学院祭
そうして学院祭の日がやって来た。
そうは言ってもお坊ちゃん、お嬢ちゃん達の通う学院。お祭りはたった1日である。
「え?じゃあ、セシリアはジュディのドレス、見てないの?」
と、モーリスが尋ねた。
「ええ。作品はクリエイターに任せるわ。でも、責任は全て私が負う。ジュディスが輝く場を作れなければ、ファンクラブの解体も視野に入れているわ」
「漢だねえ」とモーリスが感に入ったように呟いた。
学院長の宣言によって学院祭は幕を上げた。
経営科のアレクサンダーは、相手とのくじ引きをして、相反する経営がそれぞれどちらが領民の為になるかを討論した。討論するアレクサンダーを見たい女子よりも、驚く事に時期国王になると目されているアレクサンダー第一王子の討論は耳目を集め、意外な事に男子学生が多く集まった。
見たい、と言えばカイル見たさに教養科の展示室にも案外と女子生徒が集まったが、残念ながらそこにカイルは居なかった。
ミッシェルは午後のレセプションに備え、モーリスは花火と魔法の打ち上げに余念がない。そして、何よりも集客力があったのは淑女科の淑女喫茶であった。
「男子生徒だけが楽しむ喫茶には致しません」
にんまりとセシリアは笑った。
実を言えば、セシリアが特に何をするでもなく、淑女喫茶は人の波が絶えなかった。何故なら、淑女科のレディ達に給仕されたい男子学生だけでなく、時間さえあれば「王子部屋」の面々が淑女喫茶に屯ろしていたからである。アレクサンダーはもちろんの事、ミッシェル、モーリス、カイル。
「近年稀に見る賑わいに致しますわよ」
セシリアがそう言った先には、なんという事でしょう。黒一色の執事服を纏ったジュディスが令嬢方を迎えているではないでしょうか。
「お帰りなさいませお嬢様」
ジュディスはそう言って微笑んだ。
「お疲れですか?今、お茶をお持ち致しますね」
いきなりのジュディスの登場に令嬢方は狂喜乱舞した。
「………何なの?これ。聞いてないんだけど」
公開討論が終わってひと息つきに来たアレクサンダーが不機嫌に呟いた。
「何でジュディが女給みたいな真似してるのさ」
いや、女給じゃないけどね、と周囲が突っ込んだのはお約束である。
「あら、貴方方男性もこの後のジュディスの女装………もとい、ドレス姿を楽しみにしてらっしゃるんでしょう?だったら私達女子生徒だって、ジュディスの凛々しい姿を堪能したいわ」
「女装!………もとい…」
とアレクサンダーも言い淀んだ。
「ドレス姿は百歩譲って騎士科の企画だろう!どうして淑女科の手伝いにまで駆り出されなきゃいけないんだ!」
あらあらまあまあ、とセシリアは微笑んだ。
「王子様はだいぶお心が狭くていらっしゃる事。大事なのは『今を楽しむ事』ですわ。ジュディスも喜んで協力してくれましたの。ねえ、見てご覧なさいませ」
セシリアはそう言って、ジュディスに促され席に着き、ジュディスにお茶を提供され、まあ、あれはやり過ぎだなとは思いながらも、ジュディスが指で摘んだ小さなお菓子を口に運ばれて赤面する女子学生達を見た。
「一生の…………思い出になるんですよ」
どこか遠くを見たようなセシリアの言葉にアレクサンダーは黙った。
「セシリア、君さあ………」
どこか間延びしたようにモーリスが言った。
「君さ、婿要らなくね?肝の座りっぷりといい、人の動かし方といい、上司の絡め方といい…………」
そうね、とセシリアは笑った。
「私の足を引っ張るような愚鈍な男は要らないわ。………モーリス、貴方の言う通りよ。私は先々養子を迎える事も視野に入れている」
カイルがふと顔を上げたように思えたのは気のせいだろうか、とセシリアは思った。
昼食を済ませ、午後の一大イベント「レディ・ジュディスの舞踏披露」への時間が刻々と迫っていた。
「え?いや、食べなきゃ踊れないでしょう」
そう言って笑うジュディスは周囲がハラハラする程しっかりと昼食を平らげ、それでもその後にするりぺたりとした下腹部のラインに皆が驚いた。
「腹筋って………凄いんですね」と、ジュディス様ファンクラブの1人が呟いた。
「さあ!ジュディスは準備に!用意が出来たら私も見に行くわ!」そう言ってセシリアは手を叩いた。
口は出さない。色はロイヤルブルー。後は任せる。セシリアは大きく息を吸った。
「ジュディス?入るわよ。いい?」
それから約1時間後、セシリアはジュディスが身支度をしている部屋のドアをノックした。
「セシリア?どうぞ入って」
ジュディスの軽い声が聞こえてセシリアはドアを開ける。そしてそのまま動けなくなった。
デザイン担当、着付け担当、そしてメイク担当、全員が目の下に真っ黒なクマを作っていた。けれどそれでもまだ足りないかとでも言うように目を皿のようにして些細な瑕疵を見つけては微調整をしている。
ジュディスは、こんなにも美しかったのか、とセシリアは嘆息した。
ロイヤルブルーのドレスは、襟元に沿って色を薄めて、ジュディスの瞳の色に近くなっていた。そして鎖骨ギリギリのラインで止まる。鎖骨の上を辿ると、ジュディスの瞳の色のアクアマリンと銀色のリボンが重なる。結い上げられた髪は頭頂で銀に纏まる。
あの女学生方言っていた通り、首筋のラインは折れそうな程に細く、そこには何の装飾も無かった。
細いウエストから広がるスカートは優美なフレアを描き、胸元から施された銀糸の刺繍が華やかに広がっていた。
「…………私が男だったらこの場で求婚したわ」
我ながらつまらない感想しか言えなかったけれど、ジュディスくしゃりと笑って「セシリアとなら喜んで」と言った。




