第二十四話 ルーテシア、ダンジョンに入る
やっとダンジョンに入ります。
色々とあったがシモンの取材は終わり、彼は大満足で部屋を後にして行った。
取材を受けている時間はまあまあ経っていたらしく、すでに他の冒険者たちも席に着いてユーリシティアたちを観察していた。
それに気付いたユーリシティアは恥ずかしさのあまりか自分の席へと戻り、小さくなっていた。
珍しい物を見た他の冒険者たちはヒソヒソとユーリシティアに聞こえない様に内緒話をするが、その様子が彼女に拍車をかけ、ユーリシティアは机に突っ伏した。
「いやー、すまないすまない。ちょっとだけ遅れてしまったかな?」
「ちょっとだと?三十分も遅刻だクリス」
「まあ、そう怒るなよアーノルド?もしかしたら今日で死ぬかもしれないんだ。朝まで愛する女と愛を語らうのは仕方ないだろ?」
「一体何人いるんだ?お前の愛する女とやらは?」
「そりゃあお前、俺を求める全ての女さ」
「へー、私以外にもあなたを愛してる女がいるんだ……」
クリスと呼ばれた男の後ろにいた魔法使いの女冒険者が杖で男の頭を殴る。
「いてっ!痛いってサティ!!じょ、冗談だよ。それに本当はお前以外の女の子を口説いても誰も相手にしてくれないんだよ」
「それは私がちゃんとあなたが口説く前にその女の子にあなたがろくでもない男だと忠告してるからです!」
どうやら最後の冒険者たちのパーティーも部屋に来たらしく、バカップルの痴話喧嘩の後、自己紹介を兼ねた挨拶と今回の依頼に対するブリーフィングが行われた。
「さて、今回の依頼内容のおさらいだが、このエンデル大迷宮の上層である『魔の森』にてある冒険者パーティーが何者かに襲われて意識不明にされるという事例があった。現在も若い女性の冒険者が意識不明で入院している。容態は特に問題が無いが目を覚さない事からなにかしらの支配、もしくは呪いの類を受けていると推測される」
会議室の壁にダンジョンの地図が映し出される。
「パーティーが襲われたのがここ、北東エリアの森だ」
アーノルドは指し棒で地図の右上を指す。
「ここが今回のホットスポットだ。このエリアにベテランのクリスとサティアのチームに当たってもらう」
「任された!」
「分かったわ」
クリスフォードとサティアが頷く。
「特にサティアは気をつけろ。犠牲者からの推測だが、相手は女性に対して執着している可能性がある。無理はするな」
「忠告感謝するわ。さてさて、相手はどんな変態さんかしらね?」
「安心しろ。お前の身は俺が命を賭けて守ってやる」
飾ったらしいセリフを恥ずかしげもなく言うクリスフォードとそれを茶化さず受け入れるサティア。
そんな関係から二人が確かな信頼を共にしている事が伺えた。
ルーテシアは人は見た目によらないなと自省し、この二人の絆を羨ましく思った。
「そしてクリスとサティアの後ろに斥候として狩人のウッド、ヒーラーのサルトンを付ける。クリスたちに何かあればサルトンは治療を、ウッドは見た事の詳細をダンジョンに設置する本部に届けて欲しい」
「委細承知」
「ああ!」
二人の冒険者が返事を返す。
「この様に今回の作戦では二人一組のツーマンセルで行動してもらう。では同様に北西のエリアには……」
アーノルドは次々と冒険者たちに役割を当てていく。
それをベテランの冒険者たちは嫌な顔せずに受け入れていく。
その様子はまさにプロのようであり、冒険者としての練度の高さを見せていた。
「では最後にユーリシティアとルーテシア。二人にはダンジョン中央にてベースキャンプの安全確保をお願いする。ダンジョン入り口にはベースキャンプの中に本部を設置し、俺とイーファがその本部に常駐する。その補助もお願いしたい」
「分かったわ」
「分かりました!!」
恐らく新人であるルーテシアを配慮した配置なのだろう、比較的安全な場所へ配置された形だ。
ルーテシアとしてはユーリシティアと一緒であれば文句は無かった。
「期限は最大三日とする。それまでにこの目標を打ち取り、このダンジョンから危険を取り除く」
アーノルドは一息吐き、みんなを眺める。
「お前ら!生きて帰るぞ!!」
「「「おう!!!」」」
冒険者たちの息を合わせた号令にルーテシアも身が引き締まる。
先程まで醜態を晒していたユーリシティアもいつの間にか戦士の顔になっており、凛々しさが全面に現れる。
全員が部屋を出るとギルドの最奥にあるダンジョンへと繋がるゲート、つまりは魔の森へと転移する入り口へとやって来た。
