第二十三話 ルーテシアとユーリシティアは記事になる
「実のところ、近年冒険者志望の若者は減っていてな。技術や経済が発達して別に危険を冒さなくても暮らしていける世の中にはなって来たんだ。そりゃそうだよな」
アーノルドはルーテシアとユーリシティアの二人に事の成り行きを説明した。
「そこでギルドとしては冒険者の魅力を宣伝しようと会報誌という名のファンブックを作る事になったという訳だ。内容は主に冒険者たちのダンジョンでの冒険譚だな。どんな魔物と戦ったかとか、パーティの友情の物語とかだ。それが思ったよりも世間に受けてな、特にユーリシティア、お前の記事は人気だぞ?」
「え、私?」
アーノルドはそう言って部屋にあった先月のギルド会報誌をユーリシティアに見せる。
『白雪姫ユーリシティアの今。彼女のプライベートを初公開!』
何処ぞの週刊誌を思わせる下世話な見出しと共にそこには静かに佇んでいるユーリシティアが映っている写真が掲載されていた。
写真に映るユーリシティアは冒険者という無骨な格好でありながら深窓の令嬢を思わせるかのようなミステリアスな雰囲気を醸し出していた。
「何よこれ!?私こんな取材受けた記憶無いわよ!!」
「自分はちゃんと許可は取りましたよ?イーファさんから説明されませんでしたか?まあ、記事の内容はユーリシティアさんに無視されたのでほとんど作り話ですが……」
ユーリシティアは過去の記憶を遡るがそんな話は記憶に無い。
慌ててアーノルドの方を見るがその反応はシモンを肯定している。
「でも作り話だなんて、出鱈目な事を書かれては困ります!」
ルーテシアはどれどれと会報誌という名のファンブックを手に取り読んでみる。
『本誌は冒険者であるユーリシティア嬢の休日に一日同行した。休日の朝から彼女は街のお洒落なカフェでクロワッサンと甘いミルクコーヒーで朝食を取る。趣味は読書。誰にも邪魔されない静かなカフェでのこの時間が幸せを感じる瞬間だと彼女は語る。カフェの後はショッピングへ。ここエンデルの服屋街で目移りしそうな服を彼女は見て回り、気になる服があれば試着する。残念ながら本人は恥ずかしいという理由でファッションショーのモデルのように美しい彼女の写真を撮る事は許可が出なかった。昼食を軽く済ませ、彼女は近くの公園で一休みする。その公園では子どもたちがボール遊びをしていたが突然ボールが彼女の前に転がって来た。そのボールを拾い子どもたちまで持っていくと一緒に遊ぼうとせがまれた為か、つい子どもたちと一緒に遊ぶ。その無邪気に子どもたちと遊ぶ姿に彼女の新たな一面が見られ、新たな魅力を彼女から感じた。そうして子どもたちと遊んでいるとやがて日が暮れ、夜になる。夕食は彼女の家の近くのダイニングバー。少し値段が張るワインを片手に将来を語る。「今は冒険者という危険だけどやりがいのある仕事をさせて貰ってる。でもやっぱりいつかは結婚して素敵な旦那様と温かい家庭を築いて行きたいわ。子どもは二人。それぞれ息子と娘が欲しいわね。娘とは一緒に料理したり、息子には剣を教えたりして暮らすの」そう語る彼女の横顔はとても優しい面持ちだった』
ルーテシアは思いっきり吹き出し、咳き込んだ。
(あ、ありえない!あの他人に対してぶきっちょなユーリ先輩がこんな事を出来る筈が無い!)
