第八話 ユーリシティア=カーティエ
ヒロイン登場回です。
ユーリシティアは今日も今日とて様々な男性から声を掛けられる。
やれパーティを組もうとか、やれ食事でもどうかと。
毎日その様な下心が見える誘いを受け続けると嫌でも男という生き物がとても下等で下劣な様な物に見えてくるのは仕方がない。
「ユーリシティア嬢。是非今度一緒に食事などはどうかな?」
「お断りします」
何度目か忘れたが何度もしつこく食事に誘ってくるユーリシティアと同じゴールドランクの冒険者を足蹴にする。
彼の腕は確かなのだが女に色目を使いすぎるのは軽蔑に値する。
目にも入れたくないのでこの男の名前もあまり良く覚えていない。
えーっとあいつの名前何だっけな?
まあともかく今のユーリシティアには色恋などは必要ない。
必要なのは強さだ。
ユーリシティアの故郷であるカーティエの里に不老不死の呪いを掛けた悪魔を探し、その悪魔を倒す。
そして呪いを解くのがユーリシティアの使命。
ユーリシティアたちエルフ族に掛けた呪い。
それを解除しない限り、ユーリシティアたちエルフは滅びはせずとも未来は暗い運命にあった。
それだけは絶対に避けなければならない。
そんな使命じみた考えが頭の中をぐるぐると駆け回り、ユーリシティアの気持ちが落ち着かなくなる。
そんな時、一人の少女がユーリシティアの前に出てきた。
体調が悪いのか肩で息をしているし、顔も赤い。
ユーリシティアは初めて見る顔なので警戒しながら観察する。
2本の双剣を腰に携え、簡素ながら上質な胸当てやこれまた上質な籠手や靴を装備している冒険者の様な出立ちはさながら貴族のような雰囲気を醸し出している。
顔立ちもとても整っており、美人と言って遜色は無い。
もっと良く見てみるとその腰まである長い金髪は一本一本がまるで絹の様に滑らかであり、胡乱げに見つめる翡翠色の眼は何処までも澄んでいた。
肌は日焼けなどしていない真っ白な色をしており、ほのかにしているであろう化粧は自然でよく似合っている。
そして彼女がしている香水は初めて嗅ぐが心地良い匂いであり、自然と彼女を意識してしまう。
そんな彼女が頭を下げ、手を差し出してきた。
「お、お友達からよろしくお願いします!」
「は?」
いきなりな事で思考が止まる。
えーっとお友達?
この女の子は自分と知己になりたいと?
このパターンは初めてだ。
大抵は下心のある男が声をかけるのが殆どだ。
女性の冒険者も多くはないが少なくとも声を掛けられる事はほぼ無かった。
ユーリシティアはこの街で白雪姫と呼ばれるくらいには有名人だ。
その意味は儚くとも脆い雪の様な、手に触れてもさらりと解ける様な高嶺の花という意味だ。
そしてもう一つ私には二つ名がある。
それが氷の女王だ。
これは主に女性の冒険者から付けられたあだ名で、誰にも取っつかない冷たい人間性を意味しているらしい。
要はユーリシティアは同性から嫌われている。
そんな自分に女の子から好意的に声を掛けられたのだ。
驚くのは無理も無かった。
「おい、あの白雪姫が固まってるぞ!」
「ええ、あの一匹狼の氷の女王様が困っているわ!」
「ていうかあの女の子は誰だ?よく見ると可愛いじゃん!」
時間にして十数秒だろうけど周りの野次馬たちはユーリシティアたちを見てあれこれと捲し立てた。
普段見せない顔を大勢の他人に見せているようで顔が熱くなっているのが分かる。
こんなに自身の心を乱されたのは久しぶりだった。
「ちょっとあなた!こっちに来なさい!」
「あっ……」
思わずユーリシティアは目の前の女の子の手を引き、群衆から離れた。
手を引いたまま、人気の少ない路地裏へと入り彼女を問いただした。
「あなた何がしたいの!?」
「え?何って先ずは友達からかなーと思って……」
