第十三話 るーちゃんとの再会
ちょっとだけ卑猥な表現があります。
ああ、ついやってしまった……、とアーノルドは独りごちる。
昨日、気がついた時には自分はあの子に手を出していた。
イーファという婚約者がいるというのに、一回りほど歳が離れているであろう少女に自分と体を重ね、己が欲望を吐き出して彼女を汚してしまった。
「大丈夫ですか?アーノルド代表代理?」
「ん?あぁ……。大丈夫だイーファ」
「昨日の今日では無理かも知れませんけど元気を出してください。みんな心配してますよ?」
心配そうに自分を見るイーファを見るとアーノルドは彼女に対する罪悪感と昨日のあの子の言葉が脳裏に浮かぶ。
「悩みや思いは共有しろ」か……。
「なあイーファ。今言うのは間違ってると思うが、俺はお前に出会えて良かったと思う」
「な!?今更何を言ってるんですか!?」
突然の告白に前を歩くイーファは立ち止まり、こちらに振り向いた。
「それからたくさん迷惑をかけると思うが、これからも一緒にいて欲しい」
「……ええ。私たちは来年夫婦になるんですもの。私はあなたと一緒にこれからも隣を歩いていきますよ」
イーファと言葉を交わし幸せを実感する。
硬くなっていた表情も次第に柔らかくなり、自然と笑みが溢れるようになった。
「良かった……。やっと笑いました。昨日、帰ってくるのが遅かったですけど良い気晴らしが出来たみたいですね」
「え?き、昨日?あぁ、まぁ、良い気晴らしが出来たかな?」
アーノルドの顔に一筋の冷や汗が流れる。
心臓も一度ドキンと高く脈を打ち、鼓動が早くなる。
その様子をイーファに見られるが特に何かを疑う様子もなく、また歩き始めた。
「朝言った通り、これからゴールドランクの冒険者たちに特別依頼を出します」
「ああ」
「これ以上被害が出る前に原因を特定して排除しないといけません」
昨日、このエンデル冒険者ギルドに登録しているある冒険者のパーティが全員気を失っている状態でダンジョンの大森林エリア、通称「魔の森」にて発見された。
幸い全員命に別状は無いが、パーティの一人が今も昏睡状態である。
外傷も首元に針で刺したような小さな傷が二つあるだけで、特に目立った様子はなく、精神魔法を掛けられた痕跡もない。
他のパーティメンバーから話を聞いてもいまいち要領を得ない。
背後から突然襲われたとか、気がついたら病院のベッドの上にいたとか、そういう証言しか得られなかった。
一番事情を知ってそうな被害者の女性もまだ目を覚さない。
まさに八方塞がりという奴だ。対応のしようが無い。
最近、モンスターが活性化するなど予兆のサインはあったのだ。
そのサインを見逃した責任は自分にある。
「それで?このゴールドランクの俺に依頼したいと?」
「ええ、クリスフォードさん。依頼は二つ。一つは昨日、冒険者パーティを襲った襲撃者の特定及び捕縛。そしてその襲撃者が魔物だった場合、その魔物の討伐。この二つです」
「了解した。何よりイーファさんからの指名だ。完遂してみせよう!」
「クリス。イーファじゃなくギルドからの依頼だ。あと、勝手に彼女の手を握るな」
依頼を快諾したクリスフォードはどさくさに紛れてイーファに手を握っていた。
腕は良いのにこういった女性関係にだらしの無いのがこのクリスフォードというゴールド冒険者である。ちなみにちゃんとした彼女もいる。それなのにこれだ。
「おっと、すまない。綺麗な女性を目の前にするとつい手を出してしまうものなのでね、失礼した。アーノルド代表代理」
ちょっとしたトラブルもあったが大半の冒険者に依頼を出すことが出来た。
どの冒険者も依頼を快諾して貰ったので一先ずは安心だ。
「あと残すゴールドランク冒険者はユーリシティアさんだけですね」
「あの白雪姫か……。彼女、人と関わるのに消極的だからなぁ」
「ユーリシティアさんはきっと依頼受けてくれますよ」
「何かあったのか?」
「会えば分かります。今日もあの子と一緒だとの報告を受けてますので……」
「あの子?」
程なくしてユーリシティアがいる面談室の扉を開けると白雪姫と称される銀色の髪が特徴のゴールドランク冒険者であるユーリシティアとその隣には金髪がよく映える一人の少女がいた。
「「あっ!?」」
二人同時に驚いた声を出す。
「アーノルド代表代理。ルーテシアさんと顔見知りですか?」
「え?い、いや、は、初めてだよ?」
見間違うはずもない。
彼女は昨日、アーノルドが行ったお店にいた女の子だった。
何でここに居るのか分からないが、武器や防具を装備しているところを見ると彼女も冒険者なのだろう。
「それでは今回の依頼についてお話しします」
「ええ」
ルーテシアと呼ばれた少女も動揺しているのか、イーファの話しが全く入って来ない様子だ。
自分もどうしたら良いのか分からない。
ふと昨日の少女との行為が頭に思い浮かぶ、
触れると絹の様に滑らかな美しい髪。手に吸い付く様な柔らかい白い肌。そして甘い果実の様な赤い唇。
どれも触れる度に耽美である。
(いかんいかん!イーファという女性が居ながらこの体たらく……。これじゃあ彼女を裏切っているみたいだ……。というかこの事がイーファにバレたら怒られる!いや、確実に殺される!!)