「どうですか?記事の出来は?読者にも好評で応援のハガキもたくさん来るんですよ」
「え!?いや……。現実のユーリ先輩とは程遠いというか、ほとんど嘘ですよね……」
「うーん。自分もやり過ぎと思ったんですが、読者からの期待がですね……」
シモン自身もやり過ぎたと感じているらしく照れながら頭を掻く。
ユーリシティアはルーテシアから奪った会報誌の自分の記事を読み、顔を青ざめる。
「まあ、有る事無い事書かれたくなかったらちゃんと取材してもらえってこった。でもこういった記事のお陰でユーリシティア、お前に憧れて冒険者になってくれた若い奴もいるんだ。理解してくれ」
「え?」
アーノルドがユーリシティアにそう伝えると彼女は頭に疑問符を浮かべた。
何故ならば自分は他の冒険者から距離を取り、あえて冷たい態度を取っている。
他人に好かれているとは思わず、むしろ嫌われていると思っていた。
「気付いてないのか?お前が思っているよりもみんなお前を好んでいるし、特に若い奴は尊敬してる先輩冒険者、憧れのゴールドランク冒険者としてお前を見ているぞ」
「最近よく若い子に話しかけられるのはこの本のせいなのね……。それなのに私、みんなに素っ気なく接しちゃって……」
ユーリシティアは過去の行いを恥じ、塩らしくなった。
「あはは、せっかくなのでこの記事通りに休日でも過ごしてみたらどうですか?そうすれば自分が書いた嘘も事実になって助かるんですけど?」
「あなたは黙ってなさい!!」
「はい!はい!僕、ユーリ先輩とデートしたいです!!」
ルーテシアはシモンの提案に率先して手を挙げる。
この街に来てまだ数日しか経ってないのだ。
好きな女の子にデートで案内してもらうのは願ったり叶ったりだった。
「ルーも黙ってて!」
ユーリシティアたちのやり取りを見てアーノルドは驚きの声を上げた。
彼女がこんなにも喜怒哀楽の感情を表すのを初めて見たからだ。
「ユーリシティア、お前にもそんな感情があるんだな。ルーテシアがこのギルドの冒険者になってからか?こんなにも騒ぎ立てるのは。やはりパーティを組んでもらって良かったよ」
アーノルドがユーリシティアを見てそう言い放つと彼女は否定しようとし、顔を赤くする。
「そう!そこですよ!アーノルド代理!今回取材したいのはルーテシアさん。あなたとユーリシティアさんとの関係についてですよ」
いきなり指名の声が掛かりルーテシアはシモンの方を見る。
するとシモンは一枚の写真をだした。
そこに写っていたのは昨日、ルーテシアが寝ぼけてユーリシティアの頬にキスをしていた瞬間だった。
しかもユーリシティアはルーテシアをお姫様抱っこをしており、周りに沢山の冒険者たちがいた。
その写真からはまるでユーリシティアがルーテシアとの仲をみんなに見せつけているかの様であり、ルーテシアもそれを受け入れている感じだった。
「きゃああああ!!!違う!!違うの!?これは何かの間違いなの!」
ユーリシティアは恥ずかしさのあまりか叫び声を上げて弁明しようとするがその声は誰にも届かない。
「昨日、お前らが帰る時やけにギルドが騒がしいと思ったら何やってんだ?」
アーノルドは呆れた様子でユーリシティアとルーテシアを見た。
ユーリシティアは前述した通り発狂しており、ルーテシアはというとシモンに対して「あの、この写真コピー出来ますか?複製があるなら記念に一枚欲しいです」と真剣に相談していた。
「いやー自分も久しぶりに筆が走りまして、昨日なんて徹夜ですよ。あ、まだ推敲してませんが書いた記事読みます?」
「あ、僕見たいです!」
ルーテシアはシモンから記事の原稿を受け取り早速読んでみる。
『ついにあの白雪姫にパートナー現る?ユーリシティア嬢のお相手はまさかの大型新人美少女冒険者!?』
読者の興味を引き立てる見出しの後にはこう続く。
