第五話 リリラルカの旅立ち
本日五話目です。
母との話の後、父や姉にも自分の考えを話した。
二人とも母と同じ様に反対する様な事はなく賛成してくれた。
父、イングリッドに至っては「女性と近づくのにそんな方法があるとは……」と男の娘の可能性を見出していた。
そんなこんなでさらに時が経ち、我が姉であるリリラルカ=アーリコーデの人間界への旅立ちの日が訪れた。
「リリ、準備はいい?」
「はい、お母様!」
「リリ、何かあったらいつでも帰ってきてもいいからね?」
「もうお父様ったら泣かないでよ」
「うぅ、だって!」
リリラルカの見送りに家族水入らずで会話する。
父は号泣しながら、母も目に薄らと涙を浮かべている。
姉も散々泣いた後なのか、目は腫れていた。
「ねぇね……」
「ルーも元気でね」
「うん……」
そんなルーテシアも泣きじゃくっている。
「あ、そうそう。ルーの作ったスライムシリコン。凄いわね、これ」
「お母さんと頑張って改良したから……」
アイリカルラにプレゼンしたスライムシリコンはさらに進化を遂げ、着色も自在にする事が可能となった。
その結果、肌に装着しても違和感なく盛る事が出来た。
控えめだった姉の胸も今では人並み以上のバランスの良い大きさとなった。
「でも大丈夫かしら?最近チャンネルが開いた世界なんでしょ?何でも地球とかいう星らしいけど」
「へ?地球?」
母の発言に思わず聞き返してしまう。
「そう地球。魔法が無い世界らしいからそんなに危険は無いらしいけど」
「そうそう。魔法が無いけど発展している世界なんだって。不思議よね。ルーも興味あるの?」
「や、興味っていうか……」
僕、元その世界の住民です。
「とにかく新規開拓しなきゃいけないんだから気合い入るわね!よし!それじゃあ行こっか!!」
「はい、リリラルカお嬢様。お供します」
メガネを掛けた黒髪のメイドサキュバスは凛々しい声で返事をする。
リリラルカよりも年上の側仕えのナナリルはルーテシアたちが小さい頃から良くしてもらっている。
「ナナリルもリリラルカを頼みます」
「はい。必ずや……」
「ナナリルも頑張ってね」
「はい、お坊ちゃま。いえ、ルーテシアお嬢様とお呼びした方が?」
「うん。そうだね」
ナナリルと向き合ったルーテシアは思わず彼女に抱きついてしまった。
そのまま頭を埋めて涙を堪える。
息をする度に鼻をくすぐる甘い香りはアイリカルラとは違ったナナリルの母性を感じた。
「では行ってきます!!」
そう言い残すと二人の姿は部屋から居なくなった。
少し寂しい気もするが、今生の別れという訳でも無いのだ。
リリラルカ達は帰ろうと思えばいつでも家に帰る事が出来るのだから。
そんなルーテシアももうすぐ旅立ちの日が近い。
その日が来るまで鍛錬を続けており、魔法だけではなく礼儀作法なども仕込まれる。
今では何処に出しても恥ずかしくない立派な男の娘となった。
ルーテシアが行く世界はその名もメトセラと言い、父と母が出会った剣と魔法のファンタジー世界だ。
そのため装飾もその世界に合わせる事になり、今から工房に剣を発注する事になった。
「ほーん。こんがメトセラに行くお嬢様か?あんな他の悪魔がひしめき合う危険な世界にこんなほっそい体で大丈夫かいな?」
目の前には幼女がいた。
幼女が槌を振るう。
火花が散り、カーンと甲高い金属音が部屋に響く。
「ええ、そうよ。私の子だもの。見かけにはよらないわよ?デンテ」
「別に悪口言ってる訳ちゃうわ。心配しとるんよ」
「だから貴女に頼んでるじゃない」
「あの、お、お願いします」
ルーテシアは見た目と喋りのギャップに驚き、頭を下げてお願いする。
「やめやめ、頭下げられる立場にないわ。御領主様の子どもさんやからもっと堂々とし」
「は、はぁ」
「ルー。彼女はデンテ。元ドワーフのサキュバスよ」
「ドワーフ!」
ファンタジーでも定番の種族のドワーフがいた。
しかも小さくて可愛い。
そんな彼女が我が領の鍛治師をやっている。
「そんで何作るん?やっぱ定番の剣か?斧でも弓でもええよ?」
「双剣が良いです」
「双剣?双剣なんか使えるんか?扱い難しいで?」
「はい!たくさん練習しましたから!!」
こう見えてもルーテシアは双剣に慣れ親しんでいる。
まあ、モンスターをハントするゲームの話しだけど。
ルーテシアはファンタジー世界に行くならこれ一択だと思い込んでいた。
「そうか。じゃあ双剣打ったるわ。細かい注文あるけ?」
「えーとじゃあこれ。デザイン図です」
昨日一晩中考えたデザインをデンテに見せる。
素人のデザインだからプロのデンテに何と言われるか不安だったが問題無さそうだ。
「ええと思うよ。白と黒の双剣ね。白い方は鳥の羽をモチーフにして黒い方は植物か」
「はい。白い方は比翼。黒い方は連理と言います」
「名前までもう考えとるんかい。こりゃあ大仕事やで」
「ふふ、頼むわよ。デンテ」
「言われんでも分かっとる。お嬢様の剣、しっかりと作らせてもらいます」
工房を後にしたルーテシアたちは他にもメトセラに着て行ってもおかしくなく、それでいて魅力的な服やちょっとした防具なども他の工房に注文をした。
そして半年も経つとデンテから双剣が完成したと連絡が入った。
前回と同じ様に母とデンテの工房にお邪魔すると待ってましたとばかりにデンテが出迎えてくれた。
「おー、待っとうたよ。ほれ、これが完成品じゃ」
「ありがとうございます!」
受け取った双剣は白い方の比翼は軽く、黒い方の連理はというと途轍もなく重い不可思議な剣だった。
思わずデンテの方を見ると頭を掻いていた。
「言われんでも分かっとる。最初は同じ重さでどっちの剣も作ろうと思ったんよ?でも普通じゃつまらん。だから素材を別々にしたんよ。そしたら重さがバラバラになったわ」
誤魔化すように豪快に笑う。
釣られてルーテシアも笑い声を上げたがどうしようかと頭を悩ませた。
「まあ性能はピカイチやから使い方によってはええ武器や。比翼の方は主にミスリルで出来ておる。ミスリルは魔力をよお通す。金属としては軽いが魔力を通して属性を付けたり強化すれば切れ味は抜群じゃて。しかしいかんせん軽い。質量のある物は切りにくい」
「なるほど」
「逆に連理の方は重くした。連理に使用した金属はオリハルコンや。オリハルコンは頑丈さだけで言えばこの世で右に出る奴はおらん。でも魔力はあまり通らんから基本的に強化しか出来ん。強化出来るのは連理を更に重くするという物や。これで切れば岩でも鎧でも粉々や」
「な、なるほど……」
つまり、比翼は日本刀の様に切る特化で、連理は鈍器としてぶっ叩く特化という事らしい。
扱いは難しそうだけど練習すれば物に出来るだろう。
それにしても連理の重量を操作するという考えは面白い。
重さとは重ければ重いほど運動エネルギーが大きくなるのだからこれをマスターすればいろんな事に応用出来そうだ。




