ご招待
大体さあ、とアレクサンダーが言った。
「何でミッシェル、騎士科なワケ?お前の父親宰相じゃん。俺と同じ、政治経営科が普通じゃないの?」
「いや俺、剣振り回すしか能がないから。弟が優秀だからさ、家は任せる。」
ミッシェルは騎士科、モーリスは魔術科。そしてカイルは安定の教養科である。
「だったらさ、ミッシェルだけが授業中もジュディと一緒、って事だよね」
視線だけで専攻変えろ、と睨まれる。いや、次期国王が騎士科に進める訳ないだろ、と全員が心の中で突っ込む。
あのさあ、とミッシェルが呆れたような声を出した。
「俺はね、アレクの近衛騎士になんの。それが3年前からの夢。だから騎士科。そこは譲れないね」
「あ、俺もおんなじ」とモーリスが続けた。「俺も魔術騎士団には入らない。ずっとアレクと一緒。近衛魔術師になるから、覚悟しといてよね」
え?そうなの?と、アレクサンダーは照れ笑いを浮かべた。「じゃあ、宰相は?」と尋ねると、ミッシェルとモーリスが声を揃えて「カイル一択だろ!」と言った。
「面白くなるだろうな。無能…失礼、特技のない連中の吹き溜まりと言われる『教養科』からの初宰相だぜ?」
「さぞかし皆、カイルを見くびるんだろうな、そして、足元を掬われる、と」
ミッシェルとモーリスの会話をカイルは面白そうに聞いている。
ああ、いいなあ。ずっとこいつらと一緒か。そして、ジュディは俺のよ………よ………嫁…………
妄想が滾って、アレクサンダーは右頬をぺたりと机に預けた。執務机の重厚な冷たさが頬に心地よい。そして閃いた。
「あ!じゃあさ!ジュディに声かけて。『王子部屋』に顔出して欲しいって。ここで会えれば学科違っても関われるだろ?」
ああ、いいよ、と気軽に返事をしたミッシェルに、もし心細いようなら友人誘ってもいいから、とアレクサンダーが続けた。
「………アイツが、1人で心細がるようなタマかよ」とミッシェルが答えると「でもさ、綺麗どころが増えるのは歓迎かな。ここ、むさ苦しいもんね」とモーリスが返した。
「ジュディ、まだ学院内に居るかな」
時計を見ると疾うに5時を回っている。
「居るんじゃないかな。寮じゃ剣振り回せないから。多分、演習場」
「分かった。じゃあすぐ行って。返事は今日でなくともいい。明日の朝まで待つ、と」
どうだ、俺って懐が広いだろう、と言わんばかりのアレクサンダーのドヤ顔に、カイルが目を瞑って頭を振った。
「OK、じゃあジュディに会えたら直帰するわ。会えなかったら女子寮にメッセージ渡しておく」
そう言ってミッシェルは王子部屋を退去した。
案の定、ジュディスはまだ演習場にいた。夕陽を浴びて、綺麗なステップを踏みながら素振りを繰り返している。頬が紅潮して軽く汗ばんでいた。「…………アレクが惚れるのも無理はないんだけどな」そう思いながら、また、ジュディはどういう将来を目指しているんだろう、とミッシェルは思った。
卒業しても王都に留まって、王都で働いてくれたら嬉しい。一緒の近衛騎士になってくれたらきっと楽しいだろう。その時、不意にかつての国王陛下の言葉が蘇った。
「アレクサンダーと同い年か。それならば、ゆくゆくは王太子妃の護衛を任せる日が来るかもしれない」
陛下は、最初から末席のジュディを婚約者候補としては見ていなかった。その日がやってきた時のアレクサンダーの心情を思うと、ミッシェルの胸が少し痛んだ。痛みはしたけれど、まあ成るようにしか成らないし、成るなら成るだろう、とあっさり筋肉で考える。
「ジュディ!」
声をかけると、ジュディスが顔を上げてにっこりと微笑んだ。
「やあ、ミッシェル。相手をしに来てくれたのか?」
一瞬筋肉が「おう!」と答えかけたけれど、今日は使命があったのだ。「いや、実はさ、アレクから伝言があって」
アレクから?とジュディスは不思議そうに首を傾げた。入学式以来、ミッシェル以外とはまだ口を聞いていない。「アレクから、何て?」重ねて問われて、ミッシェルは先刻の件りをジュディスに伝えた。
「う、ん。………正直、荷が重いな」
2つ返事で了解されると思っていたミッシェルは慌てた。
「俺だって困ってるんだよ!助けると思って。俺だけ騎士科で、ジュディと立ち合ってるからって、アレクが拗ねて大変なんだ!」
アレクが?およそ「拗ねる」などと言う感情とは無縁そうな王子様に対する形容にジュディスはくすりと笑った。
「朝とか、放課後とか、時間ある時ちょっと顔出してくれるだけで良いから!そしたらほら!アレクでもカイルでも、時間ある時ジュディに付き合えるから!」
それは、確かに魅力的だな、とジュディスが呟いた。
「返事は明日の朝まで待つって言ってたし!」
「………随分と急だな」
いや、会えたらすぐ約束取り付けて来い、了解貰ってすぐ戻って来い、のあの無言の圧力知らないから「急」とか言うんですよアナタ、とミッシェルも必死である。
「あ、あと!心細かったら友人誘ってもいいって!譲歩も…………」
しまった。ジュディスが引っかかる言い方をしてしまった、とミッシェルは嫌な汗をかいた。
「……………心細い?」
ジュディスが綺麗に笑った。そして「王子様が、私が心細かろう、と譲歩して下さった、と」
いや、案外イケる?とミッシェルは思った。
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