そしてドレスは
「教養科1年!カイル・ユーサー!!」
カイルが軽く右手を挙げた。
「カイル、おま…………チキ券買ってたの?」と、信じられないような表情でモーリスが尋ねた。
「……………何口…………?」今度は地を這うような低音でアレクサンダーが問う。
「ひとくち。悪いね」
言葉通り、本当に悪い微笑みを浮かべてカイルは壇上に向かった。そして、ジュディスと並び立つ。
ああ、いつの間にカイルはジュディスの上背を超していたんだろう、とセシリアは思った。セシリアの中ではジュディスより小柄か、同じくらいの身長だった筈のカイルが、今は少し首を傾げてジュディスを見ている。
「…………カイルがさ、2番人気どころか、アレク抜きそうって、知ってた?」
ああ、そうなの?とアレクサンダーは物憂げに答える。
「誰の1番でも構わない。ジュディの…………1番でなければ」
ああ、そうね、お前はそういう奴ね、聞いた俺がバカだったよ、とモーリスは息を吐いた。
「それではカイル・ユーサー!学院のしきたりに従ってそれぞれ爵位も身分も明文化されないこの場所で。後夜祭での、レディ・ジュディスのパートナーに選ばれた事に対してひと言!」
デニピーどころではない。ここに至って、1番、2番人気を誇る王族がジュディスのダンスパートナーに選ばれたのである。特に女学生達の盛り上がりは異常であった。
「カイル様とジュディス様!ありかもしれません!!」
「推せる気しかありません!なんと言うか、自由恋愛?そんな流れを感じます!」
どよめく周囲に軽く目線を流して、カイルはジュディスの前に立った。そして、右膝を折ってジュディスの右手を取ると、その柔らかく曲がった指先を自身の額に軽く添えた。
「…………恐悦至極」
今度こそ女生徒達から悲鳴が上がった。いや、学校って来てみるもんだなあ、こんなリアル劇場なの見られるんだなあ、と、皆一様に浮かれまくりである。
「カ……カイルのくせに…………」
勿論冷え込んだブースもある。
「カイルのくせに生意気だわ!!」
叫んだセシリアに、うんまあそうだね、ジャイアンになるしかないよね、とモーリスは嘆息した。
けれど、めげない!しょげない!がモットーのセシリアは翌日からは既に精力的に活動を始めた。何しろ、学院祭でのジュディスのドレスを騎士科をパトロンとして好き放題に誂える事が出来るのである。今出来る事を楽しもう!と、気持ちを切り替える。そうでなければ先々が決まっている高位貴族令嬢などやっていられない。そして、昨日のデモンストレーション効果もあって、「ジュディス様ファンクラブ」の会員は飛躍的に増えた。面白い事に、この機に、と参加をした諸嬢には、ジュディス様格好いい!だけではなく、自身の美学の追求のためにジュディスを利用しようとする、そんな好事家も多かった。
「ジュディス様の魅力は」
そんな1人は言った。
「お首の細さです」
おおおお!と令嬢達がどよめく。確かに彼女達はジュディスの凛々しさに目を奪われるばかりに、彼女の首がいかに細くたおやかであるか、そこまで思い至らなかったのである。
「たっ………確かに!あれだけの剣技を誇りながらも言われてみればお首は折れそうな程に細い!」
「手足の長さ、お顔の小ささ、そしてお首の細さ。それらを全て具現化するドレスを、私達で考えましょう!」
………マニアック過ぎる。チキ券に当選した時のあのデモンストレーションは、いささか行き過ぎだっただろうか、とセシリアは軽く頭を抱えた。
「ええと、まずそうね。デザインは微細に渡るから。先ずは色を決めるのはどうかしら」
ジュディス様格好いい!派でも混ざれそうな会話に話を振ってみる。
「ジュディス様と言えば………やはりアクアマリンのような、瞳の色の水色?」
「もしくは、お髪に合わせた金色?」
「いえ、意外と濃紺のようなミステリアスなお色も!」
この辺りも既に最早好き放題。セシリアは自分が学級委員になったような気分だったが、しかしこれは伝えなければいけない。今回でなければジュディスはいつそれを身に纏うのか。
「あのね、今回のジュディスのドレスの意匠なんだけれど…………ひとつだけ、お願いがあるの」
皆が一斉にセシリアを見た。
「アレク………いえ、アレクサンダー王子が、ジュディスに贈った銀色のリボンがあるの。ジュディスはまだ一度もそれを身に纏った事がなくて。それでね、あの、友人としてなんだけれど、ジュディスも気恥ずかしくて纏えないのであれば、私達で髪は銀のリボンで纏めて、そして、ドレスに関しては私は口を出さないわ。貴女たちの力を尽くして、銀のリボンに合う装いを…………」
きええええええーーー!という絶叫が響いた。
「セ………セ………セシリア様!そうなんですか!?アレクサンダー様ってそうなんですか!?」
「え、いや、そんな王子様2人ってそんな倒錯的な!」
「でも、第一王子とジュディス様ですよね?悲恋の予感しかなくてそれはそれで!」
好きな事言ってるわね、とセシリアは心の中でため息をついた。けれど、12歳からのアレクサンダーの気持ちを軽々に口にする事は出来ない。
「友情、友愛、親愛、どういうお気持ちかは分からないわ。ただ、ジュディスは、そのリボンを身に着けるタイミングを図りかねているみたいなの。だから、私達で背中を押してあげたいって」
…………このくらいのお節介は許してね、アレク、ジュディス、とセシリアは思った
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