ノーザンカレント領着到
車寄せから馬車を降りて、玄関をくぐる程の時間もないまま、先程の娘がよく似た婦人の手を引いて走って来た。
「まあ!まあ!まあああああ!セシリア様!」
「ね!お母様、だから言ったでしょう!?セシリア様が意中の方をお連れになったと!」
「おめでとうございますセシリア様。侯爵邸に招かれると言う事は、侯爵様もお認めになられたお相手ですのね!」
娘の方がジュディスの周りを一周、しげしげと全身を眺めて言った。
「そうですね、若干線が細い気は致しますけれど、まだ10代。そしてこの美しさ。この先どんな美丈夫にご成長なされるか!」
「ああもう、侯爵家に婿入りされる日が待ち遠しいですわ!今日は祝杯を挙げなければ!」
「あ、でもセシリア様を行き遅れにはなさらないで下さいね。20歳までにはお越し下さいませ」
母娘の怒涛の口撃にジュディスは口もきけなかった。
「素敵な方でしょう?大好きなんです」
セシリアはそう言ってジュディスの腕に自分の腕を絡めた。
「………‥セシリア、君ねえ…………」
ジュディスが呆れたような声を出した。
「言いましたでしょ?私も『今』を楽しむって」
セシリア、君の楽しみ方は性質が悪い、とジュディスはため息を吐いた。
「大事な乳母君と姉妹同然のお嬢さんなんでしょう?変な期待を持たせて彼女達を騙すような事は………」
「それで!お二人はどこで出逢われたんですか?」
「まあまあ、詳しい話は中で致しましょう。ロージー、あ」と言ってセシリアはジュディスを見た。
「乳姉妹のロザリンド、ロージーですわ。それから、ロージーの母親で私の乳母だったアンナクレア」
詳しい話はまず荷物を運んで、それからね、とセシリアが言った。
侯爵邸に足を踏み入れて、荷物を運び入れる段になってアンナクレアが言った。
「お嬢様がご友人をお連れになるとは聞いておりました。ですからお嬢様のお部屋の東側に準備をしておりましたが………」
何となく口篭った様子でアンナクレアが言った。
「お嬢様のお部屋と東のお部屋は中で繋がっていて、内鍵ひとつ着いておりませんので、お嬢様の名誉の為にも………」
あ!そんな事!?とセシリアが笑った。
「私達は、鍵なんて必要ない間柄なのよ。察しなさいな」
ジュディスが天を仰いだ。
「え、ええ、まあそうなんですか。それならば私どもが口を挟むことでは……ええ、まあ」
気まずい雰囲気を読まずにロージーが尋ねた。
「先程の!お二人はどこで知り合ったのですか!?」
「寮よ」
とあっさりとセシリアが答えた。
寮………?とロージーが思案を巡らせている。
「あの、女子寮を警護する騎士様とか…………いらっしゃるんですか………?」
「いえ、寮生よ」
セシリアの忍耐はそこまでだった。ぷっと吹き出して、それから大笑いをした。
「ごめんね!改めて紹介するわ。こちら、ジュディス・ド・ラ・ローシュ。大事な女友達よ」
女性…………と、アンナクレアとロザリンドが同時にへたり込んだ。
「…………お嬢様…………」
最初に反撃の狼煙を上げたのはアンナクレアだった。
「お嬢様、私共が、可能であるのならばお嬢様が好ましいと思っている男性を婿に、と切実に思っている事はご存知ですよね」
あ、はい………とセシリアが素直に返事をした。
「こんなふうに、ぬか喜びさせるような真似は今後一切辞めて下さい。これではあまりにも…………」
アンナクレアが言葉に詰まった。
「あまりにも、お嬢様がお傷わし過ぎます…………」
これではあまりにも酷すぎます、というアンナクレアの叱責を覚悟していたセシリアは、そのひと言に言葉を失った。
「………大丈夫よ、アンナクレア。そしてありがとう。私もジュディスもね」そしてアレクもカイルも。ひょっとしたらミッシェルやモーリスだってそうなのかもしれない。「私もジュディスもね、今を十分に楽しんで、沢山の思い出を作って、そうして、運命を受け入れる日が来たならば、それを粛々と受け入れようと、ちゃんと覚悟は出来ているの。だから、私の事を思ってそんなに胸を痛ませないで」
鼻を啜り上げてアンナクレアが答えた。
「………分かりました。ようございます。この夏、お嬢様とジュディス様、お二人の思い出をたっぷりと作って差し上げますわ。ロージー!」
「はいな!」とロージーが答える。
「貴女が予定を組みなさい。一瞬たりともお二人を退屈させないよう、このノーザンカレントを十分に堪能して頂くのです!」
あ、いや、私はセシリアとゆっくり過ごせればそれで十分………というジュディスの思いは、口の出す前にセシリアに遮られた。
「頼むわね!ロージー。頼りにしているわ!」
諾、とロザリンドが頷いた。
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気付くまで大変遅くなりましたが、とても嬉しかった、とこの場を借りて
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