第九話 僕、また何かやっちゃいましたか?
気がつけばそこは冒険者ギルドだった。
ユーリシティアに連れてこられた今、ルーテシアはギルドで冒険者として登録を行っていた。
数十分前の記憶を掘り起こしてみる。
ルーテシアはユーリシティアを初めて見て、エルフという種族に見惚れていた。
いや、正確には美しい白銀のエルフ、つまりはユーリシティアを見て我を失ったのである。
それからは思い出すだけでも恥ずかしい数々。
いきなり友達になってと告白し、過度なスキンシップで彼女に迫った。
ユーリシティアの腕を絡め取り、ルーテシアのニセ胸を腕に当ててみたり、何度も彼女の名前を呼び甘える。
こんなの側から見たらただの痴女、いやルーテシアは男の娘なんだから痴漢か?
とにかくただの変態だ。
ああ、何度思い返しても恥ずかしい。
でもそんな思いとは裏腹にルーテシアの心は充実していた。
何というか幸福感?満腹感?的な物がルーテシアを支配していた。
ふと昔、父に言われた言葉を思い出す。
「良いかいルー?インキュバスである我々は好みである美しい女性を見ると本能で彼女たちを追ってしまう。そして仲良くなろうと無意識で行動してしまうものなんだ。訓練すればそういった衝動は抑えられるが経験の無い若い淫魔は暴走する傾向がある。だからルーも最初はとんでもない失敗をするかもしれない。でもそれを恐れてはいけない。私たちは失敗を糧にして成長するのだから……」
そういう父は少し涙を浮かべ遠い目をしていた。
なるほど。これはどうやらインキュバスである自分にとっては性みたいなものらしい。
つまりは避けられない衝動という訳である。
やってしまったものは仕方がないのでこれからの事を考える。
幸運にもルーテシアはどうやらユーリシティアには嫌われなかったらしい。それどころか好意を感じる。
ちらりと彼女の横顔を伺い見る。
キリッとした横顔は大人の女性の魅力を十分に醸し出し、堂々とした冒険者としての振る舞いは尊敬に値する。
ふとユーリシティアと目が合った。
わずかな微笑みをルーテシアに向けるとルーテシアの心臓はドクンと高鳴った。
この感覚は間違いない。ルーテシアは彼女に恋をしている。
ルーテシアは落ち着こうと深呼吸をする。
別に年頃の男の娘が女の子に恋をするのはおかしな事では無い。
むしろ普通だ。
そう、普通。普通。普通……。
ルーテシアはムムムと心に平常心を唱えていると突然冒険者ギルドの受付さんから声がかかった。
「あ、あの大丈夫ですか?」
「へ?」
「あの……、鼻血が……」
何ということでしょう。
ルーテシアはあまりの緊張と興奮からか鼻血を出してしまったみたいだった。
またやってしまった失態にルーテシアは恥ずかしさのあまり、目に涙を浮かべて俯いてしまった。
「ほらルー。これで血を拭いて」
「ご、ごめんなさい。ありがとうございみゃす……」
ルーテシアは隣にいたユーリシティアに渡されたハンカチを使い鼻血を拭いた。
ああ、ユーリシティアは何と優しいのだろう。
ルーテシアは鼻血を拭きながらハンカチに着いていたユーリシティアの匂いを堪能していると心も穏やかになった様な気がした。
「こほん。では改めて何か質問はありますか?」
「いえ、大丈夫です」
ルーテシアはギルドの受付さんに問題無いと返事を返す。
これで登録は済んだらしく、受付さんから鉄で出来た冒険者プレートを受け取った。
そこにはルーテシアの名前とランクが書かれていた。
「これでルーテシアさんは正式に冒険者となりました。これからこのエンデルでの活躍を楽しみにしています。まあユーリシティアさんが面倒を見てくれるみたいなので安心ですね」
「私は別にそこまでするとは……」
「はい!ユーリ先輩!!これからご指導宜しくお願いします!!」
ルーテシアは間髪入れずユーリシティアの発言を遮る。
自分はここまで恥をかいたんだ。だから絶対にこの人を落としてみせるとルーテシアは意気込む。
「良かったわー。ルーテシアさん、ユーリシティアさんと仲良くしてあげて下さいね?彼女って実力と実績はあるけど交友関係が全くと言って良いほど無かったから心配だったの。だから彼女があなたみたいな可愛い子を連れて来た時は驚いたわ」
「はい!任せてください!!」
「おい!何を勝手に……」
「だってもう僕たちは仲良しですから!!ね?先輩?」
「そ、そうなのかな?」
「そうですよ!」
そう言うとルーテシアはユーリシティアに抱きついた。
ユーリシティアの胸に顔を埋め鼻いっぱいに彼女の甘い香りを溜め込んだ。
ああ、やっぱりこの匂いは落ち着くなぁ。
ユーリシティアの方も満更でも無いらしく、ルーテシアの頭を撫でていた。
この光景を見て、冒険者ギルド内は騒めく。
「お、おい、あのユーリシティアに懐いている奴がいるぞ……」
「本当だ……。うらやま……、いやけしからん!女の子同士だからって……。やっぱり羨ましい!!」
「すご。あーあ、やっぱり可愛く無いと白雪姫様にはお目にかかれないのかー。私も美人だったらなぁ」
無数の目が二人を見ていた。
せっかくだからルーテシアはユーリシティアとの仲良し度を見せつけてやろうとそう思い、顔を上げる。
そこには鬼の形相をしたユーリシティアがいた。
「あれ?僕、また何かやっちゃいましたか?」
「知らない!!」
ゴチーンと鈍い音が辺りに響き、ルーテシアは痛みに悶絶して床を転げ回った。
気づいた時にはユーリシティアの姿は無く、ルーテシアの頭には大きなたんこぶが出来ていた。




