第二十九話 大胆な告白は女の子の特権
また新しい一日が始まる。
ダンジョンに入ってから二日目の朝。
朝食は補給された物資のパンと牛乳。
探索をする冒険者たちは軽くミーティングを行い、携行食を持って森の中へと入って行った。
アーノルドとイーファは情報の整理。
ルーテシアとユーリシティアは周囲の警戒を行っていた。
昨夜の何とも言えないやり取りにお互い深く突っ込むことが出来ずに、二人の間に流れる空気は重く、会話は少なかった。
すると森の南から警戒の笛が鳴る。
一気に緊張は高まり、ルーテシアとユーリシティアはいつでも抜剣出来るように剣に手をかけながら南の方を睨んでいた。
「何があった!?」
笛の音を聞いたアーノルドとイーファがテントから飛び出し、二人に確認する。
「分からない。でも南の方で何かあったと思う」
ユーリシティアは森の奥を見つめながらアーノルドに答える。
全員の目が南の方へ向いていると森へ探索をしていた冒険者が気絶している仲間を背負って戻ってきた。
「大丈夫か!?」
「ああ、二人とも気を失ってるが生きている。問題無い」
結構な距離を無理して移動したのだろう、一人は息をするので精一杯の様子だった。
すかさずルーテシアは持っている水筒を冒険者に手渡し、一息つかせた。
イーファは横に寝かされた怪我人に息があることに安堵し、一人ずつベッドがあるテントへと連れて行く。
アーノルドは周囲を警戒しながらも肩で息をする冒険者に質問する。
「それで、襲ってきた相手は見れたか?」
「それが……、気が付いた時にはおとり役の二人ともが地面に倒れていたんだ。急いで辺りを警戒しながら二人を救助すると耳元で女の声が聞こえた。お前たちには用はない、早く去れと……」
「言葉?相手は魔物ではなく人間の女か!?」
驚きでアーノルドは思わず叫ぶ。
「いや、あの気配は人のものでは無い。人の形をした何かだ。俺としたことが恐怖で相手の顔も見れなかった……」
「分かった。後は俺たちに任せて街へ戻れ」
「すまない……。俺たちはここでリタイアする」
戻ってきた冒険者たちの顔色は悪い。
汗は尋常ではないし、息遣いもおかしかった。
誰から見ても戦える状態ではなかった。
少しだが今回の騒動を起こした犯人像が見えてきた。
ルーテシアが予想するのは何かしらの悪魔であるという事。それも女の子だ。
そしてその悪魔は自分よりも格上で、相手を恐怖で支配することで人間の感情を餌にしている。
つまりは人間にとって害のある悪魔という事だ。
ふと最初の被害に会った女の子の冒険者の話を思い出した。
たしか首元に小さな針で刺したかのような傷が二つ。まるで何かに噛まれたような……。噛まれた?
「……吸血鬼」
ルーテシアが思いついた悪魔を言葉に出す。
周囲が驚いて一斉に顔を向けた。
「吸血鬼だと?まさかお伽話じゃあるまいし」
「いえ、実際に吸血鬼と呼ばれる悪魔は存在します。証拠はお見せ出来ませんが……」
「私はルーの話を信じる。私が冒険者になった理由はある悪魔を見つけて倒すため……。実際に私は、私たち一族は悪魔に呪いをかけられた」
ユーリシティアの言葉にルーテシアは瞠目した。
彼女の顔は憎悪に満ちており、体の節々から殺気が漏れていた。
「落ち着けユーリシティア!魔力が漏れているぞ!」
ユーリシティアの周りには肌を刺すような冷気が溢れていた。
空気中の水分が瞬時に凍り、ダイヤモンドダストと呼ばれる現象が起きるほどだ。
ルーテシアたちは素早く離れたおかげでユーリシティアの恐ろしい冷気に触れることは無かったが、生きた心地がしなかった。
「ご、ごめんなさい!」
自分の冷気が漏れていることに気がついたユーリシティアは慌てて自身から漏れ出た魔力を霧散させる。
すると先ほどまで空気を凍らせていた冷気も鳴りをひそめ、気温も元通りになった。
ルーテシアは動揺した。
ユーリシティアが悪魔に対して恐ろしいほどの嫌悪感を、そして射殺すかのような殺気を出した。
それが自分に向けられたわけでは無いが、ルーテシアはユーリシティアに嫌われたような気がしてどうしようもなく恐怖した。
間違い無く自分の運命の相手はユーリシティアだ。
それはルーテシアの、インキュバスとしての本能が告げている。
そんな相手に嫌われるかもしれない。それがとても恐ろしく、悲しかった。
吸血鬼の襲撃はこの後も続き、もう一組の冒険者たちも死にはしないものの精神的にダメージを負い、戦闘不能に陥っていた。
