第219話「夜空にある答え」
木の下で見つかった金色のしるしは、王かんのようにも、大切な印のようにも見えました。
それが星に関係するものなら、夜空を見れば何かわかるかもしれません。
その日の夜、あかりちゃんは空を見上げてみることにしました。
その日の夜ごはんのあと、あかりちゃんはふと思い出しました。
木の根もとの、金色のしるし。
夜空の色をしたかけら。
月みたいな形。
白い羽のような飾り。
「夜の空を見たら、何かわかるかな」
そうつぶやいて、あかりちゃんは家の外へ出ました。
空は、もうすっかり暗くなっています。
昼間の青とはちがう、深い青の空です。
その中に、小さな星がいくつも光っていました。
「わあ……」
思わず声がもれます。
いつも見ているはずの空なのに、今日は少しちがって見えました。
まるで、どこかにひみつがかくれているみたいです。
そのとき、うしろからお母さんの声がしました。
「どうしたの? 空を見てるの?」
「うん」
あかりちゃんはふり返ります。
「学校でね、星みたいなものを見つけたの」
「星みたいなもの?」
お母さんはふしぎそうに笑いました。
「うん。まだちゃんとはわからないんだけど、夜空の絵みたいなかけらがあって」
あかりちゃんは、木の下のことを少しだけ話しました。
月のような絵。
青い空のかけら。
白い羽みたいな飾り。
そして、まんなかの金色のしるし。
お母さんは、「へえ」と目を丸くしました。
「それは気になるね」
「でしょ?」
「でも、暗いところをのぞくときは気をつけるのよ」
「うん、わかってる」
あかりちゃんはもう一度、空を見上げました。
「お母さん、ペガサスって空にある?」
「ペガサス?」
お母さんは少し考えてから言いました。
「星座のことかな。たしか、秋ごろに見つけやすいって聞いたことがあるよ」
「星座……」
あかりちゃんは、図書室の本を思い出しました。
羽のある馬。
夜空をかけるような絵。
でも、空に見えているのは、絵ではなく小さな星だけです。
「どれがペガサスなんだろう」
あかりちゃんがつぶやくと、お母さんは空を見ながら言いました。
「星って、線が見えるわけじゃないからね。形を知ってると見つけやすいけど、はじめはむずかしいよ」
「そっか……」
あかりちゃんは、少しだけがっかりしました。
でもそのあとで、ふと思います。
木の下のかけらも、はじめはただの白い石みたいに見えました。
でも、光が当たると、線が見えてきたのです。
「星も、おんなじかも」
「え?」
お母さんが聞き返しました。
「知らないと、ただ光ってるだけに見えるけど、ちゃんと見たら形があるのかも」
お母さんは、やさしく笑いました。
「そうだね。見つけようと思って見ると、今まで見えなかったものが見えてくることってあるね」
その言葉を聞いて、あかりちゃんの胸が少しあたたかくなりました。
空には、明るい星がいくつか並んでいます。
四角っぽく見えるところもありました。
その近くには、細い月も出ています。
「あっ……」
あかりちゃんは目をこらしました。
四つの星が、なんとなく大きな四角みたいに見えたのです。
そのそばに、月。
もちろん、木の下のかけらとまったく同じではありません。
でも、少しだけ似ている気がしました。
「お母さん、あれ、四角に見える」
「ああ、ほんとだね」
「もしかして、あれが……」
あかりちゃんは最後まで言えませんでした。
星の名前はまだわかりません。
でも、空にもちゃんと“ならび”がある。
それだけは、はっきり感じられました。
風がひとふきして、夜の空気が頬にふれます。
星は静かに光ったままです。
「明日、ゆうとくんたちに話そう」
あかりちゃんは小さく言いました。
「うん。きっとまた新しいことがわかるよ」
お母さんが答えました。
あかりちゃんは、もう少しだけ空を見ていました。
夜空は広くて、学校の木の下にうまっている小さなかけらより、ずっと大きい。
でも、どこかでつながっている気がします。
木の下のかけらは、だれかが空を見て作ったものなのかもしれない。
そんなことを考えると、胸がまたどきどきしました。
やがて、家の中から声が聞こえます。
「冷えるから、そろそろ入ろうか」
「はーい」
あかりちゃんは、最後にもう一度だけ空を見上げました。
四角に見える星のならび。
その近くの月。
遠くでまたたく、小さな星たち。
はっきりした答えは、まだありません。
それでも、夜空のどこかに、木の下のひみつと同じ形があるような気がして、あかりちゃんは少しうれしくなりました。
夜空を見上げると、星はただ光っているだけでなく、いろいろな形に見えてきます。
木の下のかけらも、きっとだれかが空を見て作ったものなのかもしれません。
三人のひみつは、学校の土の下と、夜の空とを、少しずつつないでいきます。




