第二十二話 スッキリした翌朝
今日からルーテシアは冒険者として本格的に活動を開始する。
それに差し当たりルーテシアは起きてから大量の朝食を食べていた。
「ルー、まだ食べるの?」
「もぐもぐ、ごくんっ。はい!ユーリ先輩。昨日から何も食べてないせいか何だかお腹減っちゃって」
ルーテシアの前にはトーストやソーセージ、ベーコンエッグなどが乗った皿が何枚も並べられるが、それを気にすることなくどんどんと平らげていく。
一皿無くなれば直ぐにもう一皿追加され、まるで大食い番組さながらの光景が繰り返されていた。
「ルーテシア様は昨日たくさん魔力を放出をしていたみたいなのでその分お腹が減っているのでしょう」
そう言いながらメルフィーナはテキパキと空になった皿を片付ける。
その目は怪しく光り、ルーテシアにしか聞こえないような小さな声で耳打ちする。
「昨日、お風呂場の掃除大変だったんですよ〜。ルーテシア様の魔力の残滓のせいで私、朝まで一人で熱った体を慰めちゃってたんですからね〜」
「げふんげふん!!」
メルフィーナの反応に困る大胆な発言にルーテシアは大きく咳き込んだ。
急いでコップの水を飲み、一息つく。
「大丈夫?ルー?」
「だ、大丈夫です。さーて、ご飯も食べた事だしそろそろギルドへ行きましょう!」
「え?まだご飯残ってるけどもう行くの?それに何か目も泳いでるし……。えっ!あっ!ちょっと!?」
ユーリシティアは何か訝しむもルーテシアは強引に彼女の手を引き、店を飛び出して行った。
夜の街の朝は多数が営業を終えた店で静まりかえっており、ほとんど通りには人が居ない。
その中をユーリシティアとルーテシアの二人は歩く。
(ふぅー、危ない危ない。あのままメルの調子に乗せられるととんでもないことにになりそうだった……)
ふと、隣を歩くユーリシティアの横顔を覗く。
その綺麗な横顔は昨日よりも少し柔らかくなった様な気がしてルーテシアは己の昨夜の風呂場での行いに少し罪悪感を覚える。
メルフィーナが綺麗に洗濯したから大丈夫とルーテシアは思うが、ユーリシティアが今履いているであろう下着には昨夜、己が欲望をぶち撒けたのだ。
その事実がバレないかというドキドキ感とユーリシティアを間接的に汚したという背徳感、その両方の感情が複雑に入り交じり、ルーテシアの顔は紅潮した。
「良い人たちね。ルーの暮らしているお店は」
「あのー……。メルたちは何かユーリ先輩にご迷惑をお掛けしませんでしたか?」
「迷惑だなんてとんでもない。久しぶりにゆっくりと楽しませてもらったわ」
ユーリシティアは普段、何でも一人で生活を行っていた。
冒険者の仕事も一人。食事も一人。寝る時も常に一人。
人肌が恋しかったのかもしれない。
メルフィーナやリッタ、ロッタとのお茶会。ミレットやエレナも加わった賑やかな夕食。可愛く騒がしい双子とのお風呂。そして彼女たちと身動きが取れないくらいくっ付きながらの就寝。
全部懐かしくも楽しい、この街に来てから常日頃憧れた平凡な日常だった。
「ねぇルー。良かったらまたお店に遊びに行っても良いかしら?お茶もお菓子もご飯も美味しいし、良い喫茶店ね?」
「喫茶店!?あー……、うん!良い喫茶店でしょ!?」
「何で動揺してるのよ……」
本当はメルフィーナたちサキュバスと何故か一夜だけ夢の中で自由恋愛が出来る店なのだが、良い感じにユーリシティアは勘違いをしていた。
まあ実際、両親に大切に育てられたユーリシティアは男女における恋愛事情には疎いし、初恋の経験はあるが狭い故郷の村では恋愛の経験は無い。
色町がどういうところでそこに訪れた男性が何を買うのかという知識はあるものの、この街で長年生活しているが、行ったことの無い色町という新世界を想像するのは難しかった。
要はユーリシティアは今、自分たちが歩いている人通りが少ない早朝の静かな街が色町だと気付いてないし、古風なメイド喫茶をコンセプトとしているせいで見た目がおしゃれな喫茶店と何一つ変わらないサキュバスが営業する風俗店であるダーラムをただのお洒落カフェと誤認していた。
「もちろんちゃんとお金を払うお客さんとしてお店に通うつもりよ?」
「ユ、ユーリ先輩がお客様に!?」
「だから何でそんなに動揺するのよ、ルー!あー、もしかしてルーもメイドさんの格好して接客してくれるの?」
ユーリシティアは嬉しそうにルーテシアに詰め寄る。
急にユーリシティアの顔が近づいたせいかルーテシアの顔は一気に茹で上がり、咄嗟に顔を背けた。
「やっぱり怪しい……。いいもん!今の仕事が片付いたら絶対にお店に行ってルーを指名するからね!
