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あらま、姉妹ですか?


「うふふ、お久しぶりね。雛恵、白川のご子息とのことは残念でしたけど、私がそれ以上にいいご縁があることを保証するわ」

「お元気そうで、なによりです……麗佳お姉様。ありがとうございます。」


 本当に急な事でした。

 阿佐山麗佳(あさやまれいか)、旧名 四宮麗佳。四宮姉妹の長女から昼食会に招かれたのです。一時間目の終わりに教頭から呼び出され、すぐに向かうようにと指示されました。既に私を迎えに来た阿佐山邸の運転手が校門前に立っていたのには、驚きましたけど。


 確かに、私に直接お話があったとしても、麗佳お姉様から来るようにと言われたら、すぐに向かわないとと学校を自主休講せざる終えないでしょう。実の姉妹でもそう思ってしまうほど、麗佳お姉様は恐ろしい人なのです。


「急な事でしたけれど、四宮の姉妹一同が揃っていただけたことは嬉しいわ。熱いお食事が冷めてはいけませんし、早速いただきましょう」


 そのあと、到着した双子の妹たちが席についたところで、始まった昼食会。

 主催者である麗佳お姉様の言葉と共に並べられる料理。

 相変わらず、麗佳お姉様はフランス料理が好きなことですわね。

 お皿も、机も、多分この空間にあるもの全てがおフランス製のものなのでしょう。

 ロカイユ装飾を多用されたこのお部屋。態々阿佐山様に建てさせたのだろう、邸宅山にあるプティトリアノンのような離宮(べっそう)になんとも言えない気持ちになる。誰も弾かないのにハープも置いてありますし……。いや、もしかしたら、麗佳お姉様始めたのでしょうか。


 作法的にはよろしくありませんが、この離宮に来る度に思わず見回してしまいます。本当に相変わらず理解のできないほど乙女の趣味ですわね。


 緑色のドレスに刺繍された繊細な深緑と金色のと若草模様。美しい白のフリルがなんとも肖像画に出てきそうなローブ・ア・ラングレーズのようなドレスを着て、ポンパドールと美しい編み込みされ纏められた黒髪。麗佳お姉様の趣味は本当に徹底されている。

 そして、それを許してしまう阿佐山様の懐の大きさになんとも言えない気持ちになる。


 まあ、それに付き合わされているのに文句も言えない私たちもどうかとは思いますけど。色とりどりのドレスに身を包んだ姉妹一同を見ながら、溜め息を吐きたくなります。

 

 イタリアにいるはずの志摩姉様でさえも、嫌々ながら紫のワンショルダーの短いスレンダーラインドレスを着て座っていますし。短いのはお姉様への対抗策かしら。


 鶴代姉様は余程ドレスを着るのが嫌だったのでしょう、白の着物に美しく咲き誇る白いユリと青のアイリス、青の矢車草、赤マーガレット、赤ひなげし。フランスの国旗表した着物で赤の帯に青と白の帯紐でだめ押しをしてるほど。


 明子お姉様は目が覚めるような鮮やかな赤のマーメイドラインのドレスですが、ハリウッドの女優顔負けのギリギリ度。Vネックがかなり鋭利にお臍ギリギリまで入っており、背中もお尻のギリギリまでレースでスケスケ。これを着た理由としては明子お姉様はそれが似合うからということなのですけども。麗佳お姉様への挨拶は一番熱が籠っているが、ドレスは本当に正反対である。


 さて、姉たちのように自分達のドレスを用意できず麗佳お姉様の趣味で着飾られた双子の妹達。

 

 フリルがたっぷりでパフブリーフのプリンセスドレスに包んだ双子の桃音(ももね)葵衣(あおい)。まだ中学生の二人は相変わらずお揃いが好きなのだろう活発で元気な桃音はピンク、大人しい葵衣は青の色違いのドレスを着ている。


 そして、私は頼み込み寮の部屋に一旦寄り、去年お母様に戴いた黄色のシンプルなエンパイアドレスを持ち込んだ。

 遅れてもいい、麗佳お姉様が用意したドレスを着たくなかったの。


 並べられていく高そうなフランス料理を行儀よく食べていく。

 美味しいけど、やっぱり家庭料理が好きな私にはなんとなく物足りない。

 周りを伺えば、鶴代姉さまも普段は日本料理の上に、元々食が細いせいか進んではいない。志摩姉さまはイタリアンが好きで、特に手軽に早くなものが好きなせいか、段々と苛立っている。明子姉様はアレでもかなりの辛党、多分現時点で上からスパイスを書けたいのか片手が時々宙をさ迷っている。可哀想になってきた、誰かトマトジュースに胡椒振って渡して差し上げてほしい。

 

 双子の妹たちは、とてつもなく早く完食している。余程最後に出てくるスイーツが待ち遠しようだ。


 やっとのことで、食事が終わった。

 ワインのところで明子お姉様のところに真っ赤なトマトジュース(多分デスソース入り)、チーズでは志摩姉さまが好物のカチョカヴァッロとリコッタチーズ、デザートは双子の大好きな甘い甘いフルーツソルベ。

 鶴代姉さまは人より量が少なく作られていたようで、なんとか完食していた。


 そして、私は食後のハーブティーに感動している最中だ。

 カモミールのハーブティーが好きなのを何故麗佳お姉様が知ってるかは、既に愚問だから疑問に持たない。

 やはり、四宮姉妹の中で一番お嬢様な麗佳お姉様。本当にすごい。

 

