から動く事は出来ず、あたりが明るくなってきたことで漸く安堵するとともに悲惨な自軍の様子を見て絶句していく事になる。

 アギト国エルフ討伐軍2千。彼らはエルフの奇襲を受けながらもその姿を誰一人としてみる事もなく300人の死者と500人を超える負傷者を出し、まともな戦闘をする事もなく撤退していく事になるのだった。


 そしてこれがのちにアルシャーン国と呼ばれるようになるエルフたちの国家とアギト国の長い争いの最初の戦いとなるのだった。


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