第十四話 何でこの人が?
昨日の出来事のせいか重くなった足取りで冒険者ギルドに向かう。
まさか自分があんな事になろうとは夢にも思わなかった。
いやまあ、夢なんだけどね……。
朝にはメルフィーナから「昨日はお楽しみでしたね〜」と揶揄われるし、何も知らない元気いっぱいのリッタとロッタにも朝から遊び相手になり、すでに気力体力共にかなり消費してしまった。
これはもう、ユーリ先輩から元気を貰うしかない。
こう、後ろから抱きしめて耳元からユーリシティア成分を大量に摂取し、体力を回復するのだ。
「あ、おはようございます!ユーリ先輩!」
「うん、おはよう」
そうこうしていると冒険者ギルドに向かう途中でユーリシティアと道すがら出会う。
てとてととユーリシティアに近づいて行き彼女の手を取ると、ユーリシティアの手はひんやりとしており、対照的に体温の高い自分の手は心地良さを感じた。
警戒されているのかよそよそしく直ぐに手を振り解かされたのが残念でならない。
ルーテシアはユーリシティアの隣を歩く。
風で時たま揺れる髪からは彼女の良い匂いがルーテシアの鼻腔をくすぐり、ルーテシアの理性を飛ばそうとする。
ダメだダメだ。
昨日、自分がユーリシティアにした事を思い出す。
最後に見た彼女は羞恥で目を濡らしていたではないか。
これ以上ユーリシティアに嫌われたら自分はもう立ち直る事は出来ない。
そうこうしているといつの間にか冒険者ギルドの前までやって来て中に入る。
ギルド内は朝早くから冒険者たちで埋め尽くされており、怒声が飛び交っていた。
「どういう事だ!?ちゃんと説明しろ!」
「ですから!今ダンジョンでは原因不明の魔物の存在が確認されており、危険なのです!」
「そんな魔物ここにいる全員でやっつければいいだろ!!」
「「そうだ!そうだ!」」
何かトラブルがあったみたいだ。
今にも爆発しそうな集団に巻き込まれないようにルーテシアとユーリシティアはギルドの隅っこの方に行き、成り行きを眺めていた。
「何かあったのかな?」
「たぶん強い魔物でも出現したのだと思う。こういう事はたまにあるから」
どうやら冒険者たちの稼ぎの場であるダンジョンの出入りが封鎖されているらしく、それが冒険者たちの不満となっているらしかった。
「これじゃあ僕もダンジョンに入れないのかぁ……」
「いや、もともとルーは研修と訓練受けてないからいきなりダンジョンには入れないわよ」
「えー、僕こう見えても結構強いんだけどなー」
「でしょうけど規則は規則。ルールは絶対よ」
残念ながらいきなり冒険者稼業は出来ないようだった。
まあ、危険な職業だから仕方ないのだろう。
「あ、ユーリシティアさーん!!」
ギルドの端っこでルーテシアと駄弁ってたユーリシティアを見つけたギルドの職員らしき女性がこちらにやって来る。
「やっと来てくれましたぁ……。イーファさんのご指名です。直ぐに来て下さい!」
「イーファが?分かった。案内して」
ルーテシアたちは先ほどのギルド職員に案内されてギルド内にある会議室っぽい小部屋に案内された。
「しばらくここで待っていて下さい。イーファさんとアーノルド代理が説明に参ります!」
「ええ分かったわ」
職員が部屋から出て行き、部屋にはルーテシアとユーリシティアの二人だけが残される。
嫌われてはいないのだろうけど、気まずい空気が流れる。
「ごめんなさいね。私、人付き合いとか苦手で……。こういう時、気の利いた話でも出来たら良かったのだけど……」
「僕も昨日あんなことしてすみませんでした。いきなり抱きついたりして馴れなれしかったですよね……」
「ふふっ。恥ずかしかったけど悪く無かったわ。友達というのも良いわね」
ユーリシティアが微笑む。
いつもツンとしていてクールな印象が強い彼女だが、そんな彼女の笑顔は一段と輝いて見えた。
「じゃあもっと仲良くなる為にユーリ先輩の事もっと知りたいです!」
「私の事?」
「はい!」
そう言うと話したくない事でもあるのだろうか、彼女の顔が曇る。
「あ、あの。話したくないなら別に話さなくても……」
「いや、別にいいの……。ただ誰にも自分のこと話したこと無いから。でもルーテシア、あなたには話してもいいと思ってる」
覚悟を決めたのかユーリシティアは一度深く呼吸をし、話し始めた。
「私たち一般的に森人族と言われる部族は大陸の南の森深くに住む少数民族よ。特徴としてはこの耳ね」
ユーリシティアは自分の耳を指を指し、自身の家族、特に病弱だった妹の事をたくさん話してくれた。
森での暮らしや幼少期の思い出、それらを懐かしむかの様に遠い目をする彼女の横顔はとても悲しそうだった。
「まあ、私の話はこんなところね。次はルーの話を聞きたいな」
「僕ですか?」
「うん。私もルーのことたくさん知りたい」
さて困った。
全部本当の事は話せない。
えーっと?今の自分は人間ではなく淫魔という悪魔で実は男、さらに今あなたに好意を抱いています。
こんなの全部どころか一つも本当の事言えないじゃないか!?