「それが意味わからないって言ってんの!!」
話が通じない。
どうも彼女の言葉は飛躍している節がある。
「て言うかそもそもあなた誰よ?私のこと知ってそんな事言ってるの?」
「ああ!そうですよね!自己紹介が最初ですよね!失礼しました。僕はルーテシア=アーリコーデ。これから冒険者になる予定です」
「冒険者になる予定?あなた何処かの貴族か何かでしょ?危険だから冒険者なんてならない方が良いわよ。この街のダンジョンには危険な魔物が沢山いるのよ?」
「はい知ってますよ?」
ルーテシアは当たり前じゃんという様に戯けた顔をユーリシティアに見せる。
その身振りからユーリシティアはこの女の子の異常さを再認識する。
この路地裏に来るのに少なくともユーリシティアは全力で走ってきた。
当然この女の子の手を引いてだ。
それなのに当然の様について来ているし、息も乱れていない。
それを意味するのはこの子は全くの素人では無いと言う事だ。
少なくとも体力は普通の冒険者程度はあり、おそらく魔法の修練や戦闘訓練を積んでいる。
本気で冒険者になろうとする気概も合間見えた。
「分かったわ。少なくとも戦う事は出来るみたいね。軽い口を叩いてごめんなさいね」
「いえ、それよりも先輩のことも僕に教えてくれたら嬉しいなぁ」
ルーテシアに上目遣いで見つめられる。
おかしい。
どうして自分は平然としていられないのだ?
いつもなら適当にあしらってそれで終わりなのに気がつけば相手のペースに乗せられる。
逃げる事を許されない。
「わ、私はカーティエの里のユーリシティアだ。家名は無いが、そうね、ここではユーリシティア=カーティエと名乗っている」
「ユーリシティア先輩ですね!?この出会いに感謝を……。あ、ユーリ先輩って呼んで良いですか?」
「もう好きにしてちょうだい……」
「やったー!!ユーリ先輩、これからよろしくお願いします!僕のことも気軽にルーって呼んでください!」
ルーテシアは喜びのあまりか、その場でくるくると舞っていた。
そのあまりに無邪気な格好を見ているとあれこれと考えていた自分が馬鹿みたいにに思える。
気が抜けたのか自然と笑みが溢れていた。
ああ、こんなにも他人を意識すること無く自然と笑ったのはいつぶりだろう?
自分にもこういった気の置けない友人がいたら今の状況も楽しめたのだろうか?
いや、自分たちカーティエ一族はただの人間じゃ無い。
呪いで時が止まった私たちは老いることも許されない。故に寿命で死ぬことも無い。
それは同胞の居ない地でとても孤独な事だった。
「ねぇねぇユーリ先輩。僕この街初めてなんです。だから冒険者ギルドの場所とか分からなくて困ってたんです。だから一緒にギルドまで案内してくれると嬉しいなぁ」
ルーテシアは潤んだ瞳でユーリシティアを見上げ、両手を握りながら懇願した。
その言葉と迷える子羊の様な見過ごせない庇護欲を唆るその姿は万人を魅了する小悪魔の囁きだった。
「し、しょうがないわね……。私は先輩だからね、仕方なくよ?」
「わーい!ありがとうございます!ユーリ先輩!!」
何故か断れないユーリシティアはそのままルーテシアに右腕を抱きつかれた。
腕に当たるルーテシアの胸の柔らかい触感、体を密着する際に鼻腔を擽る妖しい匂い。そして伝わるルーテシアの温かい体温と心臓の音。
全てがユーリシティアの思考をぐちゃぐちゃにした。
私、どうしちゃったのだろう?
どうしてドキドキが止まらないの?
この子から目が離せない。
でも嫌な気はしない。むしろもっとルーテシアと仲良くなりたい。
不思議な気持ちだった。
女の子の友達がいたらこれが普通なのかとユーリシティアは疑問に思った。
この世界ではエルフも普通の人間です。
ただし、不老不死の呪いを受けているので結果として長寿です。




