第四十一話 冒険者ギルドはお祭り騒ぎ
どうしてこうなった……。
ユーリシティアとルーテシアの二人は冷や汗が止まらない。
「いやいや待て待て、冷静に考えて妊娠しても一日二日でそんなにお腹が大きくなるわけないだろ?」
「それもそうね。ルーテシアさんのお腹には驚いたけど、そもそも女の子同士で赤ちゃんが出来るわけないじゃない」
落ち着きを取り戻したアーノルドとイーファはルーテシアたちを問い詰める。
「一体何を隠してるんだ?」
「な、何も隠してませんよ?」
ルーテシアは露骨にアーノルドから目を逸らし、誤魔化そうと口笛を吹く。
「ユーリも何か言ったらどう?普段のあなたならあんな事絶対言わないでしょ?」
「うっ……。やっぱりダメ?」
「ダメ」
ユーリシティアもイーファの詰問にたじたじだ。
「あのー?自分からも質問いいですか?結局ダンジョンにいたとされる吸血鬼はどうなったのですか?サティアさんや意識不明の犠牲者は目を覚ましたらしいので、これで事件は解決したのでしょうか?」
いつの間にかいたシモンの存在にみんなが驚き、声をあげる。
「そ、そうだった。クリスやサティアが脱落した後の事の報告を頼む」
シモンに問われて自分の職務を思い出したアーノルドはユーリシティアとルーテシアに報告を求めた。
「えーっと……」
ルーテシアはユーリシティアの顔を見る。
ユーリシティアの顔は青くなり、緊張からか視線が定まってなかった。
まあ、彼女自身の生い立ちのせいで長い間、人との関わりを拒否していたのだ。こう言った場面の言い訳を上手く出来るかと期待出来るか言われれば、正直言って期待出来ないとルーテシアは思った。
ならば自分がユーリシティアとイスラフィールの為に矢面に立つしか無い。
ルーテシアは頭の中で言って良い事と悪い事を考える。
言ってはいけない事は、今ルーテシアがイスラフィールを服の下に隠し持っているという事。そしてユーリシティアの妹であるトゥーリアナの存在だ。
彼女の介入で自分たちが死にかけたという事がバレるときっと恐らく冒険者ギルドはトゥーリアナに殺人未遂行為で指名手配をするかもしれないからだ。
それはきっとユーリシティアは望んでいないだろう。
逆に言えばそれ以外は言って良いという事になる。
「サティアさんが噛まれた後、僕たちは吸血鬼と話し合いの場を設けました」
「吸血鬼とか?よく相手に応じて貰えたな」
「運が良かっただけです」
「それで?その話し合いはどうなったんだ?」
「結果として吸血鬼と友達になりました」
ルーテシアの言葉にユーリシティア以外の全員が絶句する。
人間とは違う超越者としての存在と友達になる事は可能なのか?
アーノルドとイーファは半信半疑になる。
「いやぁ話せばちゃんと話の分かる良い子でした。誠心誠意お願いすればなんとかなるものですよ。ね?僕の"お願い"ですよ?」
ルーテシアはアーノルドに見逃せと目で訴える。
ルーテシアが何を言いたいか感じ取ったアーノルドは手で頭を掻く。
どうすべきかアーノルドは迷う。
確実にルーテシアは何かを隠している。
その答えはきっとルーテシアのお腹にいる何かだ。
しかしそれはアーノルドにとってパンドラの箱でしかない。開けてしまったら最後。きっとアーノルドに災厄は降りかかる。
それだけのネタを、アーノルドの弱みをルーテシアは持っている。
「分かった!分かった!しかし責任は持てよ?ルーテシア」
「はい!もちろんです!」
アーノルドの了解を取るとユーリシティアとルーテシアは逃げる様にそそくさと部屋を後にする。
「行かせて良かったの?」
「良くはない。でもあの二人を敵に回すよりかはマシだ」
「それもそうね」
部屋に残されたアーノルドとイーファは事後処理で残業だなと愚痴を溢しあった。
「シモンもあまり詮索するなよ?」
「はい。もちろんです」
シモンは記事の草案を考えているのかしきりにメモをし、妄想に耽っていた。
部屋を出たユーリシティアとルーテシアの二人は最大の難関を突破出来たことに喜びあっていた。
「やったね!ルー!」
「はい!ユーリ先輩!!」
手を取り合い喜ぶ二人は自分たちの世界に入る。
大切な存在であるイスラフィールを守り通すことが出来たのだ。その事が嬉しくて堪らない。
後は家に、拠点である喫茶ダーラムへと帰るだけた。
そう思うとルーテシアの足は早くなる。
しかしながらルーテシアのお腹には魔法で包まれているイスラフィールがいるのだ。そのことを忘れそうになるせいか、ルーテシアはバランスを崩して転けそうになる。
そんなルーテシアをユーリシティアは肩を貸して助ける。
そんな姿が何だか夫婦っぽくて二人は顔が赤くなった。
ルーテシアは男の娘なので本当はユーリシティアと立場が逆なのだが……。
そんなこんなで二人は冒険者ギルドの受付があるホールへとやって来る。
冒険者ギルドのホールは静まり返っていた。
何せお腹を大きくしたルーテシアがユーリシティアの肩を借りながらやって来たのだ。
その静けさの異常にユーリシティアとルーテシアの二人は周りの状況に気づいていない。
今だに二人は自分たちの世界に入り込んでいた。
「あっ。今、お腹を蹴った」
「大丈夫?ルー?あなたのお腹には私たちの大切な……」
無関係な人が聞くと勘違いしそうな意味深な言葉を途中で区切ったユーリシティアは周りの目線に気づいた。
ホールにいた冒険者からギルドの受付の職員までユーリシティアとルーテシアの二人を見ている。
「おいおいおい!白雪姫とルーテシアちゃんに赤ちゃんが出来たのか!?」
「まじかよ……。世界って広いなぁ……。女の子同士でも子どもって出来るんだな」
「きゃー!!ユーリシティア様とルーテシアちゃんの赤ちゃんですって!!」
「そんな!私の中ではルーユリでルーテシアちゃんが攻め、ユーリシティアさんが受けなのに!でもユリルーの受け攻めも悪くない!!」
一度起きた波は止まる事なく津波になる。
ギルドの中は大勢の人でお祭り騒ぎになった。
そんな状況になった中、ユーリシティアとルーテシアは勘違いされた恥ずかしさで涙目になりながらそそくさと冒険者ギルドを後にする。
あの中ではきっと二人の声はみんなに届かないだろう。
百聞は一見にしかず。後でどんな弁明をしても彼らはきっと信じない。
どうすることも出来ない二人は無事にダーラムへと帰る事が出来るのだろうか?
二人の試練はまだまだ続く。




