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転生したらインキュバスでした。せっかくなので男の娘になろうと思います!!  作者: ゆすはらからす
第一章 魔の森

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第三十七話 姉妹喧嘩

 ユーリシティアは肩を震わせながら剣の切先を妹のトゥーリアナへと向ける。


「何のつもり?トゥーリ?村にいるはずの病気のあなたが危険なダンジョンなんかに何故いるの?」


「それはこっちのセリフ。どうしてお姉ちゃんはそこの薄汚い二人と一緒にいるの?人間じゃないんだよ?こいつらは」


 トゥーリアナはまるで汚物でも見る様な目でユーリシティアの後ろにいたルーテシアたちを見た。


「ルーをそんな風に言わないで!」


「悪魔なんかに絆されちゃって……。一体どんな甘い言葉に騙されたのやら……」


 トゥーリアナはやれやれと肩をすくめて呆れた目でユーリシティアを見る。


「答えなさいトゥーリ!病気でろくに家から出られないあなたが何故村から抜け出した!」


「そんなの病気じゃないからに決まってるじゃない」


 トゥーリアナの言葉をユーリシティアは信じることが出来ない。

 だってユーリシティアの妹は生まれた時からいつも体が弱くて、少し運動しただけで熱を出して寝込んでいたから。

 そんな幼少期を一緒の家で暮らしていたのだ。それが仮病なわけが無い。


「忘れたの?私たちは不老不死の祝福を授かっているのよ。そんな体で病気なんかになるはずないじゃない」


「祝福?そうか……」


 トゥーリアナの話を聞いていたイスラフィールは咳き込みながらそう呟く。


「大丈夫?イスラ?」


 そんなイスラフィールの様子を心配しながら抱き抱えていたルーテシアが聞き返す。


「ユーリにかけられた不老不死の術は悪魔の呪いではなかったんだ。あいつの肩に乗っている使徒の祝福だったのよ。だからユーリの血には聖気が宿って不味かったんだ」


「使徒?」


 ユーリシティアとルーテシアはトゥーリアナの肩に乗っている不思議な生き物へと視線が移る。


「ん?やっとあたしも喋っても良いでしゅか?」


 人でもない謎の生き物が言葉を話した。

 赤ちゃん言葉を話す使徒と呼ばれる生物はトゥーリアナに話してもいいか?と問う。


「別に話さなくても良いよ、ガブちゃん」


「うゆ。でもあたしも初めて女の子の悪魔を見たからちょっとだけ話してみたいのでしゅよ」


 そう言うとガブちゃんと呼ばれた使徒はトゥーリアナから飛び降りて地面に香箱座りをした。


「初めまして皆々様。あたしの名前はガブリエル。生命を司る使徒でしゅ」


 ガブリエルはそう言うとぺこりと頭を下げる。

 それを見たルーテシアもこれはご丁寧にどうもと会釈する。


「トゥーリ。使徒って何?どうしてあなたと一緒にいるの?」


 天然なルーテシアとは違いユーリシティアは油断することなくトゥーリアナに問うた。


「それはあたしから説明するでしゅ。使徒とは生まれたての神様みたいなものと思ってくれると嬉しいでしゅ。トゥーリの願いによって生まれたでしゅ」


「トゥーリの願い?」


 ユーリシティアはガブリエルに聞き返す。


「そう、私の願い。私は自分の弱い体が嫌いだった。太陽の光を浴びるだけで気分が悪くなって熱が出るし、風邪を引きやすかった。そして村に流行り病が流行った時、私は死にかけた」


 ユーリシティアは二百年以上も前の出来事を思い出す。

 村に疫病が蔓延したあの時、確かにユーリシティアとトゥーリアナを含めた村の大多数が床に伏した。

 特にトゥーリアナの容態は悪く、高熱に嘔吐、更に脱水症状と危篤な状態だったのを覚えている。

 両親が諦めて涙するのを見てユーリシティアも朦朧とする意識の中、さめざめと泣いていた。


「私は死にたくなかった。物心がついた小さい頃から私は自分の弱い体が嫌いだった。だから小さい頃から私は神様に願った。弱い体が治りますようにって。そしてあの日、私の命の(ともしび)が消えかけたあの夜に私は神様に必死に祈った。死にたくないって」