そしてメイドさんのルーにいっぱいご奉仕してもらうから!」
ユーリシティアはそう言うと歩くスピードを上げた。
ユーリシティアの後ろを歩くルーテシアは自身がメイドとなり、客としてのユーリシティアの相手をするという妄想を始めた。
(ユーリ先輩がお店で僕を指名する!?メイド姿の僕がユーリ先輩にご奉仕する!?一体何を!?)
色町を出てからは冒険者ギルドまで着くのに二十分と掛からなかったがルーテシアの妄想はユーリシティアとのメイドさんごっこのおかげで無限大に広がっていた。
(ユーリ先輩にメイドさんの僕が尻に敷かれるのも良いし、逆に小生意気なメイドさんの僕がユーリ先輩を躾けるのも捨てがたい……。いかんいかん!客としてユーリ先輩がお店に来るなら何とか対応しないと。これはメルと要相談の案件だな)
邪念がルーテシアを現実逃避させていたがすんでの所で立ち止まり、メルフィーナとの相談という現実的なプランを心の中にメモをした。
気がつけばルーテシアとユーリシティアの二人は目的地である冒険者ギルドまで着いていた。
早速、入り口のドアを開けて二人が入ると二人を待っていたのか受付にはイーファが立っていた。
「あ、来た来た。二人ともおはよう」
「うん、おはようイーファ」
「おはようございますイーファさん」
「ルーテシアさんはあれから大丈夫でしたか?」
イーファは心配そうにルーテシアを見つめる。
「はい!ユーリ先輩が家まで送ってくれたおかげでゆっくりと休む事ができました」
「それは良かったわね!ユーリも何だか機嫌が良さそうだし、何か良い事でもあった?」
いつもぶっきらぼうなユーリシティアが自然と笑みを溢している様子を見てイーファは不思議に思う。
「……いつも私が機嫌が悪いみたいな言い方ね」
「みたいなじゃなくてあなたはいつも他人にそっけないのよ。ほんとルーテシアさんがこのギルドに来てくれて良かったわ。とにかく会議室に案内するから着いてきて」
世間話もほどほどにルーテシアとユーリシティアはイーファに案内されてギルド内にある会議室へとやってきた。
部屋に入るとそこには冒険者ギルドの代表代理であるアーノルドがおり、二人に会釈をする。
「朝早くから悪いな。他の連中が来るまで少し待っていてくれ。席は自由に座って貰って構わない」
「わかりました」
そう言われてルーテシアとユーリシティアの二人は窓際の席へと座る。
「ああ、ついでにだがギルドの広報がお前たちを取材したいらしくてな。待っている時間で良いから取材を受けてほしい。もうすぐ来ると思うはずなんだが……」
アーノルドがそう言うと会議室のドアが騒がしく開かれる。
「はいはいはーい!呼ばれたみたいなのでやって来ましたよ!」
部屋に入って来た男は首からカメラみたいなものをぶら下げ、胡散臭い笑顔で自己紹介をする。
「自分このギルドの広報をしているシモンと言います。記念に一枚良いですか?」
シモンは有無を言わさず二人と握手をし、カメラみたいな魔道具をこちらに向けた。
「それじゃあ撮りますよー。いちにのさん!」
唖然とするユーリシティアを他所にルーテシアはカメラに向かってピースサインをする。
前世の癖からか写真を撮られる時は決まってピースをするルーテシアの笑顔はアイドルさながらの出来栄えである。
「あの……、これ何ですか?アーノルドさん?」
「ん?あー、ユーリシティアはギルドの会報誌を読んだ事無いから知らないのか……。彼はシモン。ギルドの広報として月刊で発行する会報誌の取材や記事を書いたりするスタッフだ」
「以後お見知り置きを」
シモンと呼ばれた男は嬉しそうにルーテシアとユーリシティアの二人にお辞儀をした。