様子を探るように彼女を見ると彼女もまたこちらの様子を伺っている様だった。
ふと目と目が合う。
その瞬間、もの凄い殺気が彼女からアーノルドの方に放たれた。
(昨日のことバラしたら殺す!!)
言葉は必要ない。
目だけでそう言われている。
(俺だって昨日のことをバラされたらイーファに殺される!!)
こちらも負けじと目だけで少女に訴えるとどうやら思いが通じたのか二人同時に頷いた。
「あ、あの。ちょっとお花を摘みに行って来ます!」
「え、あ、はい。どうぞ」
「ルー、気分が優れないのなら無理をしなくても大丈夫よ?」
「いえユーリ先輩。さっきどうやらお水を飲み過ぎたみたいで……」
「なら良いけど……?」
そう言い残すとルーテシアと呼ばれた少女はアーノルドの方に向かって目配せをし、席を立ち部屋から出て行った。
どうやらついて来いと言っているみたいだった。
「すまないイーファ。俺もちょっと腹の調子が……」
「ノルドもですか?もう、仕方がありませんね。早く戻って来てくださいよ?」
「ああ、分かっている」
急いでアーノルドも部屋を出て彼女を追いかける。
ルーテシアと呼ばれた少女は部屋を出てすぐの場所で自分を待っていた。
「話があります……」
「ああ、分かってる……」
人に聞かれては不味い話なので普段利用しない倉庫に二人で入った。
この倉庫はこの建物の奥ばった場所にあり、音も漏れにくい。
倉庫は久しぶりに人が入ったのか剣や防具に薄らと埃が被っており、少しカビの臭いがした。
「要件は言わなくても分かっていますよね?」
「やはり君は昨日の……。るーちゃん?」
俺の言葉を遮る様に少女は俺の背にある壁を殴る。
顔面を掠る拳撃はそのままけたたましい音と共に壁に穴を開け、その勢いのせいか壁の八方にヒビが入った。
「これからはルーテシアとお呼びください……。返事は?アーノルドさん?」
「はい!分かりました、ルーテシアさん!!」
命の危険を知らせるアラートがアーノルドの脳内に最大級響き渡る。
こいつは相手にしてはいけない。
気がつけば年下の可憐な少女に向かってまるで軍の上官にする様な直立不動の姿勢で敬礼をしていた。
「分かれば宜しい。あと昨日の事ですが、誰にも言ってませんよね?」
「当然であります!」
「宜しい……」
あらかた彼女の尋問が終わるとある程度納得したのかルーテシアの殺気が収まる。
そして殺気が収まったかと思うと少女はいきなり座り込み、こちらを見上げ一筋の涙を溢した。
「お、おい!?いきなりどうした!?」
「グスン……。アーノルドさんは昨日の事あまり覚えてらっしゃらないのですね?」
「え、いや?まあ、途中まではハッキリと覚えているのだが、正直その……、君と一緒に"寝た"のはあまり……」
そうまるでひどく酔っている夢の中にいる様な感覚だった。
彼女のメイド服をゆっくりと脱がし、その顕になった乳房を手で包むこみ、彼女の口を唇で塞ぐ。
その時の彼女の表情はなんとも艶めしく、その顔を見るとアーノルドは止まらなくなっていた。
それからは意識がハッキリとするまで目の前の少女を求め続けた。
そして目を覚ますとあの店のオーナーであるメルフィーナと名乗った女性が俺を見送ってくれた。
思い返してもあれが現実なのか夢なのかよく分からなかった。
「ひどいです……。僕、あんなにも嫌がっていたのに……。そんな僕にあなたは無理やり乱暴を……」
「ちょ、ちょっと待て!?君はあの店の従業員じゃないのか!?」
「僕はただあの店で世話になっているただの一般人です!たまたま手伝いをしていた時にあなたがやって来て……。メルフィーナさんがいないから仕方なく代わりに接客したに過ぎません!」
何という事だ……。
自分はあの店の従業員でない無垢な少女に手を出したということなのか?
「僕はあれが初めてだったのに……。これでは僕の思い人にこれからどう接しれば良いのか分かりません!」
「は、初めて!?」
思い人がいるということは恋人と結ばれる前に自分が彼女の純潔を奪ってしまったという事なのだろう。
あの時は酷く酔っていたとしてもそれが理由で許される訳がない。
「すまない事をした……。許される事では無いのは分かっている。だが俺にもその……、婚約者がいてだな。俺に出来る事は何でもする!だから何とか穏便に事を済ます事は出来ないだろうか?」
「本当に何でもする……?」
「ああ!男に二言は無い!!」
何を言われるか分からないがこうする事で許されるなら、彼女に贖罪出来るのなら、自分が出来る事は何でもしてやろうと思った。
まさか女性問題でこんな事になるとはつゆにも思わず、女性に対して紳士であるというアーノルドの矜持は粉々になった。
アーノルドも女好きのクリスフォードと何ら変わらない男だったという訳だ。
あーあ、戻れるのなら昨日に戻りたい……。
最初から自分の悩みをイーファに打ち明けていればこんな事にならなかったはずなのに……。