 ただ、これが束の間の平穏だということもわかっている。誰よりもお嬢様な麗佳お姉様が、こうして私達を呼んだのだ。


 お茶会は、戦闘の場。

 お母様達からそう教わってきた私達にとって、そのなかでも一番強い長女の呼び出しというのは、本当に恐ろしいのだ。


「うふふ、本当にここ最近は色々とお話を聞く機会が増えたわよね、鶴代」

「ええ、そうですわね……」

「鷺沼様と結婚するのでしょ?おめでとう。結婚式は皆に祝われる素敵な場よ、私ももう一度義典様と挙げたいくらいだわ。それに妹たちもこれから結婚致しますでしょ。是非、お手本となる結婚式、憧れる結婚式に致しなさい」


「は、はい……」


「思えば、鷺沼様の弟は雛恵と同い年だったかしら?」


「そう、でしたわね」


「そうだったわよね、まだ私の記憶力も侮れないわね。ありがとう」


 鶴代姉さまの顔が少し青ざめている。次の結婚式、何か不安定要素でもあるのかしら。

 もう言うことはないのか、麗佳お姉様は、双子の妹の方に顔を向けた。


「桃音、近々婚約者が決まるわ。それまでにはもう少し自立しなさい」


「認めてないもん!!私は結婚しない!」


「あら、そう??」


 余程婚約者が決まったことが嫌なのであろう、横にいる双子の葵衣に桃音は抱きつく。確かに、婚約については私のこともあり、印象としては最悪なものでしょう。

 それに、生まれてこの方桃音は葵衣にベッタリでしたし、婚約すればそういう訳にもいかなくなるでしょう。どうしても。


「葵衣もそろそろ覚悟を決めなさい。わかったわね?」


「は、はい……」

「あら、どうしたの?声が掠れているわ、ハーブティーでも飲みなさい。風邪かしらね、困ったものだわ」


 桃音から葵衣に矛先を変えた麗佳お姉様は、相変わらずお美しいお嬢様だ。葵衣の顔が幾分か悪くなる。風邪じゃないって、麗佳お姉様はわかってるはずなのに。声変わりだって、葵衣は気にしているのに。


「うふふ、志摩、アルグレロ様はお元気かしら?」

「ああ」

「本当に、けれどイタリアに戻ってすぐお仕事というのは酷くないかしら?私達に会いに来てもよくなくて?」

「……そうだね」

「もうっ。そうそう、お父様にあった?志摩にお話ししたいことがあるそうよ」


 志摩姉さまは麗佳お姉様がとても苦手としていて、今も苦虫を噛み潰したような顔をしている。


 このあとはすぐに解散となり、私と明子姉さまはほっとした表情を浮かべる。

 ささっと、車に乗り込み、寮に帰宅した。


 麗佳お姉様は、本当に誰よりもお嬢様だわ。嫌味と思わせない技術。貴方のことを知ってるのよ、という諜報力。そして、効果的な時期にそれをやり遂げてしまう力。

 

 だから、苦手。ささっと着替えて、コンビニに向かう。今日、彼がいたらいいのに。

 そんなことを思いながら、自転車に乗った。










「明子、お待ちなさい」

「どうしましたか、麗佳お姉様」


「高校、白川さまのご子息様と一緒でしたわよね?」


「え、ええ」


「では、何故白川さまのことをすぐにご報告しなかったの?」


「いや、生徒会が忙しくて……」


「あら?そうなの?白川さまの噂を、知らないくらい忙しいだなんて、生徒会も大変なのね」

「あはは……」


「でも、白川さまも生徒会でしたわよね?」


「……ええ」

 

「うふふ、それなのに気づかないほどでしたなんて。別の学校に通ってる雛恵は知ってたみたいなのに。誰かしらね、雛恵に教えたのは」


「さあ」


 もう、つまらない嘘をつかないの、明子。


 麗佳は先程三女に当たる明子と車中で会話した内容を思い出していた。

 明子がやってしまったことは、既に調べがついている。昔からあの子は雛恵のことを嫌ってましたし。けれど、雛恵はそのことさえもどうでも良く、自由を手に入れたことを喜んでいるようで、本当に喜劇だわ。


 それにしても、雛恵が初めてお熱をあげている相手についての調査報告が今日届くのよね。

 自由を手に入れたと思ってるのでしょうけど、私の妹としてそれ相応の方と結婚していただかないと、桃音の婚約に響いてきたら困りますわ。


 葵衣もそろそろお揃いのドレスを止めるように言わないといけない。桃音の婚約が纏まったら、葵衣の婚約者を決めなければならないのだから。

 何人か、令嬢の候補はあがってますから、すぐ決まるとはおもいますけど。


 それにしても、鶴代も志摩も、あの子達はどうしてこうも我が家を巻き込もうとするのかしら?

 

 兎に角、私の妹たちは、考えが甘すぎるわ。もっと、確りして貰わないといけないのですから。


「奥さま、阿佐山様のお帰りです」

「わかったわ」


 麗佳は、ゆるりと、優雅に、玄関に向かった。





姉妹揃いました!!

さあ、皆様は誰が好きですか?

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