衝撃のセシリア
夕食のテーブルで、ジュディスは柄にもなく小さなため息を漏らした。
「………ジュディス様?」
自称「ジュディスファンクラブ会長」のルシアンナが目ざとくその様子に気づいて声をかけた。
「何か、ありましたか?」
ふふ、と笑ってジュディスが答えた。
「………私も馬鹿だな。つい売り言葉を買ってしまった」
一体何が、と尋ねるルシアンナに、ジュディスは一連の流れを伝えた。
「ああ、そうだ。友人も誘って良い、と。心細いだろうと言われて反射的に『大丈夫だ』と返事をして。結果的に了承する形になってしまった。ルシアンナは興味はある?だったらいっそ友人連れで伺った方が意地を張っていると思われなくて済むだろう」
え!いや無理無理無理!無理です!!と、ルシアンナは頭をぶんぶんと振った。
「アレクサンダー殿下に、宰相のご子息のミッシェル様、魔術師団長のご子息のモーリス様、そして王族のカイル様でしょう!?とてもじゃないですけれど、身分が違い過ぎます!分不相応です!」
分不相応、の言葉にジュディスの瞳が揺れた。
「それに、私はジュディス様と同室になれた事だけで十分幸せなんです!これ以上欲張るつもりもありませんわ!」
「私と同室になった事で、揶揄われたり嫌がらせをされていない?」ジュディスの言葉にまたルシアンナは首を振った。「ちっとも!勿論、羨ましがられるのはしょっちゅうですけれど、それはそれで中々気分が………」
こほん、と咳払いをするルシアンナ。
「そうだね。私も男装を許されて、こんなに可愛らしいルームメイトにも恵まれた。欲張るのは辞めておくよ。やはりこの話はなかった事…………」
「話は全て聞かせて頂いたわ!」
どどーん、という効果音を背負ってセシリアがジュディスの言葉を遮った。セシリア様!とすかさずルシアンナが立ち上がり、ジュディスも立って礼を取ろうとするが、セシリアは手のひらで2人を制す。「そのまま、そのまま」そう言って続けた。
「ジュディス、そのお話、お受けなさいな。寄子の娘の誉は寄親の誉も同然。欲張る?求められているのならその場に赴く事もまた忠義です」
と言うのは建前ですけれど、本音を申しますと私、あの3人に興味がありますの。ですから、友人としてジュディスとご一緒したいんです。
あの3人?とジュディスが尋ねると「ミッシェル様、モーリス様、カイル様ですわ」と返事があった。アレク、飛ばされてるぞ、とジュディスは内心で小さく笑った。
「3年前のあの日、侯爵家の娘とはいえ筆頭だった私は、4人の公爵令嬢達と第一テーブルに座って、一部始終の顛末を特等席で拝見しましたわ。12歳くらいでしたら、大体少女達の方が精神年齢が高い物です。ジュディス、貴女と打ち合うまで、本当に子供だった殿下が、たったの数分で大人になる瞬間を目の当たりにしました。そして、貴女の説明を聞いても、激昂する事もなく、ご自分の甘さを認めていらした。あの日以来の殿下の変わりよう、そして現在のご立派さ。それは誰もが知る所です。ですから、後の3人がどう変わったか、自分の目で確かめたいのです」
「アレク………アレクサンダー殿下って、そんなに人気者なの?」
ジュディスの問いに「そりゃあもう!」とルシアンナが意気込んで説明を始めた。
「老若男女、身分の貴賤を問わず、殿下は大人気ですよ!真面目で努力家、あれだけの美貌を持ちながら浮いた噂の一つもない。それでいて、誰に対しても気さくで穏やかな対応。正直、名前を呼ばれて微笑まれて『また』なんて言われて、卒倒しないのはジュディス様くらいです!」
ああ、そう言えば、「また」って言ってたっけ。ジュディスぼんやりと思った。
「それで!いつ訪問する事になりましたの?」セシリアが尋ねた。
「…………明日の朝。一限前に顔を出して欲しい、と」
それはまあ、何とも急です事、とセシリアは呟いたけれど、「分かったわ。じゃあ、明日、一緒に伺いましょう」と言い切った。なんとなくセシリアに押し切られた感はあるけれど、ジュディスも実は4人とまた顔を合わせる事ができると思うと、心が弾んだ。
翌朝。
王子部屋のドアがノックされて、4人は顔を見合わせた。
「………良くやった。ミッシェル」言葉少なにアレクサンダーがミッシェルを褒める。モーリスがドアを開くと、まずセシリア、そしてジュディスが部屋に入って来る。女性がいるのでドアは開かれたままだ。
「セシリア・カミーユ・ノーザンカレントにございます。ド・ラ・ローシュ嬢の友人として同道致しました。アレクサンダー第一王子にはご機嫌麗しゅう。ご挨拶申し上げます」
そう言って綺麗に片膝を折る。
「あ、いや。この部屋では畏まる必要はない。ノーザンカレント、侯爵家のご令嬢だね。俺の事はアレク、と」いえ、そんな訳には、と辞退しようとすると「ジュディも俺の事、アレクって呼んでいるし」ね?とアレクサンダーは綺麗な微笑みをジュディスに向けた。ははーん、とセシリアの研ぎ澄まされた観察眼がアレクサンダーの視線を追った。
「声をかけてくれてありがとう、アレク。それから、モーリスとカイルともまた会えて嬉しい。ただ、今日は一限は屋外の実技なのであまり時間がないんだ」
ジュディスはそう言ってミッシェルを見た。アレクサンダーがミッシェルに冷たい眼差しを向けた事には気づかない。
「分かった。放課後、また顔を出してくれ。邂逅を懐かしもう」
アレクサンダーは机に両肘を突き、両手を組んであっさりと言った。やがて、ジュディスの足音が聞こえなくなった瞬間、アレクサンダーは両手の上に顔を載せた。
「あ………朝からジュディに会えて、声が聞けた…………」
え?とセシリアが目を剥いた。これは………一体誰?ってか、何!?さっきまでの怜悧な目元は何処へ。引き締まった綺麗な輪郭は何処へ。手の甲に炙ったマシュマロを載せたようなこの物体は…………
セシリアの体が思わずよろけて、手近にあったソファに倒れ込むように座った。
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