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ヘタれ王子の求婚物語  作者: えるぜ


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8/8

秘密基地

一方が剣を手放した時、もう1人も剣を離し、そこからは肉弾戦になる。それが模擬戦のルールだった。けれど、アレクサンダーは自分の剣を置いた後、ジュディスに向かって言った。


「俺は、貴女から一本、誰にも文句を言わせない一本を本気で取りに行ったけれど、貴女の剣を飛ばす事しか出来なかった。そして、体力戦に持ち込む事は本意ではない。剣を飛ばせば殴り合いになると分かっていても、それが限界だった。だから………貴女の勝ちだ」


片膝を着き、敗者の礼を取ろうとするアレクサンダーに、周囲がどよめいた。


「アレク!格好いい!!惚れる!」


モーリスが大声で叫び、更に風に乗せて周囲に届かせる。俺も惚れた!の声があちこちで上がり、今度は「アレク!アレク!」のシュプレヒコール巻き起こった。あいつら…………敬称も着けないで、と教師陣が頭を抱えたのは勿論である。

ジュディスは地面に突き刺さった剣を見て、礼を取ろうとしたアレクサンダーを止めた。


「実戦で、剣を飛ばされて、女だからと加減される筈もない。敵が、女だからと容赦して殴らないとでも思うか?そもそもまだ剣を持っている時点で圧倒的に相手が有利だ。だから、アレク、君の勝ちだ」


生徒達がひゅうひゅうと口笛を吹いている。「ジュディス様!素敵です!素晴らしかったです!!」とルシアンナが叫ぶと、今度は女生徒達がジュディスの名前を連呼し始めた。

今年の一年生はなかなか手強そうだ、と教師達と事務官が協議を重ねる。「…………引き分け、に致しましょう」やがてそう結論が出た。


審判員の声明に、どっと会場が沸く。皆が熱に浮かされたように円陣に向かって雪崩を打って向かい、アレクサンダーとジュディスを囲んだ。胴上げをしそうな勢いの中、口々に2人に向かって称賛の言葉が注がれた。やがて、狂乱が少し落ち着いた所で、ジュディスはセシリアに声をかけられた。


「やはり、貴女だったのね『鶯の君』は」


セシリア様、と言って礼を取ろうとすると、私の事もセシリア、と読んで頂戴、と返された。


「鶯の君、とは?」


「3年前のお茶会で、殿下から一本取った鶯色のドレスを着た綺麗な少女。あれから暫く令嬢達は貴女の噂で持ちきりだったの。でも、以来全く王都には出て来ないし。………入学前に、父から『ド・ラ・ローシュの娘が同じ学年だ』と聞いた時は驚いたわ。まさか家の寄子だったとはね。灯台下暗しもいい所だわ」


ねえ、ジュディス、それもあって寮に入ったの。ずっと貴女に会いたかった。


「お友達に、なって下さらない?」


心持ち頬を染めて言うセシリアに、ジュディスもにっこりと微笑んで「喜んで」と答えた。

やがて、侍従がアレクサンダーに近付き「第一王子殿下、汗を流してお召し替えを」と囁く。アレクサンダーはジュディスの方を向くと「ジュディ、また!」と笑って言った。そうか、また、があるのか。ジュディスの胸に暖かい物が広がった。



さて、ここ王立貴族学院の中には、正式名称「王位継承者執務室」通称「王子の部屋」が設けられている。国王が病弱だったり、早逝していた場合、摂政を置き、早々に王太子に任ぜられた継承者が学問と政務を同時に行えるように、と設えられた部屋である。けれど、実際にはそのような事例はごくたまにしか起きない。「王子の部屋」は、代々王子達の秘密基地として存在していた。

シャワーを浴びて、さっぱりとした服に着替えたアレクサンダーは、形ばかりの執務机に座ってにやけていた。室内にはソファや座り心地の良い椅子が点在し、呆れたような表情のミッシェルとモーリスが座る。カイルはお茶を淹れていた。何でも最近王弟がハマっていると言う「お茶を淹れる道」を伝授されたらしい。


「………紅茶に、道、ねえ。良く分からんわ」


モーリスの呟きに「そんな事より!」とアレクサンダーは声を挙げた。


「ねえ、お前らも見たよね!ジュディの格好の良さ!」


「まあ、確かに随分強くなっていたな」とミッシェル。「それに、綺麗になっていてびっくりした」とモーリス。


「聞いて聞いて!ジュディも俺を忘れてなかった!俺がジュディを覚えていると知ったら『覚えていたのか』だって!忘れる訳ないじゃん、ねえ!」と、机に突っ伏した。そしてすぐさま顔を上げると立て続けに語る。「『忘れた日はない』って、俺、頑張りました。自制しました!そしたらさあ『執念深いな』って笑顔で!ああ、あの笑顔が憎い!」また突っ伏して拳でだんだんと机を叩き始める。

…………ここまで壊れるとは思わなかった。3人は一瞬目を合わせるとアレクサンダーに向けて憐れむような視線を送った。


「それでさあ!」


まだ続くんかい、と全員が心で突っ込む。


「ジュディのリボン!今日も髪結わないで、あの日と同じ、後ろでリボンで束ねただけ。そのリボンがグレイなんだけど、陽が当たる度にキラキラ銀色に輝いて、あれ?これって俺の髪の色じゃん?とか思うともう羽が生えたかと!」


「制服」


一言カイルが言って、丁寧にカップを置いた。


「アレクの妄想を壊してやるなよ」「そうそう、どっぷり夢の中なんだから」2人がカイルを宥めながら、そりゃそうだ。制服は黒、白、グレイの3色で誂えられている。グレイを選ぶのはごく順当であろう、と辛抱たまらん王子様を可哀想な物を見るような目付きで眺めた。

それから凡そ2時間、他の学生達は疾うに家路に着いている。昼食も取れないまま、3人は延々とジュディがああ言った、こう言った、こう切り掛かったらこう返した、ジュディの剣が脇腹を掠めた時には焦ったけれど、その実力が嬉しかった、と訳の分からないアレクサンダーの実況中継、のような物を聞かされ続けるのである。










読んで下さってありがとうございます^_^

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