第二話 ルーテシア=アーリコーデは男の娘になりたい
本日二話目です。
「ねぇ、ルー?一緒に遊びましょう?」
「うん、いいよ?ねぇね。今日は何するの?」
この世界に転生してから50年近く経っただろうか?
この体にも慣れてきたが、この時間の経過だけはまだまだ慣れない。
長命種である悪魔でも大悪魔であるアーリコーデ家の悪魔はさらに長命である。
長命種にはよくある事らしいが成長に時間がかかる。
50年経った今でも僕の体はまだ人間の五歳児くらいしかない。
ほとんど伸びない髪だってやっと肩まで伸びた。
そんな今、目の前には姉であるリリラルカ・アーリコーデが今日も遊んでくれている。
リリラルカはルーテシアよりも30歳上のお姉ちゃんで人間でいう8歳くらいの女の子だ。
髪も肩甲骨辺りまで伸びており、美しい金髪は艶を帯びている。
目も大きく翡翠色の瞳はどこまでも澄んでいた。
将来を約束された美少女は今日も可愛かった。
「今日はね、お化粧遊びをしましょう!」
「お化粧?」
そう言うとリリラルカは大きい化粧箱を取り出した。
中を開けるとそこには立派な化粧筆を始め、真っ赤な口紅や真っ白な白粉などいかにもな高級品が底知れず並んでいた。
「これ、お母さんのやつなんじゃ?」
「そうよ!今日は私たちしか居ないから今がチャンスね!!」
何がチャンスなのか分からないが後に訪れる母の雷が脳裏に浮かぶ。
「や、やめた方が……」
「ルーはどれ使う?」
「聞いてないし……」
鼻歌を歌いながらリリラルカはひっちゃかめっちゃかに道具を床に広げていく。
あぁ、元に戻す様に記憶しとかなくちゃいけないのに……。
どうにもルーテシアの姉は向こう見ずな性格の様で思いついたら即行動、思いたったら吉日と言った感じで行動力が凄まじい。
絶対後で怒られるのに、その事を思いつかない。
せめて悪知恵が働けば慎重に道具を取り出して元通りに直すとか出来るのに。
まあ、そんなリリラルカの真っ直ぐな性格はとても好感が持てるんだけどなぁとルーテシアは思う。
「最近ね私、お化粧のお勉強をしてるの。だからルーにもお化粧教えてあげる!」
「や、ぼ、僕はお化粧は……」
「いいからやるの!」
結局押し切られてしまった。
子供の頃の姉弟関係は圧倒的に姉の方が上である。
ルーテシアには拒否権は無かった。
「さ、ルー?この口紅で私の唇を塗ってちょうだい?」
そういうとリリラルカはルーテシアに高そうな意匠の凝ったデザインの口紅を渡してきた。
これでリリラルカの唇に塗ったら良いのか?
当然、男であるルーテシアには口紅なんて物を使ったことなんて無い。
前世でもそんな経験が無かったものだから知識にあるイメージを見よう見まねで口紅をリリラルカの唇に押し当てた。
「あ!ごめんなさい!!」
緊張で震える手で口紅を刺すものだから思いっきり唇をはみ出してしまった。
慌てたルーテシアは手に持ってたハンカチでリリラルカの紅を落とした。
口紅というのは油性のため、ハンカチで拭いたくらいでは完璧には落ちない。
必然、リリラルカの口元は薄く伸ばした紅だらけになってしまった。
そんなおかしな姉の顔を見て思わずルーテシアは笑わずにはいられなかった。
そんなルーテシアを横目にリリラルカは手鏡で自分の顔を見て自分と同じ様に笑い転げた。
「あはっ。何これ!バケモノみたい!あははっ」
「ご、ごめん。でもおかしくって……。ぷふっ」
二人ともひとしきり笑った後、次はルーテシアの番となった。
リリラルカが自分に化粧をするのだ。
「いい?先ずは下地。薄くファンデーションを塗るの。と言ってもまだまだ私たちは子供だからそこまでしなくてもいいけどね」
リリラルカはパフでファンデーションを少し塗り、アイシャドウやチークなど、色々と僕に化粧をしてくれた。
最後に真っ赤なあの口紅を刺し、完璧な化粧を施してくれた。
ついでだからと衣装部屋から姉の夜会用のドレスを引っ張り出してルーテシアに着させてくれた。
少しぶかぶかの真っ黒なドレスは沢山のフリルやリボンが付いてあり、まさにお姫様が着る様なドレスだった。
「はい、これで完成。ちょっとドレスが大きいかもだけど我慢してね」
そう言うとそのままルーテシアの手を引き、姿見の大きな鏡の前まで連れて行ってくれた。
「こ、これが僕?」
「そうこれがルー、貴方よ。綺麗でしょ?」
その姿はまさに衝撃だった。
有名な美術館で飾られるモナリザ、いやミロのヴィーナス、否!それ以上の芸術品が目の前の鏡に映っていたのである。
その微笑みはモナリザよりも優しくそして柔らかく、突き出した手の先はミロのヴィーナスよりも細くしなやか。
なるほど、芸術品とはこうも人に感動を与えるのものなのか。
前世では美術や芸術などそれ程の興味も無かったが美の感動を覚えた今、今なら理解できる。
人は芸術で酔える。そして狂える。
圧倒的な美しさとはまさに魔性、魔そのものであった。
インキュバスとして産まれたルーテシアにとって、この感動は福音だった。
魔族の勢力争いから目を逸らすため嫌々女の子として扱われてきた今の自分を好きになれなかった。
心の奥底に男としての矜持が今の環境を受け入れていない自分がいた。
でも今は違う。
ルーテシア=アーリコーデという芸術品となった今、芸術に狂えた今、ルーテシアにはこの未完成な作品を完成させる使命がある。
その決断が茨の道であっても裸足で歩いて見せよう。
血に滲む足が動かなくなっても這いずってでも前に行って見せよう。
だって自分はルーテシア=アーリコーデが大好きだから。
綺麗で可愛い女の子、いや男の娘は誰よりも自分を愛している。