となれば自分の事ではなく家族のことを話題にする他ない。
当然、淫魔という事を隠してだが。
「じゃあ、僕の子どもの頃の話でもしますか?僕にはリリラルカというお姉ちゃんが一人いて……」
子どもの頃の姉、リリラルカはそれはもう超が付くほどおてんばな性格だった。
暇を持て遊べばイタズラはするし、思いついた事は直ぐにしないと気が済まない子どもだった。
まあそれが原因で今の自分がいるし、みんなを困らせるけどどこか憎めないそんな姉はルーテシアの自慢の姉だった。
「あの時のお母さんは怖かったなー……。結局は姉と僕で化粧品の片付けをさせられて、そのあとまた説教だもの」
「仲が良いのね。素敵なお姉さんとご両親じゃない」
「うん、そうだね。僕は家族が大好きだよ」
お互いの家族のことに花を咲かしているとそこそこの時間が経っていたのか、気づいた時にはドアがノックされて二人のギルド職員が部屋に入って来た。
一人は昨日ルーテシアを冒険者に登録してくれた受付のお姉さんで、きっとこの人がイーファと呼ばれる女性なのだろう。
もう一人は男性の職員で身なりから立場のある人間ということが分かる。
顔を見合うとお互いに動きが止まった。
「「あっ」」
やばいやばいやばい!!
この人昨日店に来てた人じゃん!?
「アーノルド代理。ルーテシアさんと顔見知りですか?」
「え?い、いや、は、初めてだよ?」
名前も昨日聞いたアーノルドという名前だし間違いない。
何で昨日相手をした客がギルドの偉い人間なのだ?
運が悪いとしか言いようが無い。
「ルー?」
「え?いやいや何でもないですよ?」
「何で敬語?変なの」
ダメだダメだ。
あれはアーノルドの夢だったとしても彼の中では自分と致しているという認識がある。
そんな事がユーリシティアにバレたら確実に軽蔑される。
それは何としても避けなければならない。
ふとアーノルドと視線が合う。
とにかく何とかしないといけないという焦燥感がルーテシアを襲う。
(昨日の事バラしたら殺す!!)
気づいた時にはルーテシアはアーノルドに向かって強烈な殺気を放ち、彼を牽制した。
その瞬間に彼の顔は青ざめ、額からは一筋の汗が流れた。
それでもアーノルドは負けじとルーテシアを睨みつける。
その目には確固たる意志が宿っていた。
彼にも昨日の事をバラされたく無いという思いがあるのだろう。
となればお互いの利害は一致する。
ルーテシアは彼に向けていた殺気を収め、目でサインを送る。
アーノルドもルーテシアの意図を理解したようで、同時にお互い頷いた。
「あ、あの。ちょっとお花を摘みに行って来ます!」
「え、あ、はい。どうぞ」
「ルー、気分が優れないのなら無理をしなくても大丈夫よ?」
「いえユーリ先輩。さっきどうやら水を飲み過ぎたみたいで……」
「なら良いけど……?」
怪しまれない様にトイレに行くと告げ、席を後にする。
その時にアーノルドにもついて来る様にと目で訴える事を忘れてはいない。
部屋を出た後、ルーテシアはアーノルドが来るのを待った。
どうするかアイデアは思い浮かばないが、とにかくアーノルドの口を塞ぐ必要がある。
彼を待っている数瞬の間、様々な感情がルーテシアの頭の中を駆け巡った。




