第十六話 ユーリ先輩とパーティを組もう
無事にアーノルドとの一方的な取引を終えたルーテシアは一足先にユーリシティアとイーファが待っている部屋へと上機嫌でスキップしながら戻ってきた。
「たっだいま戻りましたー!」
「遅かったけど大丈夫?ってまあその様子だと大丈夫そうだけど……」
「それはもうスッキリ気分爽快って感じです!」
「そ、そう……。スッキリするのは良いことよね??」
部屋には女性(一人だけ男の娘)だけとは言えルーテシアの乙女とは言えないはしたない言動にユーリシティアとイーファの二人は苦笑いをする。
「こほん。ところでルーテシアさん。アーノルド代理を見ませんでしたか?彼もお手洗いに行ったはずなのですが……」
「アーノルドさんですか?ああ!先ほど見かけましたけど顔色が悪かったので(精神的な意味で)体調が優れないのかもしれませんね?」
「そうですか……。さっきまでは元気だったのですけど……」
まるで他人事のようにアーノルドの様子を語るルーテシアの顔はツヤツヤとしていた。
ルーテシアは先ほど行っていた悪女プレイにまだ酔っている様だった。
「すまん……。今戻った……」
「顔色が優れない様ですけど大丈夫ですか?ノルド?」
「ああ、大丈夫だ……。問題ない」
「あなたがそう言うなら大丈夫なんでしょうけど……。本当に無理そうなら早めに言ってくださいね?」
「分かった。迷惑をかけてすまん」
顔色の良いルーテシアと顔色が悪いアーノルドの対照的な二人を挟んで話し合いが再開された。
具体的な依頼内容に報酬の手続きなど事務的な話しが続き、お互いに不満の無い様子からいよいよ話しが終わろうとした頃だった。
ルーテシアはアーノルドに目で合図を送るとアーノルドは胃が痛むのか胸を抑えながら頷いた。
「すまないが一つお願いがある……」
唐突にアーノルドが手を挙げる。
「今回の依頼ではユーリシティアはルーテシアとパーティを組んで貰いたい」
「ルーとですか?でも彼女は昨日冒険者登録をしたルーキーですよ?」
いきなりの提案にユーリシティアは困惑の表情を浮かべる。
それもそのはずで冒険者登録を終えたばかりの新人は最低でも一月は研修という名の詰め込みと訓練という名のしごきを行うというのが通例である。
この研修と訓練で冒険者としての格や資質を見極め、適性が無い新人たちはその一月で根を上げて冒険者を辞めてしまう。
そうでもしないと冒険者ギルドとして所属する新人の冒険者たちの死傷者がかなり増えてしまう。
あまりに新人の死者や再起不能者を出しすぎると冒険者ギルドを統括する都市議会からペナルティが与えられるのでやむを得ない処置だった。
「ノルド、分かっているとは思いますが無茶を言って研修を受けてない新人の冒険者に何かあったら懲戒処分は免れませんよ?」
「理解している。それでも今回ばかりは特例を持ってパーティを組んで欲しい。この通りだ!」
アーノルドは必死の形相でみんなに頭を下げた。
その様子にルーテシア以外の二人は呆気に取られているが当のルーテシア本人は大変満足そうに微笑んでいた。
「と言うわけで僕はユーリ先輩とパーティを組んでこの依頼を受けようと思います♪」
「ちょ、ちょっと!?ほら!ユーリシティアさんも何か言って下さい!!」
「え?えーと?何というかパーティなんて初めて組むし、どちらかと言うと嬉しい……なんちゃって……」
ユーリシティアは恥ずかしいのか顔を赤く染めながらイーファから目を逸らす。
「そうだったんですね!ユーリ先輩!!今まで一人ぼっちだったなんて……。これからは僕と一緒にお仕事頑張りましょう!!」
ルーテシアはそう言うとすかさずユーリシティアの手を取り上目遣いで甘い言葉を囁く。
「え?ええ……。そうね。ルーとなら仲良く出来るかも……?」
「いやぁ良かった良かった!!ユーリシティアもルーテシアを受け入れてくれたみたいで。これで俺の肩の荷が降りるよ!」
ルーテシア、ユーリシティア、アーノルドの三人は喜んでいたり、恥ずかしがっていたり、安堵していたりと三者三様の様子を見せていた。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
大団円でこの話し合いが終わろうとするはずもなく、この中で一番の常識人のイーファは待ったをかけた。
「私は反対です!まだ年端もいかない女の子を危ないダンジョンの中に入れるなんて……。それも今のダンジョンは異常事態なのですよ!?」
「そうはそうだが……」
どうやらイーファは自分がユーリ先輩とパーティを組んで今のダンジョンに入ることに反対らしい。
もちろんその反対意見はルーテシアの安全を心配しての事だから嬉しいと感じても悪い感情は抱かない。
「だったらイーファ。貴女がルーの強さを見てあげれば良いじゃない。私も詳しくは見てないけど、ルーはそんじょそこらの冒険者よりも腕が立つと思うわよ?」
「へ?」
「なるほど、その手がありましたね……」
ユーリシティアの突然の提案にルーテシアは戸惑いの声を上げ、イーファは妙案だと膝を打った。
「と言う事です。申し訳ありませんがルーテシアさん。このあと少々お時間をとらせていただきます」
そう言うとイーファは踵を返し、部屋から出て行った。
「え、えーと。つまりどう言う事?」
「どうもこうも……。イーファがああ言ったんだ。実力行使というやつだ。力ずくでもお前がダンジョンに入ろうとするのを止めるつもりなんだろう」
「要はイーファはあなたと模擬戦をして実力を確かめるつもりなのよ。イーファはああ見えても元ゴールドランクの冒険者。すでに引退した身といってもまだまだ実力は折り紙付きよ。どちらにせよイーファを納得させるなら力ずくでってことね」
「えぇ……?」
どうやらルーテシアに拒否権はない様だった。
アーノルドとユーリシティアに両脇を抑えられ冒険者ギルドの訓練場へと連れられてきた。
訓練場はギルドの裏庭にあり、前世の学校のグラウンドくらいの広さがあった。
「待ってました。ルーテシアさんの準備が出来次第始めましょうか?」
そこには彼女の冒険者時代を思わせるような装備をしたイーファがいた。
長くはない艶のある青髪を束ね、鎧は急所を守る最低限の装備。
獲物である剣は女性でも扱いやすいショートソード。
一撃で魔物を仕留めるというよりも機動力と手数で相手を追い詰めるスピードタイプのファイターといったところか。
一方のルーテシアは腰に携えた二振りの双剣を始めとして華美な装備をしている。
見た目からしてちょっと勘違いをしている貴族の子女にしか見えなかった。
だからこそイーファが抱く思いはルーテシアが女性として致命的な傷を負う前にダンジョンに入る事を諦めさせる事だった。
なまじ冒険者としてダンジョンに挑む英雄譚に憧れを抱く貴族は例に無く少なくない。
元冒険者として、冒険者ギルドの職員として、そして何よりも同じ女性として危険なダンジョンに彼女を無責任に送り込むなんて事は到底容認出来なかったのである。
しかし、イーファを含むこの場にいる三人は勘違いをしていた。
これからイーファの相手をする華麗な少女はただの美少女ではなく、悪魔で魅力的な男の娘なのである。




