第十話「エルフ・6」(地図有り)
「……いいだろう。我らはゼルギル族の提案を受け入れる」
「ありがとう。ともにへピロスエルフを繁栄に導こう」
僕は目の前で握手を交わすベルゴさんと向こうの集落の族長さんの様子を見て緊張をほぐすようにため息をつく。馬にのって最初の集落へとついたわけだけどベルゴさん達と同じような反応を見せてきた。どうやら本当にケルヴァディオンとは彼らにとって神聖な存在だったようだ。
おかげでベルゴさんの提案はすんなりと受け入れられ、この集落はゼルギル族の集落と合体することになった。近いうちに彼らはゼルギル族の近くに越してくるそうだ。流石にいきなりとなると難しいのでしっかりと準備をしたうえで、となるらしい。
今日はこの集落に泊まって次の集落に向かう事になるらしい。こんな簡単に決まるとは思っていなかったけどどうやら使者が訪れてから集落内で話し合いをしていてケルヴァディオンを見て決める事で決まっていたようだ。そして、ケルヴァディオンに乗る僕を見て確信してゼルギル族に合流する事に決まったようだ。
「暫くは今回のような事が続くと思います。ケルヴァディオンを見て敵対したり反対する者は中々いないでしょうからな」
とはベルゴさんの言葉だ。やっぱりケルヴァディオンは僕の想像しているよりも大きな影響力を持っているみたいだね。それに乗る僕もそれに相応しい人物にならないと本気でいけないのかもしれない。
「ケルヴァディオン、信用、気を付ける」
「うん。ケルヴァディオンは僕の生命線だ。失望されないような人物にならないと……」
本当に僕をなんで選んでくれたのかは分からないし何時失望されてもおかしくはない。だから僕もそれに相応しい人物にならないといけないと感じてくる。とりあえずは体を鍛えてみるとかから始めてみようかな?
「アルシャーン。筋肉ない。鍛える、必要」
「あ、アハハ……。エナさんにも言われるなら頑張らないといけないね」
僕よりも筋肉が無さそうなエナさんにまで言われるなんて相当だしね。
その後も順調に僕たちの旅は続いた。周辺の集落は次々と合流する事を示し、僕たちがゼルギル族の集落に戻る頃には最初の集落の人たちが合流し始めており、一月も経つ頃にはゼルギル族は1000人を超える大集団となっており、ちょっとした町と言ってもいい規模になっていた。
「それもこれもアルシャーン殿のおかげですな」
「僕のおかげというよりもケルヴァディオンの威光のおかげですよ。僕はそれに跨った運の良い子供でしかありませんから」
「それをつかみ取り物に出来るかも本人の才覚次第ですよ」
今日、最後の集落が合流する予定となっており、合流後は集まった族長同士で会議が行われる。集まった以上今後どのような体制を取っていくかを話し合わないと問題が発生しちゃうと思うからね。
「アルシャーン殿も是非参加してください。エルフ神聖語は何処まで習得しておりますかな?」
「まぁ、単語をいくつか程度ですね。正直通訳がないとまともに理解は出来ていません」
「まだ一月程度なら仕方ないでしょう」
族長たちが用いる言語は正式にはエルフ神聖語と言って大半のエルフが話しているらしい。だからこれを覚えれば基本的にはどの大陸のエルフとも会話が可能らしい。エルフは神聖領域という場所で繋がっている為に言語も統一されているのだろう。
しかし、だからと言って触れあって一月程度では会話をするなんて出来る程覚える事なんて出来ない。辛うじていくつかの単語や文法の意味をなんとなく把握することができるようになったくらいだ。なので族長同士の会議には通訳をつけてもらう事になった。
「さて、それでは族長会議を始めるとしよう」
集まった場所はベルゴさんの家、ではなく倉庫だ。集まった族長は護衛や側近も含めれば10人を軽く超えている。そんな人数が一堂に会するには族長の家では小さすぎた。
座り方は無難に円形になって座っている。僕も座っているけどそこを上座とするとなら隣にはベルゴさんがその反対側に一番規模の大きいフルガ族の族長が座っている。後は適当で序列はあってないようなものだ。皆エルフというだけあってイケオジという雰囲気で見る人が見れば黄色い悲鳴を上げそうな空間になっている。
進行役はベルゴさんだ。提案者且つ僕を保護しているという事でこの中だと一番の発言権を持っている。ちなみに僕にも発言権はあるらしいけど素人の僕のが口を出しても余計な混乱を産むと思うし他の人たちの意見も知りたいのであまり口を出さないで様子を見るつもりだ。
「議題は今後の組織運営についてだ。我らがこれだけの集団で集まったことはない。つまり明確に決めておかねば問題が発生しかねないと思っている」
「それもそうだな。既に俺の所とグス族の若者がいざこざを起こしている。幸いにも直ぐに解決したが今後もそれだけで済むとは思えないしな」
そう発言したのは確かダンゴ族の族長さんだったはず。族長の中で一番若いって聞いているけどエルフは僕たちよりも6倍以上長く生きるせいでいまいち区別がつかない。僕らにとっては1、2歳差程度なんだろう。
