第214話「ならべて見えるもの」
白いかけらには、小さな穴があいていました。
それは自然のものではなく、何かの形の一部なのかもしれません。
三人は放課後、見つけたかけらをならべて、どんな絵や形になるのか考えてみることにしました。
その日の放課後、あかりちゃんたちは教室のすみの机をひとつに寄せました。
「ここなら、ゆっくり見られるね」
あかりちゃんが言うと、はるとくんがうなずきます。
「なくさないように気をつけよう」
「うん」
ゆうとくんはポケットから、ハンカチに包んでいたかけらをそっと取り出しました。
小さな木のかけら。
青いかけら。
そして、今朝たしかめた白いかけらのことを、三人は頭の中で思い出します。
「白いかけらは、まだ木の下にあるんだよね」
あかりちゃんが言いました。
「うん。持ってきてない」
はるとくんが答えます。
「でも、形はだいたい覚えてる」
「細長くて、少しまがってて、下に穴があった」
ゆうとくんが指で空中に形をえがきました。
三人は、机の上に木のかけらと青いかけらを並べてみました。
小さな木のかけらの裏には、細い月のような白い形。
青いかけらには、白い線と、小さな星みたいな点が三つ。
「こうかな」
あかりちゃんが並べると、
「いや、こっちの向きかも」
とはるとくんが入れかえます。
ゆうとくんも、何度か向きを変えてみました。
「ぴったりは合わないけど……」
あかりちゃんがつぶやきます。
「でも、夜の空っぽいのはわかる」
はるとくんが言いました。
机の上には、まだ完成していない絵の一部がありました。
青い空。
月。
星。
そこまでは、たしかです。
「じゃあ、白いかけらはどこに入るんだろう」
あかりちゃんがたずねました。
三人はしばらく考えこみました。
白いかけらは、夜空の一部というより、そこに浮かぶ何かに見えます。
「鳥かな」
はるとくんが言います。
「夜空を飛ぶ鳥」
「でも、鳥なら昼の絵にもなりそうだよね」
あかりちゃんが首をかしげました。
「うーん……」
ゆうとくんは、青いかけらの白い線を指でなぞるように見つめています。
「月があって、星があって、白い羽みたいなのがある……」
そのとき、教室の窓から夕方の光がさしこんできました。
机の上のかけらに、やわらかい光があたります。
「あっ」
あかりちゃんが声をあげました。
青いかけらの白い線が、きらりと光ったのです。
それにつられるように、小さな木のかけらの月の形もうっすら明るく見えました。
「見て」
はるとくんが、机にできた影を指さします。
かけらの影が、夕方の光で少しのびて、机の上に重なっていました。
その形が、ふしぎなふうにひとつにつながって見えたのです。
「羽みたい」
あかりちゃんが言いました。
「ほんとだ」
ゆうとくんが身をのり出します。
「青いかけらのとなりに、白いかけらがあるって考えると……」
彼は、白いかけらの形を指で机の上になぞりました。
細長く、少しまがった線を、何本か外へ広げるように。
「こう?」
あかりちゃんも、反対側にもう片方の形を作ってみます。
すると、三人の目の前で、まだ見えないはずの形が、なんとなく浮かび上がりました。
「わあ……」
あかりちゃんが小さく息をのみます。
月のある夜空の下に、白いものが左右に広がっている。
羽です。
それも、小さな鳥の羽ではなく、もっと大きくてやわらかそうな羽。
「鳥じゃないかも」
はるとくんが言いました。
「じゃあ何?」
「天使……みたい」
その言葉に、あかりちゃんは目をぱちぱちさせました。
ゆうとくんも、少し驚いた顔をしています。
「天使?」
「うん。ほら、絵本とかに出てくる、白い羽のある……」
たしかに、夜空と月と白い羽。
そう言われると、そんなふうにも見えてきます。
「でも、学校に天使の絵なんてあるかな」
あかりちゃんが言うと、三人は少し笑ってしまいました。
「じゃあ、鳥でも天使でもなくて、もっと別のものかも」
ゆうとくんが言いました。
「空を飛ぶ何か」
「空を飛ぶ何か……」
あかりちゃんは、その言葉をくり返しました。
すると、ふと頭の中に、前に図書室で見た本の絵が浮かびました。
夜空の中を、白い羽のついた馬が飛んでいる絵です。
「あっ」
あかりちゃんが顔を上げます。
「どうしたの?」
はるとくんが聞きました。
「前に、本で見たことある。羽のある馬」
「馬?」
「うん。空を飛ぶ馬」
ゆうとくんが少し考えこんでから言いました。
「それ、ペガサスっていうやつじゃない?」
「ぺがさす?」
あかりちゃんには、ちょっと聞きなれない名前です。
「図鑑で見たことあるよ」
はるとくんが言いました。
「星座の名前にもあった気がする」
三人は、また机の上のかけらを見つめました。
夜空。
月。
星。
白い羽。
「星座……」
あかりちゃんがつぶやきます。
その言葉をきいたとたん、三人は同時に顔を見合わせました。
「もしかして!」
あかりちゃんが言います。
「ただの絵じゃなくて、星座の絵かも」
ゆうとくんが続けました。
「だから、夜空なんだ!」
はるとくんも声を上げます。
三人の胸が、どきどきしてきました。
まだ全部はそろっていないし、はっきりとはわかりません。
でも、ばらばらだったものが、ひとつの考えでつながった気がしたのです。
「じゃあ、木の下の白いかけらも、もっと大事だね」
あかりちゃんが言いました。
「うん。羽の形がちゃんとわかれば、何かわかるかも」
ゆうとくんがうなずきます。
「それに、まだほかのかけらもありそう」
はるとくんが、窓の外の大きな木を見ました。
夕方の校庭には長い影がのびています。
あの木の下と、植えこみの近くに、まだ見つかっていない何かがあるのかもしれません。
「明日、また探そう」
あかりちゃんが言いました。
「うん」
「つぎは、羽のつづきだね」
三人は、かけらをもう一度ハンカチに包みました。
机の上からふしぎな形は消えましたが、心の中には、月の下に広がる白い羽のイメージがはっきり残っています。
帰り道、あかりちゃんは空を見上げました。
まだ夕方の明るい空です。
でも、もう少し暗くなったら、星が見えるはず。
もし本当にこれは星座の絵なら――
学校のどこかに、そのつづきがまだねむっているのかもしれません。
机の上にかけらをならべてみると、夜空と白い羽の形が少し見えてきました。
それは、ただの絵ではなく、星座に関係するものかもしれません。
三人のひみつは、学校にかくれた“空の物語”へつながっていくのかもしれません。




