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転生したらインキュバスでした。せっかくなので男の娘になろうと思います!!  作者: ゆすはらからす
第一章 魔の森

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第四十話 壮大な勘違い

 ユーリシティアはズタズタになった自身の両手を見る。

 熱で火傷した両手の皮膚は酷く変色し、少し動かすだけで激痛が走った。

 それも少しの時間で元通りになる。

 ユーリシティアがトゥーリアナから受けた不老不死の祝福。その力が瞬く間にユーリシティアの負傷した両手の火傷を治していく。


 両手が完治したのを確認すると、ユーリシティアは想像したくない結果を思い浮かべながらルーテシアとイスラフィールがいる後方へと目を向けた。


「ルー……」


「ユーリ先輩……。イスラが……、イスラが!!」


 ルーテシアは動かないイスラフィールを強く抱きながら泣いていた。

 どうしてこのような結果になったのかはユーリシティアにはわからない。

 それでもイスラフィールは自分たちのために命を捧げてくれたと分かる。

 そしてその命を結果として、妹のトゥーリアナが奪ったとも。


 ユーリシティアは悪魔が嫌いだった。

 それは悪魔が自分たちに不老不死の呪いをかけたと思い込んでいたから。

 でも実際にはこの不老不死の力は悪魔とは一切関係無かった。自分の妹であるトゥーリアナの祈りの結果、自分たちは不老不死になったのだと。


 そしてユーリシティアは悪魔に出会った。

 ルーテシアというちょっと変わった可愛い女の子の悪魔。

 自分のことを好きと慕ってくれる年下の子。

 そんな彼女にユーリシティアは出会い、恋をした。


 そしてもう一人。

 それがイスラフィールだった。


 今回の事件を引き起こした身勝手な吸血鬼。

 最初はなんて我儘な子だと思ったけど、本当は友達が欲しかっただけの心根は優しい女の子。

 ユーリシティアも長い間一人だったから彼女の気持ちは痛いほど分かる。孤独とは辛いのだ。


 そんな彼女が自分たちのために命を懸けてくれた。

 不老不死のユーリシティア一人ならトゥーリアナの攻撃で死ぬことはない。

 しかし、ルーテシアとイスラフィールの二人は確実に死んでいた。


 なんという自己犠牲の尊さよ。

 今日出会ったばかりのルーテシアたちにイスラフィールは自分を犠牲にしてルーテシアを守ってくれたのだ。


 ユーリシティアは神に祈った。

 どうか彼女の魂に救いがあるようにと。そして願わくば輪廻した彼女の魂が再び自分たちと出会える様にと。


 その時、不思議なことが起こった。

 ルーテシアの手に抱かれていたイスラフィールの体が突然光だした。

 激しい光は周囲を包み込み、ユーリシティアもルーテシアも眩しさで目を閉じる。


「イスラ?」


 激しい光が収まるとルーテシアは腕の中にいたイスラフィールが軽くなった事に気がついた。


 ぶかぶかの洋服に短くなった黒髪。

 手足も子どものように小さくなり、体重も元の十分の一くらいに感じる。

 要はイスラフィールは十五歳くらいの少女から産まれてから数ヶ月くらいの赤ちゃんになっていた。


 重要なのは見た目ではない。

 幼児化したイスラフィールには息があった。

 心臓の動く音も胸に耳を当てれば聞こえる。


「ルー、イスラは一体?」


「わ、分かりません……。少なくとも僕たち淫魔では魔力の消耗で体が縮んだりはしません。吸血鬼だからなのか、イスラが特別なのか……」


 ともかく死んだと思ったイスラフィールが生きていたのだ。

 その事実にユーリシティアとルーテシアは歓喜した。


 しかし問題はどうやってイスラフィールを連れて帰るかだ。

 吸血鬼とはいえ、今のイスラフィールは赤ちゃんだ。

 感じる魔力も覇気も自分たちと対峙した時とは月とスッポンだ。

 そのままここでお別れという選択肢は無い。


「このままイスラを置いては帰れません。どうにかして連れて帰ります」


「私もルーの意見に賛成だけど、どうやって帰る?私たちは最後までダンジョンに残った冒険者。少なくともアーノルドやイーファに説明する責任があるわよ?」


「そうですよねー」


 要はイスラフィールの存在を隠しながら冒険者ギルドに戻り、拠点のダーラムまで帰る。