「やっていくとしたらベルゴやアンガンを中心とする族長同士の合議制と言ったところか? 何処かの部族を中心に、ってやりゃ他が反発するだろうしな」
「そうだな。それが良いと思う」
多分だけどそこが落としどころだろう。何処か一つでも大きな勢力が入っていれば別だけどここにいるのはどっこいどっこいな集落ばかりだ。隣に座っている族長さんだって少し規模が大きいくらいみたいだし。
「だがこれから新参者も増えるだろう。部族を形成していない者も増えてくる。そう言った者はどうする?」
「いきなり加えちゃ混乱は必至だな。だが下っ端扱いすりゃでけぇ規模の部族なら反乱を起こしそうだな」
「その辺は追々考えるべきだ。今は我らだけでやっていく前提で組織を作るべきだろう」
エルフとは本来プライドが高くて誰かの下につきたがらない者が多いって聞いていたけど彼らは全員年配に近い人たち且つ厘という大国の侵略を受けた事があるためか大きな誰もが譲歩をして穏便に進んでいる。正直意外だった。これ僕がいなくともまとまったんじゃないかと感じる程に。
「とりあえず俺たち11の部族を中心に合議制の国家として運営していくって事で良いな?」
「異議なし」
「それでいいと思いますよ」
いつの間にかダンゴ族の族長さんがベルゴさん以上に仕切っている。ベルゴさんは参謀的な立ち位置を好む人でこういったまとめ役は苦手そうだし今後はあの人が進行役をやった方がいいかもしれないな。僕が提案したとして受け入れてくれるかは分からないけど。
「それで、だ。一応まとまったから言うが俺は英雄の子の意見も聞きたいところだ。ケルヴァディオンに乗れるあの餓鬼が付いてこれているかも知りたいしな」
「ゴギ殿のいう事に賛成します。私も彼の意見を聞いておきたい」
「お飾りかもしれないが名目上でも私たちは彼の元で団結していますからな」
あら、皆僕の方を見て……。ああ、成程。通訳の人が言うには僕の意見を聞きたいと。ベルゴさんの方を見れば小さくうなずいているし何かしら喋らないと駄目っぽいね。
「えー、と。僕としては今後エルフ以外、人間等も受け入れていきたいと思っています。エルフの皆さんからすれば複雑だし反対するかもしれませんがエルフだけでやっていくには限界があると思うので」
「そりゃそうだ。その提案には俺は反対しねぇぜ」
「我らもですな。閃珂人が相手なら話は違ってきますがへピロス人なら受け入れても問題は無いでしょう」
どうやら僕の意見に反対はいないらしい。聞き訳が良いと感じるけどこれって自分達だけでやっていく事の限界を理解しているって事だよね。
「とはいえそれは当分先になると思います。そして、僕はアギト国を除くへピロス三国と交流を持った方がいいと考えています」
「へピロス三国? そりゃ一体なんだ?」
「ここより東にある国家の総称でしたかな?」
「なぜそんな国と?」
へピロス三国は知らない人もいるのか。確かにここってアギト国からも大分離れているし知らない人がいてもおかしくはないのか。
「へピロス三国はへピロス地方にある三つの大国です。ここと友誼を持つ事で今後国家として認識されやすくなり、いざという時に役に立つと思います」
とはいえこれはなんでかんで必要なわけではないと思う。へピロス三国に限らずとも西や南を探せば国家はあると思う。そこと友誼を結ぶ手だってあるんだ。強制はしない。最悪の場合は侵攻される可能性だってあるわけだしね。
「私は賛成します。大国の庇護は今の我らには必要でしょう」
「俺は反対だ。属国にされる可能性だってある。危険だ」
「国と友誼を結ぶ事で交易が出来るかもしれません。生活を豊かにできるので賛成です」
「それなら交易だけすればいい。態々国と会う必要なんてないだろう」
反対意見も賛成意見も多い。みんな真剣に考えてくれているな。僕としては子供の空想として一笑されて終わりも考えていただけに少し以外だ。やっぱりケルヴァディオンに乗れるって言うのはそれだけ重要視されているって事なのかな。
と、その時、ベルゴさんが手を叩く。一瞬にして場が静まり誰もがベルゴさんの方を向いた。
「いったん落ち着こう。アルシャーン殿の意見は直ぐにでもやろうというものではない。我らが部族同士結束し、国家と呼べるほどに強大になってから友誼を結ぼうと言っているのだ。それからであれば従属させられる危険も減り、我らの力も格段に大きくなっているだろう」
その言葉に誰もが冷静になる。確かに今は呼びかけに応じた人たちだけで通食った部族連合でしかない。ここから国家となっていくのか分裂するかは今後の運営次第だ。あまり先を見ても良くはないか。
「とにかく、今は目先の事を考えましょう。厘の侵攻時でさえ纏まる事が出来なかった我らエルフが纏まり、一つとなる奇跡が起きたのです。この好機を逃さずに我らエルフが虐げられる事がないようにしていこうではありませんか」
そのベルゴさんの言葉に誰もが頷いた。エルフが虐げられない世界。この場の誰もがその目的で一致しているのだ。
その後も会議は続き、部族連合は無事に発足し、巨大な力を持つ国家としての第一歩を歩み始める事となる。




