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ヘタれ王子の求婚物語  作者: えるぜ


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4/8

3年後

余り話し込んでいて、彼女がテーブルに戻ってしまっても困る。アレクサンダーはそう思って、ジュディスが居た方を見やった。彼女は………ただそこに立っていた。空を見上げるように真っ直ぐに背筋を伸ばし、時々吹く風が心地良いのか、穏やかな表情を浮かべている。アレクサンダーは足早にジュディスの元に戻った。


「…………その様子だと、彼らを罰しないようだな。私も出しゃばってしまった。彼らに何らかの責を負わせていたら、随分と後味の悪い思いをしただろう」


ありがとう、アレク。そう言って微笑む。

ああもう、無理。そんなに綺麗に微笑まないで!とアレクサンダーは心の中でもんどりを打っていた。


「いや、全ては俺の驕りのせいだ。自分の甘さを棚に上げるつもりはない」


そうか、とジュディスが頷いた。


「王都には暫く滞在する予定が?」そう尋ねると「いや、今日このまま帰る」という非情な答えが返って来た。


「時々は、王都にやって来ているのか?」


ジュディスは首を振った。


「今回は王室からの正式な招待状を頂いたからやって来たが、うちの領も中々忙しくてね。多分、今度王都に来るのは3年後。…………学院に入学する時になると思う」


アレクサンダーは心の中でがっくりと肩を落とした。


「そうか。ジュディと共に剣を学ぶ日は遠くなりそうだな………」

ただ、とアレクサンダーは続けた。


「驕り昂った自分を戒める為にも、何か、今日を思い出す(よすが)が欲しい。もし…………失礼でなければ、ジュディ、その髪を結ぶリボンを頂けないだろうか」


ジュディスは目元だけで笑った。


「こんな物で良ければ」


するりとリボンが解かれた瞬間、一陣の風が舞い上がって、ジュディスの髪が広がった。ミッシェルが親指を立ててモーリスを見る。モーリスはウィンクで返す。カイルは………微笑んでいる。


その時アレクサンダーは初めてジュディスの瞳がアクアマリンのような、透き通った水色である事に気がついた。そしてその日アレクサンダーは、後に親友となる3人と、恋焦がれてやまない女性(ひと)との出会いを果たした。





3年後。

入学式前日に、4人はアレクサンダーの部屋に集まっていた。


「もう、ジュディは入寮したかな」


そわそわとした様子でアレクサンダーが呟く。


「ジュディ、ジュディ、ジュディ、この3年毎日ジュディがああだった、こうだったって聞かされて、俺もう食傷気味」

「毎日リボン眺めてさ、気持ち悪いったらない」

「案外さ、あんなの子供の頃の一時(いっとき)の気の迷いで、立派なレディになってたりしてな」

「大体、そんなに気になるなら、手紙の一通でも送れば良かったじゃないか。入学前なんて絶好のチャンスだっただろ?」


ミッシェルとモーリスは言いたい放題。カイルは微笑んで2人を眺めている。


「……………負担に思われたくなかった………」


ヘタれ!と全員が心の中で突っ込む。

この3年で、少年だった3人は随分と成長していた。ミッシェル、モーリス、カイルの3人は「MMK」と呼ばれ、それぞれ熱心な派閥を作っていた。MMK、お若い諸嬢はご存知ないだろうが、かつて一世を風靡した「モテてモテて困る」の略語である。


「でも、やっぱり1番人気はアレクなんだよな」面白くなさそうにミッシェルが言った事がある。実際、アレクサンダーは努力した。努力しまくった。先ずはあの日、カイルに謝罪をした。「お前の事、見誤って軽んじていた。申し訳なかった。良ければ、せめて3本に一本取れるようになるまで、俺を導いて欲しい」と。

カイルはにっこりと微笑んで頷いてくれた。

それから随分経って、カイルが一言くらいは返してくれるようになった頃、アレクサンダーは尋ねた事がある。どうして、それ程までの腕を隠していたのか、と。返事は


「面倒」


だった。

ああ、とアレクサンダーは即座に理解をした。父王である現国王は第一王子であったけれど側妃腹、カイルの父親である王弟は正妃腹としてそれぞれ誕生した。当時、どちらが王太子に相応しいか、と国中を二分するような確執があったらしい。けれど、王弟はあっさりと継承権を手放し、その褒賞として王弟という称号(タイトル)はそのままにさっさと領地に引き篭もってしまった。元々が風流人だったらしく「自分は政に向いていない」と花鳥風月を愛で、詩を書き、絵を嗜む日々と聞く。

王宮で叔父達に会うのも年に1、2回あるかないかくらいだった。

ミッシェルの家もモーリスの家も現国王派だった為、今重用されている。けれど、王弟派だった貴族達の中には、王家の血の流れを正妃の元に正し、再び返り咲こうと思っている輩も少なくはない。

カイルは、父親に似ているのだろう。

剣だけだはない。あの日、「ヘタれる」という感情を知ったアレクサンダーは、心も、所作も、表情をも鍛えまくった。次にジュュディスに会う時には決してヘタれないように、と己を律しまくった。そして出来上がったのが、完全無欠、と言われる王子様である。

元々綺麗だった顔立ちは少年から青年へと変わりつつあり、身長もミッシェルに並んだ。魔術もモーリスと並んだ。そして、入学直前に、アレクサンダーは初めてカイルから一本を勝ち取った。


「……凄いな」


カイルの賞賛が嬉しかった。これで漸く堂々とジュディスの前に立てる、とアレクサンダーの胸は高鳴る。


勿論、毎日ジュュディスのリボンを眺めてはため息を吐いている事など誰も知らない。



読んで下さってありがとうございます

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