お泊まり会
そうして夏休みがやって来た。先ずはノーザンカレント侯爵家のタウンハウスに2泊。ルシアンナも招かれている。
「ね!やっぱりこういう夜は恋バナですよね!」とルシアンナがうきうきと言った。
「こいばな、というのは何かの花なの?」というジュディスの返答に2人が笑った。
「恋する乙女達の内輪話ですわ」とセシリアが答えると「へえ、そうなんだ。セシリアは?誰かに恋していたりするの?」
いや、そうやって頬杖突いて微笑んで聞かないで、と思いながらもセシリアはつい、カ…………と言葉にしそうになった。
「何仰ってるんですか!私達『ジュディス様ファンクラブ』の会員が他の男に目をくれる筈もありませんわ!」
ルシアンナの言葉にセシリアは我に返った。
「そ、そうね。その通りだわ。ではジュディスに尋ねるけれど、貴女には気になる男性はいるの?」
「………………カイル、かな」
長い沈黙の後にジュディスが答えた。ジュディスの言葉に思わず狼狽えたセシリアが尋ねる。
「カイルの、どこが気になりますの?」
「カイルが、自分の有能さを隠している事、セシリアも知っているでしょう?」
それには確かに頷かざるを得ない。
「多分、現国王と王弟殿下の間で宮廷を二分する争いがあったからだろうけれど、王弟殿下はあっさりとその資格を捨てられた。恐らく、カイルは2代をかけて無血のまま王座から退いて行こうとしているんだろう。でもまあ、カイルが公言しない限り、憶測に過ぎないけれどね」
「そっそれは、ただ腹黒なんじゃなくって?ジュディスの言葉を聞くと、まるでカイルがその気になったらいつ牙を向くかもしれない、とも聞こえますわ!」
「そう聞こえたのならすまない。ただね、私はあれだけの人物が自分を押し殺して、それでもいつでも穏やかに泰然と過ごしている、その精神力を尊敬している。それが、カイル気になる理由かな」
「アレクよりも……気になります?」
ジュディスの言葉にはカイルに対する感情に一切の恋情は含まれていない。だからセシリアは素直に問いかけた。
「アレク?それは、これから使えて支えたい男性だから。勿論気にはなっているよ。アレクには真っ直ぐに王道を進んで欲しい。そして、この国を導いて行って欲しい。でも、それはカイルの犠牲があってこそ成り立つ物だから………だから、カイルにもアレクと同じくらい幸せなって欲しい」
ジュディスの言葉に、何故かセシリアは己を恥じた。そして同時にアレクサンダーに対する同情で胸が一杯になった。すっとこどっこいとか思ってすまなかった。ジュディス相手じゃあすっとこどっこいにもなろう物だ。
「ジュディスは、アレクを、その、好きだったりします?」
セシリア思い切って尋ねた。
そうだね…………、とジュディスが感慨深そうに答えた。
「あの日、4人の貴公子達と知り合い、幸いにも覚えていて貰えた。元々、身分の釣り合わない相手に対して田舎の子供が突っ張っただけの話だからね。でも、それでも嬉しかった。アレクに覚えていて貰えて、嬉しかったな」
それは、好き、と言うのでは、と危うく突っ込みそうになったセシリアにジュディスが続けた。
「この厚情と友情は、学生であるたった3年間だけ成り立つ、奇跡のような時間だと思っているよ。だから、つまらない恋心よりも彼らと一緒にいる時間を生涯の思い出として残したい。そしてそれは、セシリア、君もそうだよ」
え?私?とセシリアが尋ねた。
「セシリアと私だって本来友人になれる立場じゃあない。だから、セシリアとの時間もとても大事。セシリアとの時間が削られるなら他の誰かと無駄に付き合うつもりはない」
頬を染めながらセシリアが叫んだ。
「わ………私とジュディスは一生お友達ですわ!共に白髪の生えるまで!卒業したからと言ってそれが変わる訳ないじゃないの!」
ふふ、とジュディスが少し淋しそうに微笑んだ。
「君は君の責任を背負って、やがてはどこか立派な家から婿を取るでしょう?例えばその相手が、自分達と同じ、もしくはそれ以上の相手としか付き合わない、家格が下の家の娘と妻が親しい事に良い顔をしなかったら?」
「そ!そんな相手、こちらからお断りですわ!それに、ジュディスの邪推もいい所!そんなに悪い方ばかり考えていたら、今を楽しめないじゃないの!」
そう、だからね、と今度はジュディスはにっこりと笑った。
「今を楽しめる、この『今』を、私は全力で楽しんでいるよ」
2泊目、前日は社交で同席する事が出来なかったセシリアの両親が夕食の席に現れた。
「成る程!貴嬢がセシリアが夢中だと言うド・ラ・ローシュのご令嬢か!」
闊達なセシリアの父親はジュディス見てかっか、っと笑った。
「お父様!」
セシリアが頬を染めて父親の発言を遮る。
「ジュディス、とお呼び下さい」とジュディスが答えた。
「確かに、何と似合いの2人であろう。貴嬢がド・ラ・ローシュの次男坊であったならなあ。私とて、セシリアの意に染まない婿入りを強要するつもりはないのだ。ないのだが、こうして貴嬢と知り合ってしまうと、いささかハードルが上がるとしか思わずにいられない」
「ジュディス、セシリアと素敵な時間を過ごして下さいね。あの娘は家に帰る度に貴女の話ばかりですの」
「お母様!」
と、またセシリアが赤くなって声を上げた。
「ノーザンカレントは良い所ですよ。是非楽しんで下さいね」
セシリアの母親がおっとりと微笑んだ。
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