アーノルドは急いで全員の冒険者をベースキャンプに集めて守りを固める。
まだ動ける冒険者たちに周囲を警戒させ、リタイア組を街に帰す。
そうしているといつの間にか夜になり、全員で焚き火の周りに集まり、相談する。
「私は絶対に引かないわよ……」
ユーリシティアは相手が吸血鬼という悪魔であるがために徹底抗戦の構えを見せる。
しかし、周りの反応はイマイチだった。
アーノルドも一時撤退も視野に入れ、万全の体制でまた臨むべきだと提案したがユーリシティアは受け入れない。
「僕は……、ユーリ先輩と一緒に戦います。一人にはさせません」
「ルー、無理しなくてもいいのよ?ことは命に関わるのよ?」
「分かっています。でも!僕の大切で大好きな人を見殺しにするのは絶対に嫌です!」
ルーテシアの言葉にユーリシティアは目を見開き、忙しなくみんなを見渡す。
「あーあ、言っちゃった」
ルーテシアの特大のカミングアウトにイーファは頭を抱える。
「お前ら……。そういう関係だったのか?」
アーノルドはまさかとは思ったが昨日の話からルーテシアの思い人がユーリシティアであると理解した。
「ヒューヒュー!やるね!ルーテシアちゃん!大胆な告白は女の子の特権だもんね。私はあなたたちを応援するわよ」
面白いものを見たのかサティアは笑顔でルーテシアとユーリシティアを祝福した。
「おう!好きな女に命を懸ける。男なら当然だな!いや、ルーテシアちゃんは女の子だったな!」
クリスフォードもルーテシアが魅せる漢気に感服し、賞賛を贈る。
「み、みんな!こ、これは違うの!」
ユーリシティアただ一人が恥ずかしさからかルーテシアの言葉を否定した。
「じゃあルーテシアちゃんのこと嫌いなの?」
すかさずサティアがユーリシティアの逃げ道を塞ぐ。
これにはユーリシティアも言葉に詰まり、目が泳いだ。
その様子を周りのみんなが注目する。
「ああ!もう!私もルーのことが好き!好きなの!!これで文句無いでしょ!!!」
周りのプレッシャーに押されたからかユーリシティアはついに自分の思いを口にした。
恥ずかしさからか目には涙が浮かび、顔は紅潮の極みを見せていた。
「ならば俺たちも残ろう。何かあれば直ぐに引く。これが条件だ」
「ええ。私たちもユーリちゃん、ルーテシアちゃんと一緒に戦うわ」
クリスフォードとサティアの二人はユーリシティアとルーテシアの側に並ぶ。
だが、それだけだった。
他の冒険者たちはアーノルドとイーファの側から動かず、撤退の意思を見せた。
「分かった。では帰還組と残留組でここで別れよう。出来るだけ急いで体制を整えて戻る。だから、クリス、サティア、ユーリシティア、ルーテシア……。絶対に死ぬなよ?」
アーノルドの言葉に各々気合いが入った返事をする。
それを見届けた帰還組の冒険者たちはダンジョンから脱出した。
残った四人は今日の不寝番を決める。
前半はクリスフォードとサティアの二人。後半はユーリシティアとルーテシアの二人となった。
早速ユーリシティアとルーテシアの二人は自分のテントへと戻り、保存食の味気ない堅パンと干し肉を齧る。
話したいことはたくさんあるが、流石に疲れからか二人とも横に転がると直ぐに寝息を立て始めた。
「ルー、起きて」
しばらく寝ていると交代の時間が近づいたのか、ユーリシティアに揺さぶられながら目を覚ますと目の前には彼女の顔があり、ルーテシアは驚きで転がりながら立ち上がる。
「お、おはようございます。ユーリ先輩」
その様子がおかしかったのかユーリシティアはクスクスと笑う。
「後でいっぱいお話ししようね」
ユーリシティアはそう言うとテントを出る。
ルーテシアも慌てて彼女の後を追いかけてテントを出た。
焚き火の前ではクリスフォードとサティアがいちゃついており、ユーリシティアたちがいるのにも関わらず抱き合っていた。
「何をしているの?あなたたち?」
「あらもう交代の時間?もうちょっと寝てても良かったのに……」
「はは!モテる男は辛いな!でも流石に今日は寝ないとな。明日に響く。ということで後は任せた」
クリスフォードとサティアは重い腰を上げ、腕を絡ませながらテントへと帰って行った。
テントからサティアの嬌声が聞こえないので本当に寝たのだろう。
しかし、二人が残した何とも言えない空気はユーリシティアとルーテシアの二人に妙な興奮を与え、二人とも恋する乙女が如くもじもじと相手の様子を伺っていた。




