第213話「白いかけらのならび」
青いかけらと小さな木のかけらは、夜空の絵の一部のようでした。
けれど、大きな木の下にあった白いかけらが、何をあらわしているのかはまだわかりません。
次の日の朝、三人はもう一度、木の根もとへ向かいました。
次の日の朝も、あかりちゃんたちは早く学校へ来ました。
校庭にはまだだれもいません。
朝の空気はひんやりしていて、草の先には小さなつゆが光っていました。
「今日は、白いかけらをちゃんと見よう」
あかりちゃんが言うと、はるとくんとゆうとくんもうなずきました。
三人はまっすぐ、大きな木のところへ向かいます。
木のうしろのくぼみは、昨日土を少しもどしたままの形で残っていました。
「ここだね」
ゆうとくんがしゃがみこみます。
三人もその場に集まって、そっと土を見ました。
すると、やっぱり白いかけらが少しだけ見えています。
朝の光の中では、ただ白い石みたいにも見えました。
「まだ光ってない」
はるとくんが言いました。
「でも、もう少し待てば見えるかも」
あかりちゃんは木の葉のすきまを見上げました。
朝日が少しずつのぼって、枝のあいだから細い光がこぼれてきます。
その光が木の根もとへ近づくと、三人の胸もどきどきしてきました。
「あっ」
最初に声を上げたのは、あかりちゃんでした。
白いかけらのひとつに、光がふれたのです。
すると、その表面の細い線が、すうっと明るくなりました。
「見えた!」
ゆうとくんが顔を近づけます。
ひとつ光ると、そのとなりの白いかけらも、またひとつ、そのまたとなりも、順番に線がうかび上がってきました。
「ならんでる……」
はるとくんが小さく言います。
三人は息をとめて見つめました。
白いかけらの線は、昨日みたいに羽のようにも見えました。
でも、今朝は少しちがっていました。
一本ずつの線が、くるん、くるんと同じ向きにそろっていて、まるでやわらかい毛が重なっているみたいです。
「羽……かな」
あかりちゃんが言いました。
「うん。でも、鳥の羽っていうより……」
はるとくんが言いかけて、首をかしげます。
「なんだろう」
ゆうとくんがつぶやきました。
三人は、少しずつ土をどけて、白いかけらのならびをもっと見てみることにしました。
右を少し。
左を少し。
下もほんの少しだけ。
すると、白いかけらは一つずつばらばらなのではなく、同じ方向にそろって土の中にうまっていることがわかってきました。
「これ、見て」
はるとくんが指をさします。
「こっちのも、同じ向きだ」
「ほんとだ」
あかりちゃんが言いました。
「みんな、こっちを向いてる」
白いかけらは、木の根もとから少し外へ広がるように並んでいました。
それはまるで、何かがふわっとひらいているみたいです。
「羽じゃなくて……」
ゆうとくんが、じっと見ながら言いました。
「しっぽ、かも」
「しっぽ?」
「うん。鳥の、長いしっぽみたいな」
その言葉に、あかりちゃんは目をぱちぱちさせました。
「じゃあ、羽じゃなくて、しっぽの羽?」
「そうかもしれない」
はるとくんもうなずきます。
「たしかに、同じ向きにそろってるし」
三人は、昨日見つけた青いかけらのことを思い出しました。
月。
星。
夜空。
そこに、白い羽のようなしっぽ。
「夜空の絵に、鳥がいるのかな」
あかりちゃんが言いました。
「でも、ただの鳥かなあ」
ゆうとくんが首をかしげます。
そのときです。
朝の光がもう少し強くなって、白いかけらの線全体がいっせいにきらっと光りました。
「わっ!」
三人の声が重なります。
光った線は、一瞬だけ、ほんとうにふわりと広がる白い羽の束のように見えました。
木の根もとの土の中に、何か大きな形の一部分がかくれている。
そんな感じが、急に強くなりました。
「これ、一個ずつ出してみる?」
あかりちゃんが聞きました。
三人は顔を見合わせます。
気になる。
でも、こわしてしまったら大変です。
「少しだけなら」
はるとくんが言いました。
「はしのほうを一つだけ見てみよう」
「うん。いちばん外側のやつなら、だいじょうぶかも」
ゆうとくんも答えました。
三人は、端にある小さな白いかけらのまわりの土を、そっとどけました。
そのかけらは思ったより細長くて、白くて、つるつるしています。
「きれい……」
あかりちゃんが小さく言いました。
さらに少し土をどけると、その根もとに小さな穴が見えました。
「穴?」
はるとくんが顔を近づけます。
「ちがう、糸を通す穴みたい」
ゆうとくんが言いました。
「糸?」
「うん。ほら、ここ」
たしかに白いかけらの下のほうには、小さな丸い穴がひとつありました。
自然にできた穴には見えません。
「じゃあ、これ……本物の羽じゃない」
あかりちゃんが言いました。
「うん。何かにつけるためのものだ」
はるとくんが答えます。
三人は、いっせいに顔を見合わせました。
「かざり?」
「おもちゃ?」
「それとも……」
その先は、だれも言葉にできませんでした。
でも、みんな同じことを思っていました。
これは自然のものではなく、だれかが作ったものだ、と。
月の絵のかけら。
星のある青い空。
そして、穴のあいた白い羽みたいなかけら。
「何かの形があるんだ」
あかりちゃんが言いました。
「きっと、ぜんぶそろったら」
「うん」
ゆうとくんが静かにうなずきます。
「たぶん、空を飛ぶものだ」
そのとき、遠くから子どもたちの声が聞こえてきました。
朝のしずかな校庭に、いつものにぎやかさが近づいてきます。
「もうすぐみんな来る」
はるとくんが言いました。
「今日はここまでだね」
あかりちゃんは名残おしそうに白いかけらを見つめました。
三人は、どけた土をやさしくもどしました。
白いかけらが見えなくなると、そこはまたただの木の根もとに見えます。
でも、三人にはもうわかっていました。
あの下には、ただの石でも貝がらでもない、何か大切な形がかくれているのです。
「つぎは、青いかけらと白いかけらをいっしょに考えよう」
ゆうとくんが言いました。
「うん」
「どんな形になるか、ならべてみたい」
三人は立ち上がり、教室へ向かいました。
ふり返ると、大きな木の枝のあいだから朝の光がこぼれて、根もとをやさしく照らしていました。
それはまるで、土の下のひみつを、まだ全部は見せないよ、と言っているみたいでした。
白いかけらは、ただの羽のように見えていましたが、小さな穴があいていました。
それは自然のものではなく、何かの飾りや形の一部なのかもしれません。
月の絵、夜空のかけら、白い羽のようなもの――三人のひみつは、少しずつひとつの姿に近づいています。