「トゥーリには力があったでしゅ。それは祈りの力。誰よりも純粋な生きたいという願い。その祈りの力は使徒であるあたしを生み出したでしゅ」


 淡々と語られるトゥーリアナの言葉にユーリシティアは耳を傾ける。

 妹のトゥーリアナは昔から誰よりも優しくて、自身も風邪で苦しいはずなのにユーリシティアが怪我した時は誰よりも自分を心配してくれた。


「私はみんなが羨ましかった。窓から見る外の景色にいつも憧れた。走り回る自分よりも小さな子。洗濯で楽しそうに笑うお母さんたち。そして狩りで大きな鹿を仕留めたのをこれ見よがしにみんなに自慢するお父さんやお姉ちゃんたちが。だから疫病で死にかけた私は目の前に現れたガブちゃんにお願いした。疫病で苦しんでいるみんなが病気にならない体に、みんなが怪我をしても死なない体にって」


「トゥーリの強い祈りはそれを叶える奇跡の代価になり得たでしゅ」


 自分たちが不老不死で苦しんでいるのに、その原因が妹のトゥーリアナの願いだったことを知ったユーリシティアは怒りのやり場に困った。

 ずっと探してきた復讐の相手が大切な妹であるトゥーリアナだったのだ。

 不老不死を解くためにはきっとその術者である使徒とトゥーリアナと敵対する事になる。そして必要があるならば殺さなければならない。

 そんな事はユーリシティアには出来なかった。

 ユーリシティアの剣を構えてた両手から力が抜ける。剣の切先がトゥーリアナから外れ、地面に突き刺さった。


「お願いトゥーリ……。みんなから不老不死の呪いを解いて……」


 戦う気力を失ったユーリシティアに残された道はトゥーリアナの説得しか残されてなかった。


「呪い?違うよお姉ちゃん。これは祝福だよ!見てよ!私はこんなにも元気になったんだよ!」


 トゥーリアナは声を張り上げて華麗なダンスを一人で踊る。

 その姿を見るユーリシティアの心は悲鳴を上げる。

 病弱なトゥーリアナしか知らないユーリシティアはいつか見た夢を思い出す。

 元気になった妹とピクニックに出かけるのだ。

 住んでる森の奥にある花畑で弁当を広げて笑い合う。そして夜になれば焚き火の前で狩りで獲った山鳩を焼いて、二人で豪快に齧り付く。そんな些細な夢。


 心のジレンマがユーリシティアを苦しめる。

 不老不死の祝福は解きたい。しかし、それをすれば今の元気なトゥーリアナはまた病気しがちの弱い体に戻ってしまう。

 ユーリシティアはもうどうすれば良いか分からなくなっていた。


「何がそんなに不満なの?」


 不思議に思ったトゥーリアナはユーリシティアに問う。


「分からないの?私たちはずっとこのままなのよ?村では誰も死なないし子どもすら生まれない。毎日を同じ様に過ごして繰り返すだけ。みんな心を閉ざし始めている」


 まさに生き地獄だ。

 何の変化も起きないから感動も生まれない。笑うことも泣くことも怒ることも無い。隔絶された世界でユーリシティアたちエルフは永遠を生きる。

 感情が無い人間に何の価値がある?それは動く肉か歩く屍でしかないのだ。


 不老不死を解くために村から外に出て世界を旅するユーリシティアは刺激溢れる外の世界に興奮した。

 初めて見る都会の喧騒に。見たことのない自然の雄大さに。

 でも自分たちは不老不死。関わった人たちは老いていき、死んでいく。歳も取らないエルフは気味悪がれた。

 他者から人でないと見られる。それがユーリシティアは怖かった。だからいつも一人孤独に暮らしていた。


 しかし、ルーテシアと出会ってユーリシティアは救われた。年下の可愛くてちょっと変わった女の子。そんな女の子に私は恋をした。

 恥ずかしいけどキスもした。

 初めて心から幸せだとその時思った。


「もう良い?お姉ちゃん?そんな悪魔の子たちなんか放っといて私と一緒にいようよ」


「どうする気?」


 トゥーリアナの顔が凶暴に歪む。


「当然、始末する。知ってる?お姉ちゃん?悪魔ってね人間を騙して酷いことをする悪い奴らなんだよ?」


「……させない。ルーたちを殺すなんて私は許さない!」


 無気力となっていたユーリシティアの体に力が入る。それはルーテシアたちを守るため。好きな人を助けるために。

 今、ユーリシティアとトゥーリアナの姉妹同士の戦いが始まろうとしていた。

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