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ヘタれ王子の求婚物語  作者: えるぜ


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交錯する思い

元々ジュディスは目立つ事に全く興味のない少女だった。田舎育ちで歳の離れた兄が居て。兄が王都の貴族学院から戻って来てからは毎日剣の相手をして貰っていた。

美しく装う事も、いつか王都で立派な淑女になる事も考えた事すらない。

だから、これはジュディスだけの秘密ではあるけれど、あの12歳のお茶会で目立った発言と振る舞いをしてしまった事、それはジュディスにとって誰にも触れられたくない黒歴史だった。いくら子供だったとはいえ恥ずかし過ぎる、そう思っていたのに、再会したアレクサンダーは「忘れた事はない」と言った。

ほんの少し嬉しかった。けれど同時に自重した。これからは目立たず研鑽を積もう、と。

けれども本人が望もうが望むまいが、人を惹きつけて目立ってしまう人種はいるもので、そしてジュディスは自分はそういった類の人間ではないと思っていた。側から(はたから)見ればどう考えてもそれは勘違いなのだが、ジュディスがそう思っているのならば仕方がない。


ジュディスの意識が変わったのは、あの日、騎士科に進みたい、男子学生の制服を着用したい、と国王陛下に願い、それが叶った瞬間だった。

それは目立つだろう、我ながらそう思う。けれど、女性騎士にしか出来ない事、女性騎士が居たならば防げるであろうという事象は山程ある。

自分の名前と顔が知れ渡り、そして、何よりも大事なのは「腕が立つ」と言われる事。目立てば目立つ程、万が一の時に刺客は自分を真っ先に狙うようになる。その隙を突いて護衛対象を護り、その場から離れさせる事が出来る。盾になれる。自分が目立てば目立つ程良い、そうジュディスは考えるようになっていた。入学式でアレクサンダーの模擬戦の相手に選ばれた時もやはりそう思った。それであれば、学院祭でドレスを着て踊るくらい何でもない。

覚えて、私の顔を。そして私はこれからもっと強くなるから。


くすりと笑ったジュディスの腕をデニスが取った。


「花を…………纏って下さったんですね」


「ありがとう、デニス。とても綺麗な青」


そう言ってジュディスがデニスの肩に腕を回した。



「…………セシリア様、ちょっとお話が」


セシリアはルシアンナに小声で囁かれた。


「デニス先輩のお花なんですけどねえ、そのままジュディス様のお髪(おぐし)に差すのはいささかアンバランスで、それで、花束を解きましたの」


さて、ここで物語は少し時間を進める。

本来なら誰も目にする事もないデニスの今日の日記。けれど俯瞰者である我々はあらゆる角度から全体像を眺める事が出来る。謂わば役得。




「

今日は学院祭だった。

部屋に戻った今でもまだ信じられない。

あの、ジュディス嬢と踊った。

『友誼を交わしたい』と言った日から、ごく自然に挨拶をしてくれるようになった彼女、数回は一緒にお茶を飲めるようになった彼女と今日は踊った。

小さな花束を贈った。

どこか、邪魔にならない所に身に付けて貰えれば嬉しいと。

そして、小さな花束を束ねるリボンの下に、細い細いアクアマリンの指輪を忍ばせた。

気付かれなくても良い。

でも気付いてくれたら嬉しい。

そう思っていたら、ジュディス嬢は渡した小花をクラスメイト達に託し、そしてやがて髪に合うように纏められた数本の花を髪に挿した。

綺麗だった。


自分が彼女に相応しいなどと思った事は一度もない。けれどゆっくりと年を重ね、やがて自分に子供や孫が生まれる頃、その時ジュディス嬢はどう生きているのだろうかと想像する。

歴史に名を残す女性騎士として誉を得ているのだろうか。あるいはもっとずっと先、王妃殿下の唯一の心を許せる相手として後宮に君臨しているのだろうか。

その時、王都に連れて、息子や孫に伝えたい。

父は、祖父は、あの気高くも美しい女性と踊った事があるのだ、と。そして、小さな宝石を贈った事があるのだ、と。

」



乙女か!と突っ込むしかない。そして歴史はデニスが想像したようには進まなかったけれど、ポエムにも程がある。

しかしそれを皆はまだ知らない。


「どうしましょう、セシリア様。生花の中にアクアマリンが」


気付いたのはルシアンナだった。


「とりあえずダンスはこのまま。アクアマリンのことはジュディスには知らせずに」


セシリアはルシアンナを買っていた。

言うべきことは言い、報告すべき事は秘密裏に。その判断力には一目も二目も置いていた。ルシアンナは国境に近い領地を持つ子爵家の令嬢で、兄と姉が2人ずついるのだと言っていた。それでも末っ子を王都の学院に送り出す、恐らく家族仲も良い家庭の出だと思われた。もし、学院卒業後も王都に留まりたいと思うのであれば、自分の侍女にスカウト出来ないものか、と密かに狙っている。

モーリスが「婿はいらない」と呆れたように言っていた通り、セシリアは学生のうちから人材集めにも手を広げていたのである。


「……………ピンキーリングね」


セシリアはルシアンナから渡された指輪をつらつらと眺めた。


「弁え(わきまえ)はあるようね。ルシアンナ………一曲目が終わったらジュディスの小指に嵌めてあげなさいな」


他の男と踊るジュディスを直視出来ないヘタれに遠慮をする事はない。それに、デニス・ピーター、案外侮れない。ここで恩を売っておいても損は無いかもしれない、セシリアはそう思った。

カイルの事を「暗黒腹黒」などと言えた立場ではない。



読んで下さってありがとうございます^_^

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