第七話 先ずはお友達から
第一章開始です。
ゲートを通るとそこはちょっとした森の中だった。
まだ夜が明けたばかりらしく、澄んだ空気が肺を刺激する。
小鳥の囀りに耳を澄まし、深呼吸をすると空気が違うのが分かる。
もうここはメトセラという世界なのだということが実感として湧いてくる。
辺りを見るとどうやらここはちょっとした小高い丘になっているようで近くを見渡すと巨大な街があるのが分かった。
どうやらあの街がエンデルらしい。
ルーテシアはエンデルの街を観察する。
迷宮都市という事らしいが、カルデラ地形の様な窪みの中にびっしりと家々が立ち並ぶその姿は隕石で出来た大きなクレーターの中にある大都市だった。
そして街の中央には大きな砦みたいなものがあり、そこから放射状に街が発展しているのが分かる。
「うーん、見た感じあの砦みたい場所の中にダンジョンの入り口があるのかな?」
考えても仕方がないのでとりあえず街に向かう。
途中、悪魔と分からない様に淫魔の尻尾を魔法で隠してからルーテシアは街に入った。
まだ街は早朝にも関わらず街の大通りは活気に溢れていた。
大通りには朝市が立ち並んでおり、様々な食材を始め、武器や装飾品など色々な屋台がある。
中でも群衆の多くは朝食を求め、簡単な食事が楽しめる屋台に集中していた。
「屋台かー。折角だし僕も何か買おうかな?」
一般的に悪魔の生命維持活動は人間の様々な感情のエネルギーなので、人間が食べる様な食べ物は嗜好品でしか無い。ちなみに少しだが悪魔のエネルギーにもなる。
よって無理に食べる必要は無いのだが別に食べても問題は無いし、当然味覚はあるので美味しい食べ物や酒などは好んで食べたり飲んだりする。
みんなが美味しそうに食べるものだから食指が伸びるのも無理は無かった。
「おじさん、このパン一つ下さい」
「あいよ!一つ銅貨5枚だよ」
野菜や肉が挟んである細長いパンの値段を聞き、財布を開く。
ここで一つの失敗に気づいた。
自分の財布には大量の金貨しか入ってないのだ。
「あのー、これでお願い出来ますか?」
恐る恐るルーテシアは店主に向かって金貨を一枚差し出す。
「金貨!ってそんな大金出されてもお釣り出せねぇよ」
ですよねーとルーテシアは心の中でそう呟く。
「はぁ。何処のお貴族様か知らないけど金貨なんてこんな庶民の通う店で出さないでくれよ?ほれ、持っていけ」
「え?でも……」
「ツケでいい。今度来る時は銅貨で払ってくれ」
そう言われると無理やり店主の男からパンを渡される。
「お嬢さん。何処から来たか知らないが金貨なんて見せびらかすものじゃない。言っちゃ悪いがここは迷宮都市、要は冒険者の街だ。荒くれ者も多い。早くそれを仕舞いな」
「ありがとうおじさん!あなた良い人ですね!」
「ふっ……。美人に弱いだけのただのおやじさ」
そう言うとさっさと行きなと言わんばかりの手振りで追い返された。
手に具沢山のパンを持ちながらルーテシアはその場を離れる。
親切にされたからか気分が良い。
早く冒険者ギルドに行って冒険者になろうと意気軒昂の心持ちで歩みを早めた。
相変わらず人が多い大通りをパンを齧りながら進む。
「む。普通に美味しいな」
パンは葉野菜にトマトの様な赤い果実、蒸し鶏の様なしっとりとした鶏肉が挟まっており食べ応えがある。
ソースは甘辛く、舌を少し刺激する。
食べ進む毎に食欲が刺激され飽きずに食べる事が出来た。
パンを食べ終わり、歩くスピードを上げた。
開けている大通りは中央の砦の様な物まで一直線に続いているらしく、ここからでも大きな外壁の一部が見える。
勘だけど砦の近くに冒険者ギルドの様な施設があるとルーテシアは考えた。
それでも確実性が無いので誰かに尋ねるのが一番だろう。
周りを見渡すと周りの人たちは剣や防具を装備している。
彼らも冒険者なのだろうか、若いグループも居ればベテラン風を吹かせた風格のある冒険者もいる。
誰に尋ねるか慎重に相手を見定める。
今更ながらルーテシアは緊張していた。
何故ならば今のルーテシアはソロだし、ぼっちだった。
地元から離れて知り合いの居ない大学に進学してそこで全く面識のない学友に初めて話しかけるみたいな感じか、もしくは初めて就職した会社の懇親会でどの同僚に話しかけるか迷うみたいなものだ。
ルーテシアは話しかけた相手如何でこれからの冒険者ライフが決まるかも知れないと思うとあと一歩の勇気が出てこない。
あの見た目がルーキーっぽい男女の二人組にしようか?
いやダメだ。あれはきっとデキている。
いかにもなリア充の空気がプンプン臭ってくる。
そんなカップルにルーテシアの様な美少女(男の娘)が間に入ったらきっと彼らは気まずい関係になるだろう。
あっちの装備の整っているベテランっぽい冒険者はどうだろうか?
あれもダメだ。周りの女性を見る目からスケベ魂を感じる。
あれはきっと色恋にだらしないぞ。
そんな男にルーテシアの様な美少女(男の娘)が声を掛けたらセクハラとか面倒になる事間違いない。
ルーテシアはむむむと頭を抱えながら人定めをしていると一際歓声が上がった。
なんだなんだと歓声が上がる方へと目を移すとそこには一人の冒険者がいた。
それは一言で言い表すなら白雪。
白銀の美少女が居たのである。
何よりも目を奪うその眩い長い銀髪は歩く度にサラサラと雪の様に揺れ、その大きな青い双眸は氷の様である。
そして何よりも目を引くのは彼女の長い耳であった。
どの人間よりも長い耳が表すのは彼女がエルフという種族であることだった。
ルーテシアは初めて見る希少種のエルフに感動を禁じ得なかった。
なんて美しいのだろうと。
その感動は姉であるリリラルカに初めて化粧して貰った自分を見た時に等しいかもしれない。
「ユーリシティア嬢。是非今度一緒に食事などはどうかな?」
あっ、さっきのスケベそうな冒険者が彼女に話しかけてる。
「お断りします」
ユーリシティアと言われた美少女エルフは男を一度も見る事なく断りを入れる。
男のその見事な振られっぷりに周囲は湧く。
ルーテシアは彼女の名前がユーリシティアと言うのを聞いた。
ユーリシティアが男をゴミみたいな感じで扱うのがクール系でとても良いと感じ、ルーテシアのインキュバスとしての本能なのか心が揺れているのが分かる。
いつの間にか夢遊病患者のように自然と彼女を追っていた。
ああ、彼女と仲良くなりたい……。
そして出来ればその清らかな乙女を自分のものににしてその芳醇で甘い果実を貪りたい……。
タベタイ……。
今すぐにでもクイタイ……。
でも我慢。
美食とは素材を適切に美味しく調理しないと美食となり得ないのだ。
だから先ずは……。
「お、お友達からよろしくお願いします!」
気づいた時にはルーテシアは彼女の前に立ち、とんでもないことを口走っていた。