「ではまずクリスたち先行隊がダンジョン入り口の安全を確保したのちに我々がダンジョンに突入する」
先行する冒険者たちはアーノルドと拳を合わせてダンジョンへと入っていく。
数分後、安全が確認出来たのか一人の冒険者が戻ってき、それを聞いた後行チームであるルーテシアたちもダンジョンへと入る事になった。
ダンジョンの入り口は床に描かれた巨大な魔法陣に乗ることにより転移する仕組みだった。
ルーテシアは初めて見る魔法陣に興味津々だったが詳しく調べる前にその魔法陣が発動し、ルーテシアたちはダンジョンへと入った。
目を開けるとそこは森の中であった。
先程までとは違う空気に気合いが入る。
先行した冒険者たちは早速指定したエリアへの道の安全確保をする為に警戒しながら探索をする。
後行チームであるルーテシアたちも転移陣の周りに危険がないか確認する為に周囲をユーリシティアと共に探索をする。
「どう、ルー?初めてのダンジョンは?」
「はい、空気中の魔素が濃いせいか懐かしい気分です」
「懐かしい?」
不思議に思ったのか、ユーリシティアはルーテシアに尋ねる。
「僕の実家は魔素の濃い地域だったので……」
ルーテシアは何となく理解する。
ダンジョンとは作られた空間なのだ。
誰かが何かの目的でこの空間を作り、意図的に冒険者を、つまりは人間を招き入れているのだ。
ユーリシティアと共に警戒しながらダンジョンの入り口の周りを探索する。
すると物陰から魔物が一匹、二人の前へ飛び出した。
「一角兎ね。鋭い角に気をつけて。刺さると大変よ」
「はい!ユーリ先輩!」
ルーテシアは白剣の比翼を抜き、魔物に対して構える。
それを見た一角兎はルーテシアに向かって突進をする。
冷静にその突撃を避け、隙だらけの体に一閃。
一角兎は真っ二つになり、消滅した。
消滅した体からは小さな黒曜石のような黒い石が代わりに残った。
ユーリシティアはそれを拾い上げ、ルーテシアへと見せた。
「流石ね、ルー。この様に魔物を倒すと魔石が出てくるわ。この魔石を集める事が主に冒険者としての仕事になる」
「はい。魔石は魔道具を動かす為に必要な燃料。その魔石を核として魔物は存在する」
ユーリシティアは首肯する。
「まさに。冒険者とは魔石を取る為の鉱山夫。魔石の大きさは魔物の強さと比例して大きくなる。大物を仕留めれば一攫千金も夢じゃないわ」
ユーリシティアはそう言うとルーテシアに一角兎の魔石を手に渡す。
「おめでとう、ルー。冒険者としての初めての稼ぎよ?」
「ありがとうございます。ユーリ先輩」
ルーテシアは手渡された魔石を布袋に入れ、懐にしまった。
冒険者として初めての収入だが、ルーテシアは焦っていた。
(やべー!ダンジョンってつまりは魔界の一部って事だよね!?魔物は魔界で魔石を元に作られる擬似生物だし、魔石は魔界で取れる不思議鉱物じゃん……。つまり今回の問題を起こした犯人は人間の感情を餌にする僕と同じ悪魔って事に……)
初めての狩りを終えて転移陣の元へとやって来るとそこにはイーファと一緒に来たギルド職員たちがせっせとベースキャンプを作っていた。
アーノルドとイーファが的確に指示を出し、それを元にギルド職員たちは的確にテントや柵を設置していた。
そしてそれが完成すると非戦闘員である職員たちはダンジョンから去って行った。
「さて、これで前線基地は出来たから俺たちはみんなが帰って来るまでに晩飯の用意だ」
アーノルドはそう言うと鍋などの調理器具や食材などを指差した。
「ちなみに俺は料理出来ないぞ?だから見張り役だ」
「あなたも知っていると思うけど私もご飯作れないわよ?」
イーファはそう言うとアーノルドの方を見る。
「ちなみに私も料理した事ない……」
ユーリシティアもアーノルドの方を見る。
「ル、ルーテシアはどうだ?」
「まあ、多少は経験ありますけど……」
ルーテシアは今世では料理をした事がないが、前世の経験がある。
当然一人暮らしを安いアパートでしていたので大体自炊していた。
「よし!ではルーテシア、後は任せた!」
そう言うとアーノルドはその場から逃げ出した。
「あ、ちょっと!?常に行動は二人ででしょ!?ごめん!ユーリ、ルーテシアさんご飯よろしくね!」
慌ててイーファもアーノルドの後を追いかけて行った。
残されたユーリシティアとルーテシアは二人の背中を見届けながら、あの人、ご飯の事何も考えてなかったなとアーノルドの評価を一つ落としたのだった。