『今、エンデルの冒険者ギルドは暗く静まり返っていた。何故ならばダンジョンには謎の魔物が発生し、その危険性が明らかになるまではダンジョンが封鎖されているからだ。ギルドとしてはユーリシティアを始めとするゴールドランク冒険者に特別依頼を出し、謎の魔物の排除に乗り出したがユーリシティアはソロで活動する孤高の冒険者。流石に危ないと判断したのかギルドがパートナーとして指名したのはまさかの二日前に冒険者デビューしたルーキー。そのルーキーは若干15歳の美少女で特徴の双剣と長い金髪を持ち、強さも元ゴールドランク冒険者であるギルド職員、イーファ補佐官を倒す程。その名はルーテシア=アーリコーデ。ギルドが事態の解決の決意を宣言した数時間後に彼女たちは冒険者たちの前に現れる。その姿は掲載された写真の通りにルーテシアがユーリシティアにお姫様抱っこされた状態だった。その姿だけでも驚きだが驚きはまだ続く。何とルーテシアはユーリシティアにしがみ付き、頬にキスをしたのだ!その光景はまるでおとぎ話の王子様とお姫様。ルーテシアは私のものよ!ユーリシティアが、私はユーリシティアのものです!とルーテシアが周りに見せつけたのだ!これには周りの冒険者も男は野太い声を出し、女は黄色い声を上げみんなが彼女たちに注目した。筆者も年甲斐なくこの様に筆をその日の内に取ったのである。我々は伝説を目にしているのかもしれない……。この事件の行き先を見守りながら、彼女たちの活躍をこれからも追っていきたい』
ルーテシアが原稿を読み終えるとシモンが感想を聞いてきた。
「どうでしたか?」
「色々と事故った結果ですが、大体合ってますね……」
そう言うとルーテシアはこの原稿を読んでいるユーリシティアを見る。
その顔は恥ずかしさと怒りに真っ赤になり、原稿を握る手はプルプルと震えていた。
「聞きにくいのですが、ルーテシアさんとユーリシティアさんの関係ってどうなんですか?」
際どい質問をしているのを自覚しているせいか、シモンはルーテシアに小声で質問する。
それに応えてルーテシアもヒソヒソとシモンへ返答した。
「言いにくいのですが僕はユーリ先輩のことが好きなんです。まだ僕の一方通行の恋ですが……」
「ほう!女性同士の恋愛、つまり百合というやつですか?いやー、二人とも絵になりますからこれは話題になりますよ!ぜひ、これからも取材させて下さい!」
「はい喜んで!あ、でも今の話は内緒ですよ?特にユーリ先輩には……」
「勿論です!こう見えても自分は守秘義務は必ず守る記者です。ルーテシアさんを応援はしても嫌がる事はしませんとも。あ、ところでルーテシアさんとユーリシティアさんがパーティーを組む提案をされたのがアーノルド代理という話なんですが本当ですか?」
「そうですね。アーノルドさんに提案して頂きました」
シモンはちらりとアーノルドを見る。
「何故アーノルド代理はルーテシアさんをユーリシティアさんのパートナーとして指名したのでしょう?何か理由でもあるのでしょうか?」
ルーテシアは返答に困り、数瞬固まる。
それを見たシモンの目つきが鋭くなる。
下手に質問に答えるとえらい事になるとルーテシアは考える。
夢とはいえ二人で夜を共にしたのを理由にルーテシアがアーノルドを脅迫したのが本当の理由だが、当然この理由は使えない。
ギルド職員の幹部で婚約者もいるアーノルドが新人冒険者の女の子に手を出したとなればスキャンダルで済む話ではなくなるし、ルーテシアとしても体を売った淫売と言われるのは論外だった。
ルーテシアは必死に言い訳を考える。
つまらない嘘はシモンに直ぐバレてしまうだろう。
そしてルーテシアが出した答えは……。
「実はアーノルドさん……。女の子同士の恋愛物が好きなんですよ。それも冒険者同士の……。それでその事を僕が打ち明けたら喜んで提案してくれたんです」
「なんと……!あのアーノルドさんにそんな嗜好が……!?」
「当然この話はオフレコでお願いします」
「分かっています。分かっていますとも。こんな面白い話……、じゃなかった……。プライベートな話を記事には出来ません」
聞きたい事が聞けたシモンは満足したのかルーテシアと固い握手をする。
何も知らないアーノルドはユーリシティアが憤慨してバラバラに破いて捨てた原稿を一つ一つ拾い集めていた。
マスコミ怖いなー。