 ダーラムにいるメルフィーナたちサキュバスなら吸血鬼であるイスラフィールの存在をきっと受け入れてくれる。

 それまでにイスラフィールが誰にも見つからなければ良いのだ。


 最悪、事情を知らないこの作戦に参加してない人ならばイスラフィールの姿を見せても良い。

 今のイスラフィールの姿はただの幼児だ。魔力も普通の人くらいしか無い。


「やはり最大の関門は冒険者ギルドの転移陣からギルドの外に出るまでですね。街にさえ出れば後はどうとでもなりそうです」


「それはそうだけど、絶対にイーファたちは転移陣の近くにいるわよ?」


 ルーテシアは考える。

 この世界には残念な事に収納魔法なぞという便利な魔法は存在しない。

 この時ほど元の世界の国民的マンガの某ネコ型ロボットの四次元ポケットを欲したことは無い。


 収納?

 ポケット?


 頭に浮かんだこの二つの単語がルーテシアに天啓の閃きを与えた。


「良いことを思いつきました」


「ルー、何か案が?」


 真剣な眼差しでユーリシティアはルーテシアに問う。


「僕のお腹にイスラを隠します。こう服を被せて……」


 ルーテシアの案を聞いてユーリシティアは残念そうにため息を吐く。


「そんな小さな子どもが親に内緒で家に子犬を隠して連れて帰るみたいな事で通し切れるのかしら?」


「とにかくやってみましょう」


 ルーテシアはイスラフィールにごめんねと断りを入れ、先程使った水帷(アクアヴェール)の魔法を使い、イスラフィールを水の膜で覆った。

 なるべく小さくなる様に赤子が母親の胎盤で丸くなっている様に操作してイスラフィールを自分の服の中に入れた。


「あー、なんかこういう動物見た事あるかも。母親のお腹にある袋で子どもを育てるの」


「カンガルーですか?」


「へー、あの動物そんな名前なんだ」


 ルーテシアの案を見たユーリシティアはなんとも言えない感想しか出ない。

 しかし、今の自分たちにはこれが最善の策のように思えた。

 時間はかけられない。

 今頃、冒険者ギルドでは自分たちを助ける為の救助隊が編成されている頃だろう。

 うかうかしているとその部隊がここにやって来る。


「もうルーの案で行きましょう。バレたらその時よ。無理矢理押し通る」


「さすがはユーリ先輩です!頼りになります!」


 ルーテシアに煽てられたユーリシティアは自慢げになった。

 気持ちが大きくなった二人は急いでダンジョンと冒険者ギルドを繋ぐ転移陣へと行き、冒険者ギルドへと転移した。


 案の定、転移した先にはアーノルドとイーファがいた。

 二人の無事な姿を見たアーノルドとイーファは胸を撫で下ろすが、お腹が大きくなったルーテシアを見た途端、彼らはとんでもない勘違いを起こした。


「お、おいルーテシア!お前どうしたんだそのお腹!?」


「ルーテシアさん!一体ダンジョンで何があったのですか?そのお腹の子はどうしたのですか!?」


「「へ?」」


 斜め方向からの二人の感想にユーリシティアとルーテシアは間抜けな声が漏れた。


 ルーテシアは自分のお腹を見る。

 大きく膨れたお腹はまるで見る人から見たらそれは妊婦のようであって……。

 そして忘れていたがルーテシアは男の娘だが、彼の見た目は可愛らしい年頃の女の子なのである。

 つまり、アーノルドとイーファの二人はルーテシアが妊娠したと壮大な誤認をしてしまったのである。


 早急に弁明すべきだが、この二人には今回の事件の犯人であるイスラフィールの存在を明かす事は出来ない。

 何故かルーテシアが身籠ったと勘違いしているのだからその流れに乗っかるしかなかった。


「あ、あの!この子はその……、ユーリ先輩との子で……」


「ちょ、ちょっとルー!?」


 慌ててルーテシアの言葉を否定しようとユーリシティアはルーテシアに詰め寄るが、目の前にはイーファたちがいる。

 ユーリシティアもイスラフィールには借りがある。ルーテシアを守ってくれた恩がある。

 その大恩に報いるために一時の恥は受け入れるべきだとユーリシティアは腹を決めた。


「そ、そうよ!私たちの子よ!女の子同士でも出来ちゃったの!!」


 ユーリシティアの絶叫は部屋に響き、いつの間にか騒ぎを聞きつけた記者のシモンに写真を撮られた事に全員が気が付かなかった。


 後のルーテシア懐妊事件の見出しにユーリシティアの絶叫と共に載せられた写真は後世に残る伝説となった。

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