↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘタれ王子の求婚物語  作者: えるぜ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/36

ノーザンカレント邸へ

「邪推だ」とセシリアに言われた事が思いの外ジュディスには堪えた(こたえた)。セシリアの言葉はいつも嘘がなく確信を突いて来る。ジュディスは、自分が身分の釣り合わない学友に恵まれた事を感謝しつつも、それに増長してはいけないと考えていた。だから、年齢を重ね、それぞれの立場に立って、自分から距離を置く日がやって来ても、それを当然の事だと受け入れようと考えを巡らせる癖が出来ていた。


いや、結局、自分が傷つきたくなかっただけなんだ、そうジュディスは自嘲した。アレクの事を問われた時も、一瞬胸がつきりと痛んだ。でも、大丈夫。この3年間だけ自由に過ごせれば、この先誰に何を言われようと笑い飛ばせる日が来る。否、来なければいけない。

ぽくぽくと進む馬車の中で、珍しくセシリアも口数が少なかった。多分、ルシアンナが言っていた事が気になるのだろう。


「カイル様と言えば、同じ教養科でカイル様にべったりの公爵令嬢がいらっしゃると聞きました」


セシリアには、その令嬢が誰なのか直ぐに思い当たったようだった。


「…………ラザフォード、ね、多分」


ラザフォードと言えば、筆頭公爵家。カイルの祖母君である前正妃様の実家である。側妃腹の現王が即位されて現在重用はされていないけれど、それでも隠然たる力を持っている。


「ねえ、セシリア」


ジュディスに声をかけられて、はっとしたようにセシリアが顔を上げた。


ぽくぽくとゆっくりと馬車を進めても、ノーザンカレント領には一泊の旅程で到達する。


「セシリアの領地は、随分と王都に近いんだね。タウンハウスも要らないくらい」


にこりと微笑むジュディスに、ええ、あの、とセシリアが口篭った。


「現王の即位と同時に大幅な役職の改変と領地の変更がありましたの。以前のノーザンカレントは、その名の通り、もっと北方にありましたわ」


間があった。


「何か………悩んでる?」


ジュディスの問いにセシリアの瞳に涙が浮かんだ。


「旅の、戯れ事だと思って聞き流して下さいね」


うん、とジュディスが頷いた。


「ジュディスが言った事、ずっと考えていましたわ。カイルは、能力を隠しているって。私見ですけれど、それは多分、カイルの代での臣籍降下を目指しているのではないかと」


そうかもしれないね、とジュディスが相槌を打った。


「公爵家は、元々5大公爵家だったの。今はもう断絶してしまった筆頭公爵家は、この国の始祖王の王弟殿下が発祥の、由緒正しく1番古い家柄。後継に恵まれないまま、養子を、と考え始めた頃、当時のご当主が急逝されてしまって。だから、公爵位も、公爵領も現在王室預かりになっていて…………」


ああ、そうか、とジュディスは思った。

その公爵家を再び興して、カイルを当主にする。その家が次の筆頭公爵家になる。現王にとってもアレクサンダーにとっても、そしてカイルにとっても1番無難で禍根を残さない将来なのだろう。


「ただ、だから………そこにラザフォードのご令嬢が万が一にでも嫁入りしたとすると、力均衡が破れる、と言うか、ラザフォードに取り込まれてしまったら、今までの王弟殿下とカイルの努力は何になるのだろうか、と思うと…………」


大丈夫だよ、と簡単には言えなかった。

大丈夫、カイルはそんなに浅薄な奴じゃない。むざむざ王弟派に力を与えるような婚姻を結ぶ訳がない。

けれど、人の人生は自分の思うままには進まない。今ここで簡単に心配ないよ、とは言えなかった。それに、流石に鈍いと自覚しているジュディスであっても、セシリアにとってカイルが特別な存在なのだと思わざるを得ない。王弟の一人息子と侯爵家の一人娘。前代の王弟派の急先鋒だったラザフォードと、現王一推しであるノーザンカレント。


「…………この世は、思い通りに行かないものだね………」


ジュディスがぽつりと呟くと、セシリアはちーんとハンカチで鼻をかんで顔を真っ直ぐに上げた。


「だからジュディス!私も貴女を見習って『今』を楽しむ事にしましたわ!とりあえず、この夏、ノーザンカレントを思い切り楽しんで下さいませ!」


振り切ったように言うセシリアを見て、強い娘(こ)だな、とジュディスは思った。セシリアと友人になれただけでも乏しい領内の収入を使って、そして家族から是非に、と言われて王都の学院にやって来た価値があった、とジュディスは思った。


一泊の旅程を経て、やがて馬車はノーザンカレント邸の車寄せに近付いた。使用人達が列を成している中、遠目にも良く見える程、物凄い勢いで手を振っている娘がいる。


「あのお嬢さんは、セシリアの姉妹?」


セシリアが一人娘だと知っているにも拘らずついそう尋ねてしまう程の熱烈歓迎ぶりである。


「ああ、あの娘は私の乳姉妹ですわ。母親が私の乳母でしたの。そうね、姉妹と言っても過言ではないかもしれません」


そう言ってセシリアは微笑んだ。


玄関前に馬車を停めると、まずジュディスが馬車から降りた。そしてセシリアを丁寧にエスコートして危なげなく踏み台に誘導する。


「お嬢様!………………ってうお、あ!ええええええ!?」


セシリアの乳姉妹は挨拶もそこそこに邸内に走り去ってしまった。


「誤解されたわね、ジュディス」


と、セシリアが愉快そうに笑った。





読んで下さってありがとうございます^_^

未だにトイレの暖房便座を切れない私が1番のヘタレです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。